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Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと]

Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと] 続・序章 第4話 続・敵と味方がいる幸せ 02/10


  彼女はその後、ティアスのことには触れなかった。もしかしたら、ティアスのことを疑ってるとか、疑ってないとか、もうそんな話じゃないのかも知れない。

 王宮内にあるミハマの(要するに王太子専用の)客間に、中にいるミハマの許可を得て、彼女の後について入る。王太子専用室だけでも、寝室を含めておそらく10以上あるはずだ。多すぎるだろうと思ってたけど、この王宮の広さと、国の人口を考えたら、そんなモノなのかもしれない。
  ……いや、根本的に何か違うな。感覚がおかしくなりそうだ。

「あれ?テッちゃんもシュウジさんもいるかと思ってたのに……」

 一緒にいるかと思ったサワダもシュウジさんも部屋にはおらず、ミハマが1人でいた。王子様1人にしておいて、何してるんだか。

 ここは彼が持ついくつかの客間の一つだが、オレが知る限り、どの部屋もほぼ同じ構造だった。20畳ほどの広さの洋間の真ん中にはやたら高そうな革張りのソファセット、アンティーク調の足の低いテーブルに、毛足の長い明るいベージュの絨毯が敷き詰められていた。調度品はほとんど無く、唯一部屋の奥に当たる、開放的な窓際にはテーブルと同じテイストのデスクが備え付けられており、そこにも揃いのように革張りのチェアがあった。デスクの上も綺麗なもので、凝った彫刻の施された淡い光を放つランプが一つあるだけだった。彼の持つ他の私室とは違い、一切手をかけられていないと言うか、こだわりとか、生活感を全く感じなかった。

 彼は随分待っていたのか、奥のデスクには空になったグラスが2つ並んでいた。

「シュウジはもうすぐ戻ってくるって言う連絡があったんだけど、テツは王宮に着いたって言う連絡があって以来、連絡とれないや。多分、王宮内にいるってことは、別の所で捕まってるんじゃないのかな?」
「サワダ議員が、ティアスを連れて中央の監査の方にご挨拶ですって」

 彼女の口振りには、もちろん悪意が籠もっていた。

「そう。なら、きっとカリンの元にもつれていくだろうね。もう来てるらしいし。もしかしたらテツもテッキさんに捕まったかな」
「カリン姫はおそらくこちらにいらっしゃいますから、私、待機してます。シュウジさんももうしばらくしたら戻っていらっしゃるのでしょう?裏に回っていますから」
「いや、良いよ。二人でここにいてくれれば。監査の人はともかく、カリンはオレの周りにいる人のことは、十分承知してるから」
「はい」

 ミハマの言葉に、イツキ中尉は満面の笑みを見せた。ミハマがこういうことを言うのはいつものことなのに、彼女は特別なことのように喜んでいた。

「アイハラは……」
「殿下がカリン姫と会食中、一緒にサラさんの様子を見に行こうと思って」
「そう。オレもそっちに行きたいな。頼むよ」
「はい」

 彼女は彼の中の「カリン姫」と「護衛部隊及び自分」のバランスを見て、喜んでいたんだ。普段なら、そんなこと当たり前のように自分たちに比重を置かれていることを知っているくせに、何でこんなに喜ぶんだろう。もしかしたらカリン姫って、ミハマにとって結構重要な人物なのかもしれない。だからこそ、彼女はこんなに喜ぶのかな。

「ミハマ、良いですか?謁見の間に行きますよ」

 制服の襟元が乱れた状態で、よれよれの髪型のままのシュウジさんが、大慌てで部屋に入ってきた。乱れてるのはいつものことだけど、慌ててるのはなかなか見ないな。

「なんだよ。カリン?何で王の前で?」
「別にカリン姫はあれですけど、サワダ議員がティアスとテツを連れて、王の前でお話しされてるんで。これ以上、妙な噂が広がらないうちに、行きますよ」
「連絡とれないと思ったら。やらせとけばいいよ、もう。めんどくさいし」
「まあ、あなたならそう言うと思ったんですけど、そう言うわけにもいかないので。行きますよ。ユノ、後を頼みます。シンには連絡してあるので」

