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Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと]

Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと] 続・序章 第4話 続・敵と味方がいる幸せ 03/10


 イツキ中尉を見送った後、一旦部屋に戻ろうと思ってエレベーターで5階へ下りた。そこはびっくりするほど、一気に人がいなくなっていた。あんなにばたばたしていたのに、廊下は静かなもんだった。確かに、このフロアは客人用に用意されているらしいので、通行するだけなのだろうが。
  部屋で、以前借りた軍服に着替え、エレベーターに向かう。
  最上階に行くには、エレベーターに暗証番号を入れないといけないけれど、それも実は知っている。将官クラスの軍人とたまたま乗り合わせたときに、こっそり盗み見といた。このバッジの効力のすごさも思い知った。
  知ってることをあいつらに黙ってて正解だったのかも。もしかしたらイツキ中尉も、あんなにあっさりオレを置いていかなかったかもしれないし。
  壁を作られているのも知ってる。彼らの中に入っていけない、入らせてもらえないのも知ってる。だけど何も知らないまま、このままでいたいとも思わない。

 ここでこのまま、戻ることの出来ないまま、ただ無為に時間を過ごしていくのは嫌だった。
  特に、こそこそしてるあの二人を、微妙な距離感を持っているティアスを、見ているのは辛い。

 最上階はフロア全てを使ったような広い廊下が広がり(しかもレッドカーペット)、その先には唯一謁見の間がある。エレベーターの出口に守護の兵が立っていたが、オレのバッジを見たら簡単に通してくれた。そもそも、許可がなければ、ある程度許されているものでなければ、この階までは入れないのだから、ってことだろう。

 しかし、ここまで来たのは良いけれど、どうしたものか。
  謁見の間には扉一枚。その前には同じく門番のように兵が立っている。廊下には誰もいない。どこかから中が覗けないものかと思ってたけど、難しそうだな。
  でも、イツキ中尉もこの部屋の裏に回るって言ってたし、どこかあるんじゃないかと思ったんだけど……。

 とりあえず長い廊下を歩いて、少しずつ扉に近づいていくことにした。扉の前に立っていた人に咎められるかと思ったけれど、ちょうど窓際から軍人が現れ、敬礼をして交代していった。
  交代は良いけど……どこから現れたんだ?壁しかないのに。
  どうやら隠し扉があるらしく、交代した軍人が壁の一部を扉のようにして開け、中に入っていった。オレもその後をおって、窓際の壁に向かう。もちろん、扉の前に立つ軍人にはきちんと敬礼をして。

 何もないかのように壁紙を貼られているのに、よく見るとうっすらと溝があった。頻繁に使われているからなのか、最近作られたからかは知らないけれど、壁紙は真新しかった。ほとんど違和感はなかったけれど、よく見ないと、知らないと判らなかった。
  先に入った軍人に倣って、溝の部分に触れると、奥の方に押すことが出来た。どうやらこの部分がノブになっているらしい。開けにくくて一回失敗してしまったけど、何とか2回目には開けることが出来、先に続く梯子段を登り、前に進む。梯子段とはいえ、作りはしっかりしていた上に絨毯が敷いてあり、足音は響くことなく静かだった。
  暗くて狭いけど、どこに行くんだろう。隣は謁見の間のはずだよなあ。声も聞こえないし。
  しばらく登っていたら、暗くてよく判らなかったけれど踊り場が現れた。ここにもご丁寧に絨毯が敷いてあった。左手の、謁見の間があるはずの壁側から、微かに光が漏れていた。近付いてみると、そこからあちら側が覗けるスリットが空いていた。
  もしかしてこっち側って、軍が王様を守るために用意した隠し部屋ってことか?(部屋って言うには狭すぎるけど)軍服着てきて良かった……。バッジつけて、軍服着てなかったら、多分、入るときに止められてたかも。

 スリットから向こう側を覗くと、まだ赤い絨毯が続いていた。扉も見えるけれど、奥と、入ってきた側にそれぞれ一つずつ。どうやら、謁見の間はさらに先らしい。暗かったので気付かなかったが、ここにも一人、軍人が立っており、見張っていた。敬礼をしてそそくさと先に向かうことにした。

 梯子段を登りきると、急に眩しくなり思わず目を閉じた。梯子段と同様、絨毯の敷き詰めてあるフロアは、やはり狭かった。だけど、全面ガラスになっている壁を一枚挟んで、その先には謁見の間が広がっていた。ちょうどロフトから見下ろすような形だった。
  奥に玉座が見え、そこにミハマのお父さんであるオワリ王が座っていた。その前にミハマとサワダ父が並んで立ち、サワダ父の横にティアスとサワダがいた。ミハマの横にはシュウジさんが立っていた。
  室にはカリン姫も見える。距離は離れ、謁見の間の中心にいたけれど、彼女は真っ直ぐにミハマを見ていた。

 謁見の間と言うから、もっと狭いかと思ったけど、バスケコートが3つくらい入りそうな程度には広かった。今いる監視部屋と同じ高さには、オペラを見るためのホールのような、階段状の座席や、個室も見えたし、そこから下に降りられる、レッドカーペットを敷き詰めた広い階段もあった。
  入口も、監視部屋側にあったものとは別に、豪華に飾り付けられたものが玉座の右手側にあった。客人用のエントランスからつながっているのは、こちらの扉のようだった。

 それにしても……このガラス、向こうからも丸見えなんじゃないのか?ここにも見張りの人が立ってるけど、大丈夫?

