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Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと]

Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと] 続・序章 第2話  続・これもきっと何かの縁 05/10



「走って!」

  いや、もう、走ってますけど!てか、それって……。
  ……見るんじゃなかった。彼女の声に思わず後ろを振り向いてしまったら、やっぱりいた。
  なんて言ったらいいんだろう。動物的ではない。まるで、黒い雲の塊が、意思を持って動いているというか。煙よりはずっと濃く、強く、はっきりと存在感を放ち、後ろから追ってくる。
  てか、何でそもそも追いかけて来るんだよ!?

  気配を感じるだなんて、テレビの中の世界だけだと思ったけど、はっきりと判る。ダンプカーが迫ってくるような、そんなイメージかもしれない。ただ、何かヤバイ感じだけがどんどん強くなる。

「うわ!」

  いきなり、ミナミさんが無理やり公園の出口の方へオレの背中を押した。振り向くと、彼女はあの細い剣を構え、雲の塊と対峙していた。

「ミナミさん!!」
「いいから、早く!!」
「でも!!」

  置いてけるわけ、ないだろ!?確かに怖いけど、でも、女のヒトを一人で戦わせて、オレ一人逃げろだなんて、ありえないでしょ?!

「ミナミさん!!」

 オレが彼女に近付こうと一歩踏み出したその時、彼女は雲の塊に吹っ飛ばされ、オレの足下に滑り落ちた。

「早く!」

 背中を痛めたのか、ぎこちない動きで必死に起きあがっていた。

「でも!」

 明らかにあの魔物に対して、抵抗する術がないんじゃないのか?だって、イズミやサワダが魔物との戦闘で、特別視されていたのって、要するに他の人では何とも出来ないってことだろ?

「一緒に逃げよう!無理!おいてけない!」

 ミナミさんは黙って首を振る。

「私でも、何とか出来る。でも、君を守りきれないと言ったはずだ」

 落ち着いた口調で、でも、率直すぎて心に突き刺さるような台詞を彼女は吐いた。
  要するに、オレは邪魔ってこと?足手まといになるってこと?

 彼女は、黙ってしまったオレを無視して、雲の塊のような魔物に向かっていく。
  細い剣が、光を帯びる。剣よりも、むしろその光が雲を切り裂いているように見えた。光の中に、暗雲が溶けていく。そのたびに、獣のような雄叫びをあげ、魔物が小さくなっていく。
  彼女もまた、あの護衛部隊の1人なのだと。そう思わせるだけの実力だった。長い髪を振り乱しながら、暗雲が動物の手のような形を取って彼女に向かってくるのをぎりぎりの所で避け、少しずつ切り裂いていく。
  切り裂いた雲が飛び散り、彼女の体をかすめ、オレの傍まで飛んでくる。

「何をしてる。早く逃げろ!」

 飛び散った雲を追って、彼女がオレの元へ駆けよってきたが、動けなかった。

「どうした!?」
「……いや……その」

 揃ってオレの足下を見つめた。
  雲のようだった魔物が、人の手の形を取って地面から生えていた。オレの足に絡みついていた。気付かないうちにオレの体にまとわりついてきた。

「だから……」

 言ったのに。彼女はそう言いたかったのだろう。でも、オレの顔を見て、やめた。黙ってオレの足下に絡みつく、人の手の形をした魔物を切り裂いていく。
  オレは本当に、ただの足手まといだ。

 こんな状況なのに、心が重くて、動くのが辛い。

 彼女の体を、雲が人の手の形を取ってかすめ、傷つける。でも、彼女は剣を振るう手を止めない。滲む血の痛みを意図的に無視しながら、オレを助けるために剣を振るう。

 オレは何も出来やしない。
  どうしたらいい?

「……ミ……ミナミさん……」

 オレを置いて、逃げて。本当はそう言いたかったのに。どうして言えないんだろう。
  黒い雲はいつの間にか、コールタールで象られたマネキンのような姿をとって、ぎこちない動きでミナミさんの背中に近付いていた。
  オレの声と、震える指先が指し示すモノに、彼女は気付いて振り向いた。

「……っ!」

 魔物の黒い右手が、ミナミさんを吹っ飛ばした。それと同時にオレの足に絡んでいた黒い手が、足に食い込んだ。まるで杭が刺さったような傷みが広がる。
 
「え?!うわ!!」

 しかも、オレの血だらけの足から杭が抜けたような感覚があったと思った途端、一瞬黒い雲がオレの体を包むように広がり、再び手の形を取って実体化した。ただし、今度はオレの体を潰せるほど大きな手に。
  押しつぶされたまま、鼻から黒い雲が入ってくるのが微かに見えた。アンモニアに似た、鼻をつんざくような匂いがする。
  ヤバイ……オレ、死ぬのかな……。息が……苦しい。

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