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Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと]

Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと] 続・序章 第2話  続・これもきっと何かの縁 04/10


 黙ってオレの前を歩く彼女との沈黙が重くて、判っていながらどうでもいいことを聞いていた。

「そういえばオレ、夜、城の外に出たの始めてかも。あんまり、外に出してもらえないし」
「城の者は、ほとんど外には出ないよ?街の人も、このくらいの時間だと、殆どみんな外には出ない。君のいた時代は、こんな時間に外に出ていたの?」
「うん。て言うか……こんなに明るいと、夜って感じがしない。確かに、昼とか、朝に比べたら、ずいぶん空の色は違うけど、太陽が見えないのがおかしなくらいには明るいし。あ、でも、北欧にいた友達の話では……」

  ティアスが、一時期ドイツにいたって話を聞いたことがある。太陽は完全に沈むけど、真っ暗にならない時期があるって言うっていた。多分、こんな感じなんだろう。夏だから、よく深夜に遊びに出かけていたと言っていた。
  もう、時代が違う話とはいえ、ティアスの名前は出せないけれど。

「ホクオウ?」
「えっと……そっか。ほら、世界地図の西のほうに大陸が少し残ってたろ?あの辺のこと。オレのいた時代には、あの辺にでっかい大陸があったの。で、こういう白夜みたいなのってその大陸のすっごい北の方とか、南にも大陸があったんだけど、そこのすっごい南の方であった現象なんだって。だから、同じ日本でも、オレは白夜って初めてなんだよね」
「でも、深夜に出歩いたら危ない。この季節は明るいとはいえ、深夜には魔物が出る」
「……あっ」

  そうだ。深夜になると魔物が出やすくなるって言ってた。だから、店も、この時間に閉まるんだ。オレがいた店以外、ほとんど閉まってたし、店長が長居してたオレに嫌な顔した理由がちょっとわかった気がする。

「……あれ、この季節って……??いま、冬じゃないの?」

  ずいぶん寒いし、オレが元いた時代では12月だったから。

「白夜は、夏の間だけだよ?」
「夏でこんなに寒いの!?冬とかどうすんだよ!陽も落ちるのに!!」

  みんな長袖だし、コート着てるのに!

「そうか。うーん……寒いけど、まあ、何とかしてるよ。都市自体に暖房システムが働くから、今より少し寒いと感じるくらいですごせるよ」

  騙された気分でいっぱいです……。冬だと思ってた。そうだよな。白夜って、夏の現象だよな。オレ、大丈夫かな。この鍛えてる人たちと一緒にされても困るんですけど。でも、よくよく考えたらそうなるのか。地殻変動で緯度まで変わってしまって、オレの知ってる世界とは随分変わってしまっているのだから。
  何が辛いって、ほぼ、常に冬……?

「城の中は、貴族も多いし、かなり快適に出来てると思うよ、君にとっても。だから、あまり出歩かないほうがいい。今日は、シンのせいだったけど」
「そうですね」

  確かに、あんまり厳しさは感じなかった。ミナミさんの台詞に、小さな棘を感じたのは、たぶん気のせいだ。

「でも、地殻変動があったからって、こんなに気候まで変わっていいのか?同じ国とは思えないよ。町並みが似てるだけに、不思議な感じがする」
「そう。ホントに似てるんだ。地殻変動以前の町並みを残そうと、この国は努力してきたらしいから」
「そうなんだ。そういえば、シュウジさんがそんなこと言ってた」
「そうだね。あの方は、とても歴史にお詳しい。君が、あの方の知識を証明してくれることは、誰にも言えなかったとしても、嬉しいと思うよ。この町が変わっていく前で、本当によかった」
「変わる?」

  彼女は黙って頷いた。

「聞いたろ?中王の政策により、古い街並みを残してはいけないんだ。少しずつ変わっていってる。君がテツと会ったN町は、中心部から外れているから、ほぼ昔のままだけど、この辺りは中王の監査も入る」

  声を潜める。誰が聞いてるか判らないって言うのは、皆に徹底されていることなのかも知れない。

「監査って?」
「ああ、定期的に中王軍の者が各国に入るんだ。町並みのチェックばかりではないけれど。年に4回。季節の変わり目にね。次は3月1日だから、あと1週間だ」
「ふうん。抜き打ちとかじゃないんだ。それって、いつ、誰が来るとか、どこを見るとかってことも、事前に判ってるもんなの?」
「ああ、あらかじめ、統括本部から通達があるよ。次回は統括本部のサエキ大尉と西ニホン管理部のカツラ少尉相当官だったかな」
「……中佐、とか大佐、とかは来ないんだね」
「年に一回は来るよ。この時期はたまたまだよ。オワリは大国だから、監査の回数も多いし」
「じゃあ、他のもっと小さな国は、回数自体少ないってこと?」
「状況によるさ」

  そういって、彼女は少しだけ遠くを見つめた。

「誰が、どうやって監査してるなんて、誰も知らないんだから、ホントはね」

  彼女の言葉の重たさが、痛いほどよくわかった。
  思わず立ち止まって、オレは彼女を見つめてしまった。彼女もまた、オレを見ていた。その表情が、だんだん険しくなってきた。

「……ミナミさん?オレ、また何か悪いこと……」
「動かないで、ゆっくり、私のそばに」

  腰に下がるレイピアに手をかけていた。ゆっくりと抜いたその剣先は、可憐といえば聞こえは良かったが、弱々しかった。

「空?」
「ああ」

  彼女と同時に空を見上げる。明るかったはずなのに、いつの間にか暗くなっていた。陽が沈んだわけではなかった。地平線は先ほどと同じく、昼と夕方の中間のような色だった。空の一点から、墨が染みこむように黒い色が広がっていた。

「まだ、やつは姿を見せてない」

  彼女はそう言ったけれど、あの黒い染みからは、今にも何か出てきそうな、何か禍々しい生き物の気配を感じた。

「その間に一緒に走って出口に向かおう。やつが現れたら、私が君と併走しながら、引き止める。その隙に君は一人で公園を出て、城へ入るんだ。これが通行許可証だ」

  彼女の視線の先には、もう城が見えていた。でも、そう言われても。

「ミ……ミナミさんは?だって、空から来る魔物って、サワダだって手こずってたのに」

  声が上ずってしまったけど、ここで一人で逃げたら男じゃないでしょう?!

「おそらく、大丈夫だ。倒せるかは判らないけれど。ただ、君を守りきれる保障はない」

  冷静に分析されましても!
  その言葉が、オレを逃がすための詭弁なのか、ただの分析なのかはわからなかったけれど、要するに、とにかく逃げた方が良いってことね?まだ、敵の姿は見えないけど。

「走れ!」

  彼女の合図で、走り出す。後ろから獣の雄たけびのようなものが聞こえたが、振り返ることは出来なかった。
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