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Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと] 続・序章 第3話 続・支配するもの、されるもの 03/10
待て待て、自分。あっさりミハマがこんなコトを言ったとは言え、こんなにおろおろしてどうする。別に、サワダがサトウさんを好きで、サトウさんがサワダ父を好きでも、別に彼らの間に実際に何かあったわけでもないし、
……何かあったらどうしよう。なんか、こっちのサワダ父って、いろいろ悪いコトしてそうなんだもんな。だとしたら、あいつらがあんなに気を使ったり、サトウさんのことを敵視したりする理由も判らないでもない。極端だとは思うけど。
「どうかした?」
「いや。別に。なんか、ごめん。変な話、させちゃって」
「何で?どうしようもないし、アイハラの言うとおりだよ。知らなきゃ気も遣えないし、知らないことで怒られてるのは割に合わないよ」
この立場の人に、そう言ってもらえるのは本当にありがたいけど。でもミハマって、ホントの所どう思ってるんだろう。だって、ティアスのこと……。
そう言えば、この人、気があるような台詞を簡単に言ったわりに、生々しさがないな。
「ミハマって、サトウさんのこととか、ホントはどう思ってるの?王子様じゃなくて、ミハマはさ」
「難しいこと言うね。でも、王子であるオレも、普段のオレも、オレなんだけどね」
「だけど、本音って隠してない?特に、立場があるんなら」
「隠してはいないよ。黙ってはいるけど」
そう言うのを隠すって言うんだよ。
「みんなが気を使ってくれてるとおりだよ」
珍しく彼は目を伏せ、微笑んで見せた。微笑んでるはずなのに、その姿はきれいなのに、怖かった。
「ああ、そう。相当極端だよね、それって。違う?」
「極端……かもね。なんと言ってくれてもいいけれど」
「開き直っちゃってるよ……」
何があったんだ。聞きたくもないけど。
彼女がサワダに、なんかしたってことだよな。だから、ミハマは怒ってる。それを、あの人達は気を使ってる。彼ら自身の怒りも相まって。
でも、そんなに気にするようなことなのか?あいつだって、もういい年なのに。女がこっちを振り向かないくらいで。違うのか?
「何があったか聞いてもいい?」
「聞いても、大したことじゃないよ」
「大したことじゃないなら、聞きたいかな」
「ああ、そうかあ……。事実は大したことじゃないんだけど。結果がね」
結果?サワダがどう思ってるかってこと?
あの、常に何か重いものでも背負ってるような顔をしながら、時折笑顔を見せてくれるサワダが、一体何を考えてるかってこと?それが聞きたいんですけど?!
よく考えないと……。
ミハマは、イズミのように攻撃的に出ることはないだろう。だからこそ、気を使うべきだし、考えて言葉を出すべきだ。
簡単に見透かされても、オレの失態を、オレ自身が知ることが無くなってしまう。
『どうしたの?大丈夫?何があった?この台詞って、すごく人を追いつめると思わない?』
心配されるくらい、別に良いじゃないかと思うけど、イズミはそれがサワダを追いつめると言った。でも、要するにそんな言葉が受け入れられないほど、まずい状態ってこと?それって?
『いいんだよ。一人にしてやるしかない。閉じこもっちゃってんだから』
『死神は、オレがどういう状態なのか、判ってたんじゃないのか?だから、用があるなんて嘯いて』
イズミも、ティアスも、彼の様子を、何かが彼を落としていることを、知っているし気付いている。
『オレもあの女も、自分の墓を掘っているんだ』
そして、彼らが頻繁に使う『墓』と言う言葉。サワダは、誰かの墓を掘り続けているのかと思ったけど、そうじゃない。自分の墓を掘っている。何のために?
『同病相憐れむって言葉、知ってる?』
『何を下らんこと言ってる、あんたは』
ティアスもまた、自らの墓を掘り続ける。彼女と彼は、『同類』なのだ。少なくとも、お互いにそう感じていたはずだ。他の誰が否定しても、彼ら2人はお互いに。
その2人が楽師とオワリの雄将としてではなく、ティアスとサワダとして出会ってしまった。だから、彼らが一緒にいるのは、必然的なものなのか?
「以前、イツキ中尉とも話したんだけど、サワダは、どうして墓を掘るのかな?その理由を、みんなは知ってるんだよね?」
心臓が押しつぶされそうだった。ミハマがどう思うか、判らなかったから。ただ、心配しても、彼がどう思っているかなんて、オレには判らないんだけど。
「明確な理由を知ってるわけではないと思うけどね、みんな」
「でも、共有してる」
「ただの精神安定剤がわりだよ。ああして墓を掘ってると安心するみたいだから。罪を償ってる気分になるんだろうね」
彼の言葉は、やっぱり重い。かわらず、淡々とした口調で、微笑んだままで、重い言葉を紡ぐ。
「だとしたら、あの、中央の楽師も同じなんだね」
「どうして?」
「知ってる?ミハマ。あの2人、『同病相憐れむ』ってヤツらしいよ?そう言ってるのを聞いたんだ。だとしたら、ティアスよりずっと、楽師殿の方が彼にお似合いじゃない?」
ずるいと思った。自分のこと。でも、彼と同じように、何気ないフリして喋ってしまえばいいんだとも思った。
「そう、奇遇だね」
「……奇遇?」
「ティアスにも、彼は同じように思ってるみたいだよ?」
その台詞は他でもない、彼が彼女を疑っていると言うことを示していた。