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Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと] 続・序章 第3話 続・支配するもの、されるもの 07/10
イズミに促され部屋に戻ったものの、結局一睡も出来なかった。
ふらふらの頭で、ミハマのいるフロアに向かう。彼の気遣いで、彼と彼の護衛部隊が食事をするときに呼んでもらえている。他の客人と一緒に食事をするのは大変だろうと言うことで。
オレは、ミハマが父親であるオワリの王と一緒に食事をとらず、専用フロアで食事をとっていることに驚いたけれど、もうそう言うもんだと納得するしかないのだと思うことにした。
彼らはいつものようにミハマを囲んで、一つの正方形の大きなテーブルで食事をとっていた。たくさんのバターロールとハムエッグにサラダ。それからオレンジジュース。王子様にしては簡素な気もしたけど、充分すぎる食事だ。時代なのか、好みなのかは知らないけれど、今まで口にしたものは、全部とにかく塩辛かった。気になると言った程度だけど。
オレはミハマの真正面に当たる、彼から一番遠い席にいつものように座った。その時初めて気がついたけれど、いつもミハマの右隣に座っているはずのサワダがいなかった。ケガをして医務室にいるミナミさんがいないのは判るけれど。
「おはよう、アイハラ。眠そうだね?大丈夫?昨日遅かったし、ケガしてるから……」
「あ、全然。大丈夫だって。それよりサワダは?珍しいね、いないの」
昨夜、随分遅い時間というか、ほとんど早朝だったんだ、ティアスと二人で中庭にいたのは。途中で見ることをやめたけれど、彼らはいつまでああして一緒にいたんだろう?その後、寝てるって可能性もあるな。
「ちょっと、お使いに行ってもらってる。ご飯くらい食べてけばって言ったんだけど、先に行くって」
ジュースのボトルをとろうと手を伸ばしたミハマを制し、代わりに注いであげたのはイズミだった。そのまま席を移動し、いつもサワダが座るミハマの隣に座った。
「あ、そうなんだ」
「眠そうだったから、無理しなくて良いのに。シンが代わりに行くって言ってくれたのに、ねえ?」
同意を求められ、頷いたイズミだったが、彼はいたって普通だった。眠くないのかな……。
「良いんじゃないの?ついでだからさ。あいつが行くっつってんなら、行った方がいいって。自分で気付いてるなら、その方がいいって」
「うん。まあ、そうなんだけどね」
「人のことを心配していられるような立場ですか、あなたは。もう少しちゃんとしなさい、ちゃんと」
初めてみたときから全くもって違和感の無かった、食事中に新聞を読みながら説教をするシュウジさんの姿が、今日は妙に違和感があった。どうしてだろうと見ていたら、その違和感の正体に気付いた。今日は制服着てる!ちゃんとした格好だ!
「シュウジさん、今日は何かあるの?」
「何ですか」
「いや、……違和感ありまくりでしょ?」
オレの突っ込みに、不思議そうな顔で隣に座るミハマに尋ねるが、彼もまた笑顔で即座に突っ込んだ。
「普段の自分を振り返りなって。オレにちゃんとしろって言う前にさ」
「ちゃんとしてるじゃないですか。制服まで着て」
「普段してないくせに」
この二人じゃ埒があかない。オレは隣で笑いながら彼らを眺めていたイツキ中尉に聞くことにした。
「中央の監査の人が来るのよ」
「へえ……」
あれ?その話、昨日聞いたな。
「ミナミさんに聞いたけど、それって、来週じゃないの?3月1日だって言ってた気がする」
「ええ。先月そう通達があったんだけど、昨夜急に統轄本部の方だけ先に監査にいらっしゃるって連絡が。急な話だから夕方になるそうだけど、準備で今日は忙しいみたい。テッちゃんは出かけて正解かもね」
「統轄本部……。確か、サエキ大尉が来るって」
「ええ。サエキ大尉という方を知ってるの?」
「あ、うん。中央に行ったとき、少しだけ話をしたんだ。綺麗な人だったから、覚えてただけで……」
一言余計だったかな。イツキ中尉は「そう」とだけ言って微笑んでいたけれど。
もしかして、サエキ大尉はティアスのことを心配して?いや、いくらなんでもそれはないか。仕事だろうし。でもニイジマ達の話だと、相当心配してたみたいだし……。
「お仕事があるから、制服着てるんだ、シュウジさん」
「……普段も、お仕事してるんだけどね」
思わず二人で苦笑い。可愛いなあ、イツキ中尉は。
「何ですか、そこ二人。こそこそして!」
真正面から睨み付け、オレ達二人っつーか、オレを指さしていたのはシュウジさんだった。何か悪いことでもしたかな?メガネ光ってますけど。
「人を指さすなって、シュウジさんが言うんじゃないですか。恐!」
「怖くなんか無いです。いいから、離れなさい」
お父さんか!?ちょっとシュウジさんがあり得ないくらい怖いので、これ以上突っ込むのをやめたけど。オレは。
「何おっさんみたいなこと言ってんだよ。シュウジさん、だっさいな」
「何ですか」
「いや、だから、行動が」
何故かムキになるシュウジさんを、イズミが苦笑いを浮かべながらからかっていた。
「監査の人が来るってことは、みんな忙しいんじゃないの?てか、サワダはいなくていいの?」
「ええ。だからすぐ戻ってくるわよ」
気にせずイツキ中尉に話しかける。何か、シュウジさんのあの態度って、やきもちっぽいんだけどな。さすがに、そんなこたないか。
「お使いって、何しに行ったの?」
「先生を呼びに行ってくれてるの。サラさんの様子を見るために」
「そう言えば、軍医のおっさんも、よく判らないからどうとか言ってたけど、詳しい人なの?」
「そうね。ここの軍医よりはずっとね。でも、やっぱり信用できる先生がいた方がいいでしょ?」
「……そうなんだ」
納得できない話ではないけど。何か、城の中にいる人より、外の人の方を信用してるって言うのもなあ。今までもずっとそうしてきたってことなんだろうけど。仮にも、王子様とその護衛部隊なのに?
「こんな忙しいときに、サワダがわざわざ?電話で呼べばいいじゃんよ」
「いいのよ。お使いなんだから」
何か、隠しているような口振りだったというか、イツキ中尉らしからず、先にオレに情報を与えてくれていたことに違和感はあったけれど、やっぱりなって感じだった。
これも多分、サワダへの気遣いなんだ。彼らの。