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Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと]

Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと] 続・序章 第3話 続・支配するもの、されるもの 09/10



 彼女の部屋の前で声を掛けてみたが、返事がなかった。そのことに少しだけ、ほっとしてしまった自分が嫌だった。だけど、このままで終わらせるのも何だか悔しかった。多分、イズミのせいだ。

 窓から再び中庭を臨む。さっきよりも全体が一望できた。普段よりずっと、人が慌ただしく動いていることがよく判る。
  1階に下りて、案内板に従って中庭に向かう。ここに来て随分経つけど、中庭に出るのは初めてだった。昼は簡単に出られるけれど、夜は中庭に通じる出口に衛兵が立っていて、入れないことを知っていたから。あまり、出歩くのは得策じゃ無いというのは、オレ自身がよく判っていたことだから。

 中庭に出ても、城の中と同様、オレのことなど構ってる暇など無いと言った感じで皆通り過ぎていく。普段なら、オレの胸に光るバッジを見て、声を掛けてくるなり、訝しげな目をするなりするのに。
  人の流れに逆らいながら、昨夜、彼女たちの姿が見えた辺りに向かう。木陰にベンチがあったり、広場になっていたりと、公園のようになっていて、上からは見えなかったが、城内の人々の憩いの場になっているような場所だった。彼女たちは、ここに座っていたのかな?

「あら、ユウト」

 木陰にあるベンチの一つに座っていたのはティアスだった。部屋にいないと思ったら、こんな所に……。昨夜もいたくせに。
  人といるときは元気な顔をしているが、実際はまだケガが治っていないはずだ。だからかも知れない。うっすら汗の浮かぶ額を拭きながら、ややぐったりとした表情で座っていた。

「昨夜のケガは大丈夫?」
「オレは、全然平気だよ。ちょっと痛いけど、歩くのには困らないし。ティアスこそ……」
「私も、大丈夫よ。少しは動かないとね」

 オレは昨夜、彼女を相当怒らせているはずなのに、彼女は笑顔を見せてくれる。何もなかったかのように。彼女が優しいからだけではないと思うオレは、やっぱり自惚れてるのかな。
  黙って彼女の隣に座った。ちょうどサワダがしていたように。彼女は何も言わなかった。

「そう言えば、来週来るはずだった監査の人、今日来るんだってね。こんなに城の中が慌ただしいの、初めて見たよ。スゴイ影響力だ」
「そうね。でも、仕方ないわよ。それくらい中王の影響力は大きいのよ?」

 ゆっくりと、彼女の視線が辺りを見渡しているのが判った。頭は一切動かさずに、周りの様子を伺っているのが判る。判るのに、彼女の声は朗らかだった。
  彼女が辺りを見渡した理由を、もうオレは知っていた。ただ、どうしてそれを彼女が気にする必要があるのかは判らないけれど。だって彼女は、中王側の人間なのに。どうして中王の監視を気にする必要があるのか。

「……もしかしてもしかするけど。慌ててきた人って言うのは、君を心配してかな?」
「かもね。まいったわ」

 彼女は笑顔のまま溜息をついた。嬉しそうに。

「監査って、何するの?こんなに大変なこと?」
「大したことじゃないわ。予算が適切に動いているかとか、不適切な施設が国に存在していないかとか、書類を4、50枚ほど記入して、チェックするだけよ?ああ、でもオワリは5万人越えてるから半期に一度の監査もあるのね。めんどくさそう」
「……5万人?!」

 少なくない?!いくら地殻変動があったからって、500年も経ってるはずなのに。

「5万人越えてたら大国なの?オワリってどれくらい人がいるのさ?」
「えっと……たしか8万3千人で、中央を守るカントウに次いで2番目よ?」
「少ないって。だって、名古屋市だけでも220万人越えてたはずなのに」
「それはユウトの時代ってこと?随分、窮屈ね」
「いや、でも……そうでも……無かったとは言わないけど」

 そう言えば、外をしっかり見たのって、この城の付近と、最初にサワダに会ったN町の中心部だけなんだよな……。名古屋城もすっかり廃墟だし。ミナミさんも言ってたけど、実際はオレの知ってる風景なんか、ほとんど残ってないのかも知れない。

「人口が増えていかないんだから、そんな数なんてとうてい無理ね」
「増えていかない?」
「だって、増える数より減る数の方が多いんだもの。仕方ないわね。いくら墓を作っても追いつかない。いつか墓だらけになるかもね」

 墓を掘ってる張本人が、自嘲気味に笑った。何も言いたくなかった。
  どうせ、ティアスもサワダも、その墓だらけの世界に自分の墓を掘るとか言い出すんだ。

「監査って、何のためにするんだよ?」
「さあ?主のお考えになることだから。中王は、神様と一緒なのよ?彼が黒と言えば、白いものも黒くなるの」
「ふうん」
「あは、ユウトってばすぐ顔に出るのね」

 彼女の笑い声に、思わず顔を伏せてしまった。恥ずかしくて。そんなにすぐに顔に出るかな、オレって。

「何のためかしらね。表向きは各国の経済バランスを正確に知ることであったりとか、国の正しい発展のために必要な資料であったりとか、いろいろそれらしい理由はあるけど、そんなことはどうでもいいのよ」

 オレの知ってるティアスも、気が強くて、喧嘩腰のような話し方になるときがあった。大概それは、サワダに対するときによく見られたけど。
  だけど、今のティアスは、喧嘩腰と言うよりは、ただただ悪意に満ちていた。

「本当の理由は?」
「抑制のため」
「……何を?」
「この世界の成長。言ったでしょ?いつか墓だらけになるかもねって。墓だらけになる前に、この星自体が墓になっちゃうかもね。そうしたら、墓を掘らなくてすむのかもね。私も、あの人も」

 新緑の広場を、軍人達がせわしなく行き来する。だけど、隣に座る彼女は、遠い目をして、彼を思っていた。全ての風景が目に入っていないかのような顔で。

「……サワダのこと……」
「え?」
「案外、好きなんだったりして」

 あくまで笑顔で、何でもないような顔で聞いたつもりだった。変な汗が背中を伝っていたのが判ったけど、妙に顔と頭が熱くなっていくのが判ったけど、必死で笑顔だけ作っていた。

「それはないよ。もしかして、それを聞きたくて、やたら中佐のことを聞いてたの?」

 彼女の笑顔は落ち着いたものだった。その余裕のある姿に、オレは思わず溜息をついてしまった。

「どうしたのよ、ユウト?」
「いや、そっか。だって、二人ともケガしてるのに、こそこそ二人で会ったりしてるから」
「え?まさか。昨夜のことは違うって言ったのに」

 むっとした顔でオレを見ていたけれど、彼女は怒っているようには見えなかった。

「いや、あの後、二人でここにいなかった?」
「ううん?見間違いじゃない?」

 彼女が言うならそうなのかと、オレは納得したかった。

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