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Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと] 続・序章 第2話 続・これもきっと何かの縁 06/10
ヤバイ……オレ、死ぬのかな……。息が……苦しい。
「……あれ?」
体が軽くなった。なんで?
……体に何か不愉快なモノが入ってきたような感覚が残ってて、気分は悪いけど。足も痛いし。
「ティアス!」
寝ころんだままのオレの頭の上に立っていたのは、まだケガをして寝ていたはずのティアスだった。手にはジャックナイフ。
もしかして、こんなモノで魔物を?オレを助けてくれた?
「大丈夫?」
「とりあえず、生きてるけど……あの、ティアス」
気が遠くなりそうだ。だけど、この状況で、ティアスを目の前にして、これ以上かっこ悪いところは見せられない。
「サワダ中佐、ミナミ中佐は?」
え、サワダ?
「ミナミさんの傷が酷いからオレが連れてく。動けそうにないし。アイハラは……動けそうだな」
「この足を見て、それを言うか?」
この血!すげー出てんのに!
「そんだけ騒げるくせに、何言ってやがる」
「ユウト、落ち着いて。血はたくさん出てるからケガが酷そうに見えるけど、実際はそんなに深くないから。大丈夫よ。歩ける?」
サワダは横たわるミナミさんを気遣い、彼女の横に跪く。意識を失っていたらしい彼女は、サワダの存在に気付いて、大きく身を震わせた。
「サラさん、平気?」
「テツ……?どうしてここに?」
「いや、アイハラもちっとも帰ってこないし、サラさんも出かけたって言うから、こんなこったろうと思って。大方、シンがこいつを置いてきちゃったから、責任感じて迎えに来てたんだろ?心配したよ」
「心配?私を?」
彼女を抱きかかえるようにして、丁寧に起こすサワダの行為に、ミナミさんの表情は急激に変わる。女の子そのものというか、少女マンガみたいだった。こんなに判りやすく、人の顔って変わるんだなって思うくらい。
彼との距離を、彼の行為を、彼の言葉を、ミナミさんが異常なほど意識してるのが、離れた場所から見ているオレにもはっきりと伝わる。
……ティアスは……どう思ってるんだろう?
いや、関係ないか。こっちのティアスは、サワダのことなんて何とも思ってないんだから。ただ、どうして一緒にいたのか気になるけど。
「傷が酷いから、動かないでいて。……聞いてる?サラさん?」
「あ……う、うん」
彼女はなすがまま、サワダに抱きかかえられる。子供のように真っ赤になって、顔を伏せていたが、残念ながら彼には気にした様子はなかった。
「毒を持ってるタイプではないみたいだから、大丈夫だとは思うけど」
「テツ、彼女は……?どうして一緒に?」
いま気づいたのか、ミナミさんはティアスの存在に怪訝そうな顔をする。
彼女は彼女で、相当複雑だろう。怪我をして寝てるはずの客人が、サワダと一緒に自分を助けに来たなんて。
「別に、一緒に来たくて来たわけじゃない。それくらい判ってるだろ?」
「そう言うことを言ってるわけではない。状況を聞いてるんだ」
真っ赤になって俯いてるだけかと思ったら、ミナミさんはまっすぐ彼を向き、彼を問い正す。ただ、またすぐに俯いてしまったけれど。
「空から来る魔物に対する抵抗力が、この国にはまだ無いようですけど?」
「……いま、そんな話はしていないし、この国にはテツ……サワダ中佐も、イズミ中佐もいますから」
「私の国でも、そのような魔物が出て、私はそのための抵抗力を持つために動いています。怪我をしてるからと言って、ここで寝てる時間はありませんから」
彼女は、サワダの肩越しに、じっとティアスを見つめていた。普段冷静なミナミさんらしからぬ表情だと思った。
「外に出ていた事に関しては、ご迷惑をおかけしています。でも、この件に関しましてはサワダ議員も了承済みですし。サワダ中佐とは、そこでたまたま会っただけです。私は、彼には疑われているようですしね」
微笑を浮かべながら、ごまかすようにミナミさんに説明をする。そして助けを求めるように、サワダに話を振った。
少なくとも、オレにはそう見えた。
「よく判ってるみたいだな。良いから行こう、サラさん。傷が酷いんだから。オレがシンに怒られるよ」
「私は……その」
「大丈夫じゃないって。たまにはオレの言うことも聞きなよ」
惚れた弱みというやつか。彼女は、彼に何も言えない。この二人が例えば男女の関係ならば、明らかに男のほうは、何かをごまかしている態度なのに。
それに、何か疑わしいと思ったから、ミナミさんも突っ込んだんじゃないのか?何も無かったら、何も怪しくなかったら、納得するって。
「ユウト、平気よね?」
「え?うん……」
ホントは、かなり痛いんですけど。
「冷静だな、案外。もっと心配するかと思った」
嫌味たっぷりの表情で、彼はティアスに笑いかけた。彼らの間に流れる空気は以前と同様に、緊張感のあるものだったけれど。だけど、明らかに何かが変わっていた。
「あなたこそ」
彼女は同じように含んだ笑顔でそう言って、彼女はオレの前を歩く。
それを、オレはおそらくかなり物欲しげな顔で見つめていたのだろう。
「きついなら、手を貸すけど?」
そう言ってくれたサワダの表情が、なんだか怖かった。そこに、オレは裏を感じてしまう。
「いや、大丈夫だって。ぜんぜん平気!」
「そう。ならいいけど」
彼女と彼は微妙な距離を保ったまま、城に向かって歩き始めた。