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Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと]

Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと] 続・序章 第2話  続・これもきっと何かの縁 10/10


 何で?何でティアスとサワダが……。

 勘弁してくれ。もしかして、オレが危惧していたとおりになったってことか?あいつら2人、あんなこと言うくせに、こそこそ会ってるってコトかよ。こっちでまで?
  どうしたらいい?どうしてやろうか!ちくしょう。こんなコトってあるかよ。ティアスは、あんなにオレに優しいのに。あんなに可愛い顔を見せてくれるのに。

「何、どうしたんだよ?アイハラ」

 その声に、思わず振り返ってしまった。しかし、その時にはもう遅かった。イズミがオレの後ろに立っていた。オレ、そんなにおかしかった?!
  いや?良いのか?結果オーライか?サワダとティアスがこそこそ会ってること、ミハマが知ることになるんだから。そうしたら、多分、こっちのサワダなら彼に気を使いそうな気もするし。

「外になんかあるの?」

 ミハマもまた、イズミの様子なのか、オレの様子なのか、とにかく不審に思ったらしく、立ち上がった。

「いや、別に。夜は危ないから、やっぱり閉めとこうか。シュウジさんが外に出るっつーことで」
「私が危ないのは良いんですか?!」

 しょ……証拠隠滅した!この男!!笑顔のまま、何も見なかったフリをして、彼は窓を閉め、オレにもベッドの横にある椅子に座るように促した。その笑顔が、怖かった。
  なんだそれ、意味が判んない。

『テッちゃんと彼女がどうにかなるなんてあり得ないし、何よりミハマが興味を持ってるし』

 そんな風に思ってるくせに、黙認かよ。だったら、オレからミハマに……。

「ミハ……」
「アイハラ、怪我、どう?」

 オレの言葉を遮るように、声を掛けてきたのは他でもない、イズミだった。

「え?いや、もう……平気だけど」
「だよな。軽かったし。かすり傷だったから、血が止まれば大したこと無いだろ?出歩ける?」

 オレの首根っこを掴み、引っ張るイズミ。それをミハマとミナミさんが制止しようとしたが、無視して、彼は部屋の外にオレを引っ張り出した。
  扉の外には軍医とイツキさんがいて、何か険しい顔で話をしていた。

「シ……イズミ中佐、どちらへ?」

 イツキさんの表情が、にわかに明るくなった。それに、イズミも笑顔で答える。

「ちょっと、彼にお話が」

 軍医の手前、オレの首根っこを掴む手を離してくれるかと思ったのだが、逆に彼はその手に力を込めた。そして、彼の様子を伺いながらいつもの嘘臭い笑顔を見せた。

「申し訳ありませんが、彼女にも中に入らせるよう、殿下から言付かっておりますので」
「そうですか。申し訳ありません」

 彼女は中尉で、彼よりも位は下に当たる。何を話していたかは知らないけれど、どうせその内容は、イズミがオレの首に力を込める程度のモノだろう。聞きたくはなかった。

 イズミが後ろを振り返らず、オレを引っ張って廊下を進むのと入れ替わりに、イツキさんが中に入っていった。その様子を、軍医は眺めていたが、どんなつもりだったのかはオレには判らない。

「なんだよ。いいかげん、離せって」

 随分、軍医の姿は遠のいていたのに、イズミはオレの首根っこを掴んだままだった。どうやら、離す気はないらしい。猫のようにオレの首を掴んだまま、気にせず引っ張り続けた。

「いま、見たこと」

 歩き続けて、もう、城の中央にあるエレベーターの前まで来たとき、やっとイズミは立ち止まり、口を開いた。

「サワダとティアス?」
「口外無用な」
「なんで?」
「なんでも。平和のためさ。何事も、タイミングが肝心なわけよ」

 にやっと、人の悪い笑みを見せた。それって、つまり……

「伝えないわけじゃないってこと?つーか、お前の心持ち次第ってこと?全て」
「そんな、オレがいつ上から見たよ?」
「いつもだよ」

 わかんねえな。イズミって、肝心なところは煙に巻くんだ。思わせぶりな台詞と、思わせぶりな態度。心を見せてるフリをしながら、簡単に人を突き落とすし。
  こうやって、オレにはそんな風に言うのって、オレのことを同じ目線で見てるのかと思えば、やっぱり上から目線だし。

「何が平和になるんだよ。お前の言うことは意味が判んない」
「てか、アイハラ的には何で平和になると思えないのさ?」
「サワダとティアスって、どう見たって怪しいよ。こそこそ2人で会ってたり、一緒に外に出ていたり。それ、イズミは知ってたのか?」
「半分くらいね」
「ミナミさんは知らなかったのに?見た?あのミナミさんが嫉妬してんの」
「お前もね」
「オレのことは置いとけよ」
「何で?アイハラだって、充分すぎるほど、嫉妬してるから、そうやってテツにばっか食いつくんだろ?だって、ミハマだって彼女と二人で会ったりしてるのに、それは気にしないんだ」
「色気の問題じゃね?」

 オレから手を離し、突き飛ばすように体を離す。あまりに乱雑な扱いに、ちょっとだけ傷ついたぞ、この野郎。

「……まあ、ミハマじゃあな。色気ゼロ。彼女といても、ままごとみたいなんだもんな」
「サワダは存在がエロイのに?」
「そうそう。……て、何でそんなこと」
「オレの知ってる泉も、そう言ってたんだよ。沢田本人でなくて、沢田父のことだったけど」
「あ、そう。あの親子もな。本人、めっちゃ嫌がるから、似てるとか言うなよ?」

 そうやって、サワダに気遣うくせに?なに考えてんだ?
  思わず、不審な目で彼を見上げた。

「誤解の無いように言っとくけど、オレ、テツのことは敵だと思ってるから。まあ、いまは一応、味方なんだけど」
「……なんだそれ。意味が判らん。イズミって敵に気遣うのか?あんだけ、護衛部隊以外のヤツに対して、酷いくせに?それ以上にサワダに、気持ち悪いくらい気を使ってるぞ、お前って」
「使ってるさ。テツにも、ミハマにもね。でも、敵だよ?その方が自然に見えるだろ?」

 イズミの言ってることも、判らないでもない。だけど、そんな不自然なこと、あっても良いんだろうか。
  不自然に見えるのは、オレが彼らに、まだ過去との繋がりを求めているからだろうか?
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