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Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと]

Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと] 続・序章 第4話 続・敵と味方がいる幸せ 04/10



 明らかにイズミの機嫌が変わったのは判った。あの初老の男が、「ミハマに敵対している派閥」の重要人物であろうことは明確だった。あんなにあからさまで良いのかって言うくらい。
  そのわりにはサワダ父はいつも通りって言うか、様子が変わらないと言うか……。ナカタ議員の態度から察するに、サワダ父とは友好関係にあるはずだ。

「ナカタ議員って、エライ人?元老院の中で?つーか、そもそも元老院て?そんなにエライの?おかしくない?」

 室内にいる親衛隊員の様子を伺いながら、イズミに耳打ちをした。

「いや、元老院てスゴイだろうよ」
「まずそこがよく判らん。王子様のがエライし。元老院があるなら代議院とかもあるんじゃないの?」
「何じゃそりゃ?そう言う話はシュウジさんとしろよな。元老院がエライのは決まってんだろうが。名目上この国では『王の助言機関』であり、事実上、『統治機関』なんだからさ。独立してるしね」

 何か、子供に諭すような口調のくせに、嫌味たっぷりにそんなこと言われてもなあ。それにしたって、ミハマの方がエライはずなんだが。まあ、サワダ親子問題はあったにしても。

「ちなみに、そこで一番力持ってる人」

 ……他にもっとエライ人はいそうなんだけどな。大体、サワダ父と友好的な関係なのが妙に引っかかる。
  おかしな話じゃないか。立場的には微妙な仲のはずだ。サワダ父は王の義弟に当たるわけだし、王の信頼も厚いって言うし、息子も国を背負って立つような戦士なわけだし。この王宮内での政治的な話で言えば、サワダ父がナカタ議員にとっては一番敵として認識されそうなもんだ。年だって若いし、叩いたらいろいろ埃の出てきそうな人だし。
  どっちも別に、国王になれるわけじゃない。継承権はないのに。
  なのに、少なくとも階下から聞こえるナカタ議員の声からは、サワダ議員への嫌味とかそねみのようなものは聞き取れなかった。
  ティアスのことなんか真っ先に突っ込みそうなのに、彼女の存在などいないかのように話をしていた。

 上から見てると、誰が誰のことを見ていて、誰を視界に入れてないのかが、ものすごくよく判る。吐き気がしそうだった。

「いつもこんなコトしてんだ?」

 軽く嫌味の混じった声で、イズミに突っ込んでみたけど、下の会話に集中してるのか、ちょっと気の抜けた声で返事が返ってきた。

「お仕事ですから」
「いつもそう言うけど、どんな仕事だよ?」
「うちの王子様を守り、彼の望む方へ進むための土台作り」
「これが?」
「何かあったら困るだろうが?」

 そうだけどさ……。何かストーカーみたいだし、いろんなこと知りすぎてて怖い。それに、ホントにそれ関係あるのかって言うところに必死だし。
  サワダとティアスのこともどこまでホントは知ってるんだろう。その情報の出し方も隠し方も、全て「ミハマのため」なんだろうか。

「ま、こんだけ役者が揃っても、王もサワダ議員もいらっしゃるし、面白いことは何もないけどね」

 笑いながらそう言ったイズミを、ちらっと同じ室にいた親衛隊の人が睨んだように見えた。多分、イズミは判ってて言ってるだろうけど。自分が嫌味を言うのは良いのか!?

「なんでサワダ議員?」
「あの方には王もナカタ議員も、シュウジさんですら一目置いてるからさ。ミハマがこんな場で余計なことを喋るとも思えないし、テツもティアちゃんも借りてきた猫みたいで可愛いもんだし?」

 確かにそう言われてから謁見の間の様子を伺ってみると、そう言う風に見えなくもないかも。カリン姫にいたってはアウェーなわけだし。
  サワダやティアスよりも、ミハマの方がよっぽど借りてきた猫みたいだよ。普段は黙っていたとしてもものすごい存在感があるのに、それすら消し去ろうとしてるように見えた。
  確かにこんな場に「王子不在」なんてことは、政治的に不利になることばかりだろうけど、ミハマがただ存在してるだけって判ってるなら、何でシュウジさんはわざわざこんな場に引っ張り出すんだよ。端から見てるからこそ、ミハマがいたたまれなくなってくるよ。

「何かあったら困る、何つっといて、何か起きて欲しそうに聞こえたのは気のせいか?」
「気のせいだろ?」

 顔が、悪戯を考えてる最中の小学生だろうがよ。説得力ゼロだ。

「いや、何も無いだなんて絶対思ってない!」
「カリン姫がいらっしゃるからね」

 何を彼女に期待してんだ?別に、この国の政治に口が出せるわけでもないのに。いくら大国のお姫様だからって、所詮は別の国の話だ。中王が口を出すのとは、また違うし……。

 サワダ議員が王に断りを入れた上で、ティアスをカリン姫に紹介した。その様子を、後ろからサワダがじっと伺っているように見えた。
  オレの隣では、同じような表情でイズミがその様子を伺っていた。

「随分遠いところから来ているのですね?」

 北方から来ているということと、天から来た魔物に対する力を持っているというサワダ議員の説明を受けてか、自身で判断したのかは判らないが、カリン姫はティアスにそう言った。彼女は姫に笑顔で応える。

「そうですね……ここからですと……」
「随分、ご苦労もされたようだ」
「そんなことは」

 まあ、ものすっごく苦労はしてるんだろうけど。否定するしかないよな、ここは。
  ティアスの笑顔は完璧だった。知ってるオレですら騙されそうだった。だけど。

「どこかでお会いしたことがあるような気がしますが……」

 そう言うことか!
  中央に出入りしてるなら(しかもオワリから行くより数段近いところの人だし)、「中央の楽師」とも面識があるはずだ。
  もしかして、イズミはカリン姫にティアスのことを判断させるつもりで?それが面白いって?
  サワダもそれを期待していたのか知らないけれど、少しだけ表情が緩んだ。すぐに元に戻ったけれど。

「申し訳ありません。人違いではないでしょうか?お会いしていましたら、あなたのような方を忘れるはずもありませんし」

 その様子を知ってか知らずか、それでもティアスは完璧だった。
  カリン姫はまだ何か突っ込みたそうだったが、監視部屋側から入ってきた伝令の兵の存在に、身を引いた。
  ヘッドフォンから、階下の声とは別の所から緊急連絡として、『中央の監査の方がいらした』と言う声が聞こえた。どうやら、下に現れた兵もそれを伝えに来たようだ。

「急ですね。監査の方は別日だとお伺いしていましたが」
「ええ。今朝連絡があって、今日に変更になったと。よろしければテラスに行きませんか?私に用があって、と聞いておりますけれど」

 様子を伺ってから初めて、ミハマの言葉を聞いた。でも、まるで彼の言葉ではなく、用意された台本を読んでいるように聞こえた。

「よろこんで」

 そう笑顔で応えたカリン姫が可愛く見えてしまった。ちょっとすごいな。

「……サワダ中佐も一緒に。良いですよね、サワダ議員。良かったら、ティアス殿も是非。監査の方にはサワダ議員からご紹介していただければ結構ですけど」

 笑顔でサワダ議員のそう言ったミハマの様子を見ながら、オレの隣でイズミが声を殺して泣きながら笑っていた。

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