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Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと]

Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと] 続・序章 第3話 続・支配するもの、されるもの 08/10


 オレには一体何をしているのかは見当もつかなかったけれど、城全体が慌ただしく動いているのだけは判った。廊下ですれ違う軍人達は、オレなんかに構ってる暇は無いとばかりにばたばたしていた。
  人に気にされないと言うことが、こんなに楽なものだとは思わなかった。

 楽ではあるけど……寂しいもんだな。不審がられていても、存在してるように見られていた方が、いいこともあるっつーか……贅沢な悩みだけど。

 元々オレなんて、ここでは厄介者って言うか……。サワダに出会って、ミハマが助けてくれなかったら、今ごろどうしていたか判らないくらいだもんな。ミハマが拾ってくれたからこそ、ここでの扱いが良いこともあるし、面倒なこともある。
  まあ、拾ってくれたミハマはともかく、彼の周りからは、まさに招かれざる客として扱われているけれど。

 オレを受け入れてくれたのは、多分ティアスとミハマだけなのに。
  そのティアスは、結局オレがいた時代の彼女と同じく、サワダの元へ走ってしまったわけだ。別の人間だの何だの言っておきながら、結局はそうなるんだ。
  ……まだ、決まったわけではないけれど。オレの思い違いかも知れないし。そうと思いたいし。

「イズミ……中佐!」
「申し訳程度に中佐ってつけんなよ、もう。今日は部屋でおとなしくしてろよ」

 廊下の窓からぼんやり外を見ていたオレを見かねたのか、どこかへ向かっていたはずのイズミが、あきれ顔で近付いてきた。彼が制服を着ていることはそんなに珍しいことではないけど、わざわざ見せびらかしているかのようだった。
  イズミって意地悪だけど、悪いヤツじゃないんだよな。そう思うけど。機嫌のいいときは、普通に面白いヤツだし。

「イズミも忙しいのか?」
「いや?仕事探しに行っても、雑用押しつけられるだけだし。忙しい顔してるだけ。お貴族様達だけ、頑張ってればいいんだって」
「ふうん。シュウジさんとか?」
「あの人、たまには仕事をした方がいいんだって。やれば出来る人なんだから」
「だったら、サワダもいた方が良くない?」
「まあ、出迎えるときだけいればいいんでない?うちの看板だかんね、王子様とセットで」

 一緒に窓から外を眺めながら、げらげらと笑った。その言葉の意味を必死に考えていたけれど、ただの軽口であって欲しいと願うばかりだ。
  窓から見える中庭と、その先に広がる城壁。さらにその先には墓場が見える。

「墓、見てたの?」
「いや……そう言うわけじゃないけど……」

 墓は、あまり好きじゃない。

『……お前のじゃないよ』

 サワダはそう言ってくれても、『アイハラユウト』の墓があるのは事実だし。

『サワダ中佐と、同じ理由よ』

 ティアスとサワダを繋ぐ場所なのかも知れないし。サワダが楽師をティアスと認識していなくても、ティアスはサワダに対してそう思ってるってことだ。
  彼らはあの場所でつながってる。まあ、実際は中庭でしたけど?

「実際さ、どうなのさ、あの二人?」
「ああ、あの二人?」

 オレもイズミも、忙しそうな軍人達が通過するだけの中庭を眺めていた。

「決定的な証拠が欲しいところだな」
「証拠?」
「あくまで、二人でこそこそ会ってただけっつーのは、いくらでも言い逃れできるしね」
「意味が判らん。何に対して言い逃れるのか。会ってただけですむわけないだろうがよ」
「でも、テツだしね。あいつのことだから、会ってただけって言ってもわりと信用できちゃうし、何かあったって言われても、そりゃそうだよな、ですむわけだし」
「なんじゃそりゃ。サワダなら、どっちもオッケーってこと?イズミなら間違いなく、何かあったって言われるだろうけど」

 こいつ、笑い飛ばした。普通にやってそうだな、そう言うこと。

「ミイラ取りがミイラにって言ってたのに。よくわかんねえよ、状況が。オレはそんなんじゃなくて、あの二人が出来てんのか出来てないのかだけが知りたいの!」
「お、ストレートに来たな」

 ずっと笑ってら。楽しんでるだけの様にも見えるけど。こっちは照れくさいっつーのに。

「本人に聞けば?」
「……本人って、サワダ?イズミが聞けよ」
「違うって、彼女。ティアちゃん」

 何でこっちでも、いつの間にそんな馴れ馴れしい呼び方になってんだよ。

「オレが!?」
「他に誰が?確認できたら報告よろしく。彼女、さっきサワダ議員となにやら打ち合わせしてたけど、終えて部屋に戻ったの見てたから」

 オレの肩を叩き、立ち去る。振り向いたら、彼はこちらを見ることなく、手を振っていた。
  彼の言葉に動かされたわけじゃないけど、オレはその足で彼女の部屋に向かった。
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