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Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと] 続・序章 第3話 続・支配するもの、されるもの 02/10
早く、戻らなくちゃ。
あちらとこちらの彼女の存在が、オレを急かす。
オレの記憶に残っている最後の彼女の存在を、必死に思い出す。それにすがりついているのが、はっきりと自覚できる。
早く、帰りたい。こんな所にいたくない。
足取りは重かった。自分でもびっくりするくらい、体が動かなくて、それでも何とか部屋に戻り、ベッドに倒れ込んだ。塞いだはずの傷口から、包帯越しに血が滲んでいた。その血が、傷つき、横たわっていたミナミさんの姿にかぶる。オレが、あんな目にあったら一体どうなってしまうんだろう。
この世界には誰もいない。ティアスも、サワダ達も、所詮はオレの知らない連中だ。
だけど彼女だけは、……ティアスだけは違うはずだった。それなのに。
「アイハラ?起きてる?」
ノックと共に聞こえたのは、ミハマの声だった。こんな時間に、王子様が何やってるんだよ。出ないわけにも行かないので、足を引きずりながら扉を開けた。
「ごめん、寝てた?足のケガをサラが気にしてたから」
そう言って彼がオレに手渡したのは、換えの包帯と傷薬(ちなみにかなり怪しげな色をしていたのだけれど)だった。オレは彼に中に入るよう促し、椅子を勧めた。
「ミナミさんが?自分もあんなにケガしてたのに?オレのケガなんか大したこと……」
「シンがアイハラのことを引っ張ってったからさ。無理はしちゃダメだよ」
だからって、わざわざミハマが来るか?
「あ、オレがここに来たこと、シュウジにもシンにも言っちゃダメだよ。軽はずみなことするなって、五月蠅いんだ」
「うん。だいぶ軽はずみだと思う。確か、王子様じゃなかったっけ?」
「王子様だよ?これでも」
笑い飛ばす。彼の持つ雰囲気はまさに王子様と言わんばかりの、オーラのようなモノを持っているのだが、行動が伴わない。
「ごめんね。多分、振り回されていると思うけど」
「え?」
「オレからも、言っとくから」
「……別に。だって、ミハマのために動いてるだけだろ?あの人達。別に、なんも悪いコトしてないし」
ふてくされたようにそう言ったオレに対して、ミハマは笑顔を見せる。
「そうだね。でも、それがアイハラにとっては良いことでも、悪いことでもある。そう言うもんだろ?だから、そんなこと、言わなくていいって。ありがとう」
……やば。今、ちょっとどきっとした。男相手なんですけど。そう言うことさらっと言う?!こんな真っ直ぐで、優しくて、いい人で……。あいつらが彼のために何かしようって頑張るのも判らないでもない。
『口外無用な。平和のためさ。何事も、タイミングが肝心なわけよ』
イズミはああ言ってたけど。でも、ミハマに今の状況を知らせなくて良いのか?オレだって、あの2人のことが気になる。だったら、彼の置かれている立場ならなおさらだ。
ミハマとサワダの距離。彼の、彼女への思い。
下心が、あわよくばという思いが、無いとは言わないけれど。
「……サワダって、ミハマと仲良いんだろ?臣下だけど、幼馴染みだって」
「うん。何?突然」
「だったらさ、同じ女の子を好きになったりしたこととかないの?一緒にいたなら、会う子も一緒なわけだろ?」
ミハマは腕を組んで考え込む。考え込むようなことじゃないから、彼なりのパフォーマンスなのかも知れない
「無いかな、そう言うの。オレ達、好みが随分違うから」
「なるほど。ミハマは、サトウさんはタイプじゃない……と」
「あはは、そうなるね」
「あ、ごめん。ここの人たち、彼女のことに触れたがらないから」
でも、ミハマなら、笑い飛ばして話を聞いてくれる気がしていた。彼が一番気にしているだろうけど、彼が一番、受け皿が広いというか。
ずるいかも知れないけど、彼にこっそり聞くのが一番良いかも知れない。探り探りだけど。
「神経質に見える?」
「少し。でも、ここに来てから、サワダとサトウさんが一緒にいるとことか見たことないし。あれかな。昔つき合ってたけど、今は別れてて、サワダが気にしてるから、周りが腫れ物扱い……とか?」
ミハマは、ただ微笑むだけだ。
「ほら、なんて言うの。こう、一般的に考えてって言うか。やっぱ、元カノ元彼とか気にするじゃんね?」
「そうだね」
「だから……かな?って。違うみたい?」
やっぱり、微笑むだけだった。
「あのさ、言いにくいのかも知んないし、知らせたくないのかも知れないけど、でもさオレも、どうやって気を使って良いか、判んないんだよ……」
「そっか。そうだよね。ごめんね。でも、テツとサトウさんて別に何もないんだよ。サトウさんが好きなのは、テッキさんだしね。でも、ちょっといろいろあってさ」
あれ?今、さらっとスゴイこと言わなかったか?
テッキさんて……サワダの父さんだろ?ミハマが敵視してる数少ない人間だろ?!しかも、サトウさんがサワダの好みとか何とかも簡単に肯定するし。
えっと、重いっつーの!