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Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと]

Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと] 続・序章 第3話 続・支配するもの、されるもの 10/10


 昨夜、ティアスとサワダがここにいたときは、もっと彼らの距離が近かったはずなのに。今の彼女には、その周りに人を寄せ付けないような、触れるのを憚られるような、そんな雰囲気をまとっていた。
  もう少しだけ近付きたかった。

 ただただ、当たり障りのない世間話を続けていても、彼女には近付けない。だけど、さっき少しだけ見ることが出来た、彼女の本音に近い部分を、彼女はもう出してはくれなかった。

「……サワダ中佐」

 『お使い』から戻ってきたらしいサワダが、黙って彼女の横に立っていた。根暗のくせに、妙な存在感のある男だ。
  彼女にもっと近付きたかったのに。どうしてこのタイミングで帰ってくるかな?この男は。

「お使いって聞いたけど?終わったのか?」
「ああ。まあ」

 口の端を少しだけ上げて、微笑んだ。いや、微笑もうとしただけかも知れない。そのぎこちない動作が妙に儚げで、オレは喧嘩腰だった口調を反省した。

「あの、横……」
「うん」

 充分すぎるくらい空いていた彼女のもう片方の隣に、サワダは勧められるまま座った。体を動かして場所をずれたはずの彼女は、再び体を動かして彼の方へ身を寄せた。彼もまた、少しだけ彼女の方へ身を寄せる。彼の左手が、彼女の腰に触れる程度に。

 いや、これでできてないって言われても、全く信用ならないんですけど?!一体何があったんだ、この二人!

「二人でなに話してたんだ?」
「世間話よ?みんな忙しそうねって。ねえ、ユウト?」

 オレもまた、黙って頷く。彼女の悪意は、サワダに知らせるなってことか?オレには教えてくれたのに。
  オレの顔には多分、出ていたのだろう。この優位に立てた心が。サワダが苦笑いをしていた。

「随分、軽装で出かけたのね?どこへお使い?」
「ああ、学校のある方だけど。あんな所に制服で行ったら、町の人にビビられますけど?」
「そうね。行ったことはないけど、穏やかなところみたいね」
「そうだな。基地はあるけど……あるからこそ、監査もあそこまで細かくは見ないし。町並みをずっと残し続けている……」

 サワダの目が、彼女を警戒していた。だけど、彼の口振りに敵意は感じられなかった。
 だけど、彼が彼女を疑っているのは確かだった。彼女はそれに気付いているのか?それに、彼はどの程度、彼女を疑っているのか?

「こんな所にいないで、休んでれば?」

 彼は彼女の顔を見ずに、彼女を気遣った。彼女は驚いたような顔を一瞬だけ見せたが、すぐに微笑んで見せた。

「大丈夫よ。お気遣い無く。あなたこそ」
「別に。オレは大したこと無いけど。あんたは酷かったろうが。心配してるヤツもいるだろう」
「そうね。ここでは1人だけど」

 気遣ってるかと思ったけど、そうじゃない。探り合ってるんだ。暑くないのに、変な汗が流れてくる。彼らの会話に入っていけない。
  サワダは、もしかしたら思った以上にいろんなことを知っているのかもしれない。イズミ同様に。

「そろそろ、戻らないといけないんじゃない?その格好では出迎えられないでしょう?」
「そうだな」
「私も、少し休んでるわ。あなたのお父上に、中央からの使者を一緒に出迎えるよう言われているから、準備もしないとね」

 彼女は立ち上がり、オレとサワダを交互に見つめ、挨拶をして通用口に向かう。サワダはそれを追いかけたかったのかも知れない。軽く腰を浮かせ、彼女の方へ体を動かしたが、オレの存在を確認して再び座った。

「行けば?サワダも準備があるんだろ?」
「いや……まだ、時間、あるから……」

 さすがに、嫌味だったかも知れない。何とも言えない、困ったような表情で、オレから目を逸らした。彼は立つに立てなくなってしまったわけだ。

「お使いって、もしかして、『先生』?」
「ああ。サラさんが心配だしな。連れてきた」
「ミナミさんって、まだ医務室?」
「いや、自宅に戻ってるよ。先生はシンに連れて行ってもらってる」
「ここに住んでるんじゃないんだ」
「まさか。オレやシュウジは私室をもらってるから、ほとんどここに住んでるようなもんだけど、一応、家があるし。あまり帰らないだけで。シンとサラさんは元々N町に住んでたんだけど、こっちの宿舎に住んでる」

 そうか、サワダやシュウジさんは、こんなんだけど一応、お貴族さま扱いだもんな。

「わざわざサワダが迎えに行くんだな」
「まあ、オレもちょっと用事があったし。ついでだよ。ここにいても、仕事押しつけられるだけだし。しかしそれにしたって……ちょっと慌ただしすぎるかな?」

 体ごと辺りを見渡す。その動きにつられて、オレも同じく周りを見渡す。

「予定より1人だけ先に来るっつったって、年末の監査でもないのに、大げさな」
「ああ、その年末の監査ってヤツが、なんかエライ人が来るってヤツ?」
「そうだな。あの、中央の楽師……」

 その単語に思わず反応してしまったが、必死でサワダから目を逸らした。でも、もうサワダは明らかにティアスを疑ってる。オレがここで必死に誤魔化しても無駄かも知れないけど。

「楽師がどうかした?」
「いや、去年の年末の監査のときには来てたよ。他の人に任せて、半日で戻ったけど」
「そうなんだ」

 何だ、そんな話か。

「サワダ中佐!こちらにいらっしゃいましたか。探しました。サワダ議員も殿下もお探ししていたようですが」

 サワダの横に立ち、敬礼をしながら声を掛けてきた男性は、見たことのない顔だったが、階級章は大尉だった。25,6歳って所だ。サワダに対して媚びるような態度の無い人は、ここでは逆に珍しかった。
  彼は大尉の言葉を受け、慌ててベルトループにつけていた携帯を確認する。どうやらかなり着信履歴が残っていたらしく、あからさまに「しまった」と言った顔を見せた。

「今日は監査が来るだけでは無いのですか?」
「ええ。そうなんですが。実は昼ごろ、カントウの姫君がいらっしゃるという連絡がありまして……」
「……タイミング悪いな、あの女は」

 「カントウの姫君」という言葉を聞いて、サワダは嫌な顔をした。

「何か?中佐?」
「いえいえ。何も。わざわざありがとうございます。すぐに戻りますので」

 笑顔で敬礼をし、大尉を労った。大尉が立ち去るのを見送り、サワダも立ち上がった。

「カントウの姫君って?」

 通用口へ向かうサワダを追いかけながら、話しかけた。イズミなら嫌がって話してくれないだろうけど、サワダはきちんと応えてくれた。

「ミハマの追っかけだよ。カリンって言うんだけど。気が強くて、男勝りで、やたら頭の切れる女だ。鋭いっつーか」
「呼び捨てなんだ。お姫様だろ?」
「まあ、幼馴染みみたいなもんだからな。オレは苦手なんだけど。お前も気をつけろよ。余計なこと言うな。特にカリンの前では」
「……そうする」

 サワダが言うならよっぽどなんだろうな。でも、どんな人だろ。

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