 彼女は黙って頷き、引っ張られていくミハマを見送った。

「サラさんちに行くのは、なしね。仕事が出来たみたい」

 彼女はデスクにあった2つのグラスを持って、奥にある扉から給湯室に入った。これも他の客室と同じ作りだった。 

「オレ、何か手伝おうか?」
「大丈夫よ?ありがとう。でも、良かったら部屋で待機してて」
「邪魔しないって。黙ってるから」
「……でも、相手はあのカリン姫だから」

 だから、それは一体どんな女だ!
  彼女がグラスを拭いて、食器棚に仕舞ったのを見届けて、彼女の後について給湯室を出る。

「中央の楽師殿」

 何だ、なんだなんだ。サワダもイツキ中尉も、何のつもりだ?!その名前を出したらオレが動揺するとでも!?

「……が、どうかした?」
「彼女にも、あなたは疑われたんでしょ?カリン姫の眼光は、きっと彼女より鋭いわよ?」

 人の悪い笑みを浮かべてから、彼女は客間の扉に手をかけた。てっきり、様子を伺われているのかと思った。もう、ホントにどう動いて良いか判んないって。

「……あ」

 扉を開けて、いやなものでも見たように彼女は表情を歪ませた。扉の外に立っていたのは、この城内では見たことのない女性だった。服装も、その存在感も。パンツスーツで出歩く女性って、この城内にはいないしな。

「イツキ中尉、どこかへお出かけ?ミハマは?」
「先ほど、姫君のお話を……入れ替わりだったようですわね。謁見の間に向かってますわ」

 これが噂のカリン姫?!美人じゃん!好みじゃないけど、すらっと背の高い、モデル体型に、アジアンビューティって言葉の似合う端整な顔立ち。可愛いイツキ中尉も良いけど、クールなカリン姫も、まま良いよ!でも、モデル系って話なら、クールビューティ系のミナミさんか?

「そちらは?……この部屋にいるには随分、階級が……」
「殿下の元で見習いとして身の回りのことをしております、アイハラユウトです。客人扱いでして……」

 イツキ中尉の目配せを受け、敬礼して簡単に名乗る。しかし、はっきりものをいう人だな、この人。美人だけど、性格きつそうな顔してるし、サワダが言った「強引」って言葉も、あながちウソじゃなかったりして。

「へえ。そんな話は初耳だな」
「……最近ですの。2ヶ月くらいですから。先日の中央での報告会の際も殿下に同行して中央まで。カリン姫はいらっしゃらなかったのですか?」
「父が向かっていたのだが、私は二日目からしかいけなくて。オワリに魔物が出て、急いで帰ったという話しか聞けなかったよ」

 入れ違いになったってわけだ。図々しくも、呼ばれてもいないのに、しかも国王を置き去りにしてミハマを追いかけてくるくらいだ。かなり会いたかったんだろうな。それが、イツキ中尉には不愉快なわけだ。
  ティアスにはここまでの敵意は見せないくせに……おかしな話だ。ミハマは彼女を好きなんだから、彼女のことを気にした方がいいと思うけど。もしかして、イツキ中尉もサワダとティアスが怪しいこと、知ってるってことかな。だから、彼女を気にしてないってことか?

「そう言えば、アイハラ殿は、南の方からいらっしゃったのですか?」
「え……えーと」

 いや、この辺の出身なんですけど……。なんで?思わずどもってしまった。その間に、イツキ中尉が割って入ってくれた。

「いえ、その……各地を転々としてまして。ねえ?」

 黙って頷く。出身を疑われるって、どんな状況だよ?

「まあ、ミハマのことだから、どんな子が側にいても不思議ではないけれど……その子は、ちょっと違うかな?彼が懐に入れるとは考えにくい」
「いくらカリン姫でも、それは過ぎませんか?」
「失礼。入れ違ったのなら戻りますよ。そんな番犬のように吠えなくても」

 イツキ中尉も、立ち去る彼女のあとは追わなかった。これ以上関わりたくなかった、と言うのがホントの所だろう。

「何で、南?」
「アイハラさんが、この国の人じゃないでしょう?ってことよ。なんて言ったかしら。この間シュウジさんがあの人のあの妙な力のこと、何とか言ってたのよね。ホント、めんどくさい女。アイハラさん、私は謁見の間の裏に回ってますから、ちゃんと自室で待機していてくださいね?」

 オレは黙って頷いたが、言うとおりにするつもりは全くなかった。


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