「こら。何してんだお前は。いつの間に忍び込んだ?」
「うわ!でた!やっぱり出た!」

 オレの首根っこを引掴んでいたのは、案の定イズミだった。
  一応周りを見渡したはずなのに、一体どこに潜んでいたんだ、コイツは。

「姿を見なかったから、少しだけ安心してたのに……」
「ずっとお前らの側にいたけどね。ミハマの客室にいたときとか」

 もしかして、あの時グラスが二つあったのって……!?怖い、怖すぎる。忍者かコイツは!でも、イツキ中尉やミハマの態度から察するに、いつものことなんだろうな……。「いつものこと」で、ホントにすんでしまいそうなコイツが怖い。

「まあいいか。あんまり騒ぐなよ?今日はカリン姫がいらっしゃる」

 イズミが下を指さす。よく見たら壁際には親衛隊のキヅ大佐とカグラ、王の親衛隊も2名、それから元老院派のソノダ中佐、さらに見たことのない軍服を着た人が二人立っていた。多分、カリン姫について来たカントウの軍人なんだろう。実戦には向かなさそうな、真っ白な軍服だった。お出かけ用か?

「どうやってここに来たか、聞かないんだ」
「めんどくせえし。聞いても仕方ないし」
「いつも五月蠅いくせに」
「オレの業務と、あいつらに害がなければ、どっちでも良いんだよ、本当は。だって、ここに来たのは、お前の意志なのに。オレには関係ないし」

 下を見たまま、オレの首から手を離した。気のせいか、やっぱりイズミの態度は随分柔らかくなっているような気がした。
  まあ、以前もそう思い違ってしまって、エライ目に遭ってるんだけど。

「イツキ中尉には、自室で待ってろって言われたけど」
「それは、ユノちゃんの意見だ。あの子、優しいからさ」

 それって、オレがここに来てると、オレに何かあるみたいな言い方なんですけど。怖いな、ホントに。

「……このガラス、大丈夫なのか?」
「ああ。向こうからはただの壁にしか見えないさ。こっち側は明らかに作りがみすぼらしいのに、見せられるわけないし?」

 いや、けっこうちゃんとしてますけどね。どういう構造なのか知らないけど、マジックミラーのようなものだろうか。何か、怪物以外で、やっと未来っぽいものに遭遇したな。

「これ、中央とオワリしか使ってない、特殊技術。オレが確認した限りでは」
「……確認って?!オワリって特別待遇ってこと?」
「違う違う。中央もオワリも、別々に開発してる。もちろん、報告は出来ないし。ただ、オレがいろんな国の裏側を見た限り、これに類似した技術は見あたらないね」
「隠密か!?お前は!」
「今さら何を」

 そこは突っ込み返してくれよ……。お前の技術の方が恐ろしいよ、オレは。

「ただ、ちょっと静かにしてろよ?カリン姫は手強いから」
「何だよ、向こうの声も聞こえないのに、こっちの声が……」
「向こうの声は、あっちにヘッドホンがあるから、そこから聞ける。こっちの声は確かに聞こえない程度の厚みはあるけど、相手はあのお姫様だしね」
「どんな超人なんだよ。聞こえるのか?あの人には」
「聞こえてるかもね。足音とか、歩き方とかで、どんな人か大体判断しちゃうような人だし。アイハラなんか、軍人じゃないことどころか、やたら寒がりってことまでばれる気がする」

 それで南の方とか言ってたのか?つーか、寒がりじゃないッての。この世界が寒すぎるの、オレがいた時代に比べて。
  でも、イズミの言うとおりだ。しっかりばれてるよ。一体何者なんだよ、あの人。お姫様なのか?

 イズミはオレを置いて、ヘッドフォンが設置してある個室に向かったので、それについていった。不思議と、彼は文句も言わず、オレを自由にさせてくれた。
  何か、イズミとの力加減って良く判らないと言うか、難しいんだけど……判らないなりに、何となくだけど、機嫌のいいときは判るようになってきた。
  今日のイズミは、決して機嫌は良くないだろう。なんと言ってもミナミさんがいない。あの人が側にいるときといないときでは、コイツの機嫌は驚くほど違う。
  だけどそんな状況でも、オレがする行動一つで、機嫌が良くなることもある。
  不思議だけど、オレが「こうしたい」って言って動くと、イズミは驚くほどあっさりと受け入れてくれる。でも、同じようにオレが意志を見せて動いていても、イズミのカンに触ることもある。そこにはなにか、彼なりの明確な基準があるように最近は思えてきた。

 個室の中からも、謁見の間を見下ろすことが出来た。まるでミキサー室のようなその部屋には、王の親衛隊らしき軍人が一人、ヘッドフォンを耳に当て座っていた。
  「緊急事態があったら、あの人が警報を鳴らす」と、珍しくイズミが自分から教えてくれた。
  イズミに倣って、何に使うか判らない、たくさんのスイッチがついた機材の上に放置してあった5個のヘッドフォンから適当に一つ選び、耳に当てると、カリン姫の声が聞こえてきた。見下ろしている人から、顔が見えないのに声が聞こえるのは、何とも不思議な感覚だった。

「イズミ、あれは誰?いま入ってきた人。元老院の人みたいだけど」

 サワダ父と同じ制服を着た、初老の人物が監視部屋側の入口から入ってきた。サワダ父には親しげに声をかけ、王やカリン姫には跪いてみせるが、ミハマには目もくれない。
  逆に、カリン姫は相手にもしていないように見えたけど……。

「元老院のナカタ議員。名前くらいは聞いたことあるだろ?まあ、オレ達のような下っ端じゃ、お会いすることもないしな」

 ちらっと、同じ部屋にいる親衛隊員の目を気にしながら、イズミは嫌味っぽくそう言った。

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