Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと] 続・序章 第2話 続・これもきっと何かの縁 07/10
サワダはミナミさんを抱きかかえたまま、城の門番に許可証を見せ、城に入っていった。
「……あれ?ティアスは?」
「さあ。許可証を持ってるようには見えなかったけどな。どこに消えたんだか。怪しいことこの上ないな」
そう、彼は言うくせに、何だか嬉しそうに見えた。
オレの思い込みのような気も、ほんの少しだけしてたけど、どんどん怪しさが増すんですけど。彼らの間に流れる空気を、疑わざるを得ない。いや、仮にオレの知ってる二人のような、そんな色気のある関係ではないにしても、彼らは何か秘密を共有しているような、そんな感じがする。いや、秘密を握られているというか。
「怪しいって言うくせに、なんか、楽しそうでない?」
門を通り抜け、ライトアップされた中庭を歩き、正面玄関へ向かうサワダの横に並びながら
「オレが?別に、楽しくはないさ」
やっぱり、サワダは楽しそうに見える。何より、彼に抱えられるミナミさんが、不安そうに彼を見ていたのだから。
「お前こそ、いったい何を疑ってんの?」
「何って……」
オレの様子がおかしかったのか、彼は吹き出し、誤魔化すように
「お前が言ったんだろ?『別の人間だ』って」
と言って、笑顔を見せた。ただ、その笑顔はとても、オレの知る沢田の父親に似ていたけれど。こっちのサワダ父は、まだよく知らないけれど。
以前、泉が沢田父を『存在自体がエロイ』なんつって、褒めてんだか褒めてないんだか、あまりにもそのままかつ直接的過ぎる、際どい言い方で表現していたけれど、その言葉がぴったりだと思った。男から見たら、微妙に不愉快な存在だ。
オレの知ってる沢田にもその片鱗はあったけど、こんなにすごくはなかったかな……。まあ、別の人間なんですけど?!
「お前こそ、何か知ってるんじゃないの?あの女について」
サワダはそう言ったとき、オレを見ずに目の前にある正面玄関の扉を見つめていたけれど、彼の肩越しに、ミナミさんがオレをじっと見ていた。まるで様子を伺うように。
「何かって……?オレが知ってるティアスは、こっちの女じゃない」
「そう」
含んだ言い方だな。オレの答えは完璧だったと思うぞ?おどおどしてなかったと思うし。
どういうつもりか知らないけれど、彼はそれ以後、黙ったまま、ホテルそのままの自動扉を抜けた。
エントランスはいかにもホテルっぽいつくりで、本当に昔のものを再現してるんだと感じたが、奥にあるエレベータールームにつながる部屋から先は、一見木製の扉をかたどった重い鉄の扉が聳え立っていた。ここでいったん客を受け付け、どこへ招き入れるか振り分けているのだろう。見た目がホテルなだけで、中は実はかなりしっかり管理されているのかもしれない。
500年もたってるはずなのに、何でここまでこだわるのか。オレが過去に執着するのとは違う。怨念にも似たものを感じていた。
それは、なんだか、オレがこの時代のサワダ達全員に感じる、微かな違和感にも似ていた。
「おっと」
エントランス側からは受付で操作しないと開かないはずの扉が、自動で開いた。それに驚いて、ミナミさんを抱えたままのサワダが扉から距離をとった。
「遅いし!つーか、何でサラ、怪我してんの?!」
「おまえが迎えに行かないからだろうが。オレのせいじゃない。それより、医務室!」
「……テッちゃん、オレを怒ったな?」
不満そうな顔で、怒ったサワダではなく、オレを睨み付けながら、扉の横に設置されていた内線を手に取り、連絡を始めた。
確かに、オレが帰ってこなかったのが悪かったかもしれないけど、それは責任転嫁だろう?大体、元は外に連れ出しておきながら、放置したお前が悪いんだし。
……とは思うものの、口には出せない。やっぱ、まだ怖い。
でも、『怒ったな』って。子供か、こいつ?確かに子供っぽいところは多々あるけど。でも、それもわざとって感じもするしな。これも、イズミ曰くの『気遣い』ってやつか?!
「本部の医務室が空いてるって。珍しく誰も使ってないみたいだ。担架出すって言ってくれてるけど、テッちゃんがそのまま抱えてった方が早いよね?」
受話器を戻し、歩き出すイズミ。それにサワダもついていく。
「お前が抱えていけばいい」
「テッちゃん、悪いけどそのままで。あまり動かしたくない。それより急ごう」
ため息をつくサワダに、照れるミナミさん。すれ違いはしても、サワダもイズミも、お互い妙に気を使いあっていて、ちょっとだけ心が和む。イズミは、彼女が好きなくせに、彼女がサワダを好きなことを知っているのだろう、あの過敏な男が気づかないわけがないし、好きな相手にだけはとことんまでに気を使う男だ。
でもそれが、自分から彼女が離れていってしまう結果になっても、それでいいと本気で彼は思っているのだろうか?
サワダは……案の定、鈍かったな。イズミに気を使ったつもりだったんだろう。ぶっきらぼうで不器用だ。それが妙に、オレの知ってる沢田を思い起こさせる。あんなに含んだ言い方が出来るくせに、ずるいよな。
これが、オレが彼らに感じてる違和感なのかな?
「アイハラくんは?」
黙ってついてくるオレを気にしてくれたのは、ミナミさんだった。
「自分の怪我が酷いときに、あんな迷惑なお子様のこと気にしなくていいって。てか、アイハラ、怪我してんの?」
畜生、いつものイズミに戻ったな。このやろう。わざわざ後ろからこっそりついてくるオレのそばに寄って嫌味な顔で笑っていた。
こいつ、へらへらしやがって、笑ってればい冷たいこと言ってもいいと思ってやがるな、たちの悪い。
「してるっつーの!見ろ!この大量の血を!」
「たいしたことないって、こんなん。大げさな」
『血はたくさん出てるからケガが酷そうに見えるけど、実際はそんなに深くないから』
彼女のあのセリフは、パニクってるオレを落ち着かせるためのものだと思ってた。
「その程度の判別も出来ないの?」
「出来るか!オレのこと、何も出来ないっつったの、イズミじゃんよ!」
「敬称つける!まあ、自己分析は出来てるようで、何より?」
またしても嫌味ぽく笑うけど、オレはいま正直、イズミなんてどうでもよかった。
「シン!何も判らないと判っているなら、もう少し考えろ。アイハラくんに当り散らすんじゃない」
まったくだ。やっぱり、ミナミさんは優しい。それに引き換え、イズミは冷たい。でも、彼の言ってることは、ティアスと何も変わらない。言い方だけだ。
「だって、こいつ、ぜんぜん平気でしょ?大体、歩いてんだもん。こんなん怪我のうちに入んないって。甘えてんの」
『ユウト、平気よね?』
『冷静だな、案外』
でもティアスは……彼女だけは、オレの知ってるあの子と変わらず、優しいはずだ。
「そういう話をしてるわけじゃない。もう少し優しくできないのか!」
それがたとえ、別の人間だったとしても。彼女だけは。
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