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Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと]

Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと] 続・序章 第2話  続・これもきっと何かの縁 02/10


  しばし考え込んでいたニイジマだったが、突然、勢いよくオレのほうに振り向いたかと思ったら

「そう言えば、お前、携帯持ってたよな?」
「……持ってるけど、通じないよ?」
「なんで?」
「いや、まあ、この時代に作られたやつではないからで無い?」
「そうか、そうだよな。そうか」

 ニイジマたちからすれば、オレと頻繁に簡単に連絡が取れたほうが楽なんだろうけど。

「てか、ティアスの携帯にかければいいんでない?!」
「いや、まあ、あの人、携帯壊してるわけよ」
「そんなの、サワダのお父さんから渡してもらえば?」
「いや、まあ……」
「何だよ、何で言葉を濁してんだよ」
「いや、まあ、それとこれとは、また別って言うか……」
「べつ?」
「いや、まあ、頻繁に電話とかしてられない状況なわけよ、あの人は」
「オレだって、今日みたいにイズミに拉致られたりしてますけど」
「いや、まあ、とにかく、頼むわ」

 なんか、急に怪しくなってきたな……。もしかして、俺に、彼女との連絡を取ってほしいわけではないのかな?

「何が目的?」

 あえて彼のまねをして、オレは真正面からにらみつけた。

「いや、別に?」
「オレがティアスと連絡を取る必要って、無くない?」
「いやいやいや。必要だよ?」
「そうか?だって、確かにニイジマたちが直接彼女を見て守ることは難しいかもしれないけど、連絡を取るだけなら、別に電話ですればいいことだし」
「いや、まあ」

 ますます怪しい!なに考えてんだ、こいつ!!

「……つーか、その……姫のこと、見といてほしいわけよ」
「は?なんで?」
「判るだろ?あの負けん気の強いお姫さんが、素直に人の手なんか借りないってことくらい。口では『頼りにしてる』とか『助けて貰ってる』とか言うけどさ、実際のところ、一人で何でもしちゃうって言うか、勝手に動いちゃうわけよ」
「なんか、それ、わかるかも」

『ありがとね、ユウト。引き受けてくれたんだ』

  彼女はそういってオレに感謝するくせに、支えるために、駆け寄ったオレの手を、やんわりと拒否をした。

「だろ?しかも、あんな大怪我しちゃってさ、心配かけんなって話だよ。カナさんはぶち切れるし、コウタはおろおろするばっかりで、オレがこうやって根回しするしかないわけよ」

 何だ、怪しいかと思ったら……端に彼女を心配してってことか。彼女との関係を円滑に進めるための根回しなわけね。
  それならそうと、最初から言えばいいのに。もしかして、照れくさかったんだろうか。

「もしや、ニイジマって、ティアスのこと……」
「いや、ありえない、絶対無理。大体オレ、彼女いるし!」
「うへー初耳」
「そりゃそうだ、言ってないし」

 あ、そっか。あっちのニイジマではないんだった。聞いたこと無くて当たり前か。
  新島って、落ち着いてる割に、なんか浮いた噂とか聞かなかったんだよな。

「誰?美人?オレ知ってる人?」
「美人だよ。会っただろ?」
「会った??ティアスじゃなくてって……もしかして、サエキ大尉?あの人いくつ?」
「まだ28だよ。あの人、それ気にしてんだから、あんまり言うなよ?」

 めっちゃ美人だし。こっちの時代なら、年は違ってても女優だよ!すごくねえ?

「うーん、ティアスとサエキ大尉なら、結構考えてしまうかも。美人だしなあ」
「タイプぜんぜん違うし。綺麗なら何でも良いのかお前は」
「間口が広いって言ってくれ。綺麗なお姉さんも、かわいい女の子も大好きだ。選べって言われたら、難しいだろ?」
「まあな。でも、姫は、性格があれだぞ。面倒だぞ。悪いことは言わないからやめとけって。ああ見えて根暗だし」

 彼はオレを茶化しただけだと思う。
  でも、オレはその言葉に答えられず、黙ってしまった。

「もしや、本気だった?見掛けはかわいいけど、あれでも大佐殿だぞ?」
「まさか。だって、別人だし」
「ああ、携帯に残してあった『姫』ね。なに、そっちはまともなの?」
「まともって……。お姫様捕まえて、なんて言い草だよ。まあ、まともって言うか、優しかったよ。あんな魔物相手に立ち回るような子じゃないし。あんなにかわいくて、優しいなんて、最高じゃない?」

 だけど。
  だけど、どうしても、あの陰のある表情が、オレの心に引っかかる。
  彼女と共有した秘密が、彼女を支配するはずの秘密が、オレを支配する。

 オレの知ってるティアスでは無くて、こっちのティアスのことばかりを思い出す。

「あれに似てる女が、優しいとは思えんけど……」

 悪態をついていたはずのニイジマは、いつの間にか消えていた。どうして?
 辺りを見渡すが、見当たらない。何で急に……。

「アイハラくん。どこに行ったかと思ってた。こんなところに。一人?」

 声をかけてくれたのはミナミさんだった。
 そっか。そういうことか。彼女が来たから、姿を見られちゃまずいと思って、どこかへ隠れたんだ。言えよ、びっくりしただろ?

「一人です。もしかして、探しに来てくれたんですか?」
「ああ。殿下と……テツが心配していたから。シンがおいてきたと言って」
「で、ミナミさんが迎えに来てくれたんですか?女の人一人で、危ないですよ?イズミがミナミさんを一人で外出させるとは考えにくいんですけど」

 いや、軍人だから、そういう問題じゃないんだろうけど。他の男を捜しに、って言ったら、絶対止めると思う。

「シンには内緒で来た。テツが行くって言ってたんだけど、彼は怪我をしてるから。帰ろうか、この時間は、許可証がないと門が開かないから」

 ミナミさんの気の使い方に、ティアスを思うニイジマのことを思い出してしまった。
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