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Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと] 続・序章 第1話 続・世界を見る 10/10
「ウソつけ。関係ないだなんて」
「まあ、いろんなことが、いろんな所と密接に絡み合ってるわけよ」
「イズミが勝手に絡ませてんじゃんよ。オレ、関係ないし」
あ、今の、ちょっとやばかったかも。オレはかなり冗談っぽく言ったのに、言ったはずなのに、イズミの目は超怖かった。
「呼び捨てにすんなって言ったろ?」
顔は大抵にこやかだけど、その顔をさらに大きく動かし、にっこりと笑って見せた。だけど、目が笑ってないんだって、お前は!!
「じゃあ、率直に言おうか。君、彼女が何者か、知ってるんじゃないの?」
「……何者って?」
「それはオレが聞いてるんだよ。さっきも言ったろ?怪しいって。ついでに、君もね」
「オレには何も出来ないっつったの、イズミだし」
「そうなんだよね」
どっちだよ。
まあ、ティアスのことに気付いてるわけでは無いみたいだから、良いけど。
「アイハラはさ、何も出来ない、何も知らない。ミハマがそう言うんだから、多分そうなんだよ」
運ばれてきたコーヒーに目を落とし、何も入れてないくせにスプーンでゆっくりかき混ぜ続けていた。
「まあ、オレもそう思うよ。ただ、お前は隠し事はしてる。ミハマはそれを知ってるけど、それを口にしない」
目を合わせない。その怒りにも似た、重い心の向く先はオレなのか、それとも彼の主なのか。
「程度によると思わないか?すべては」
「言ってることが……よく……」
彼は顔を伏せたまま、上目遣いでオレをにらみつけた。
「はっきり言っとくけど、オレはこの狭い世界を守るためならなんだってする。やっと見つけた、オレが生きていけるこの場所を」
「別にオレは、邪魔しないって。ほんとだって」
茶化す気にはなれなかった。
切実で、何だかクレイジーな彼の瞳が、怖かった。
重いよ。重すぎるよ!
「ミハマがお前をどうフォローしても、これがオレの仕事だから。彼女にどんなに心を移していても、オレは疑ってかからないと」
「何で疑う必要があるんだよ」
「……本気で言ってる?」
何を知ってるんだ?オレが彼女のことを知ってるって、疑ってる?
「オレは、別に彼女に怪しい所なんてないと思うけど」
「それは、君にとってね」
「何だよ、はっきり言えよ。そんな隠して喋らなくとも!」
「やだよ。めんどくさい」
ちくしょう。何だよ、こんな所に連れ出して、自分のことは喋らないってか?
「彼女を疑ってんだろ?でも、ミハマに気を使って、こうやってこそこそ動いてる。動いてるのには、何か理由があるくせに。疑ってるなら疑ってるなりの、理由があるんだろ?」
「疑ってるのは、オレじゃない」
「めっちゃ疑ってるっつーの!」
「オレには、確証もないし、あんなにはっきりと彼女のことを知ることもない。だけど、怪しいことは確かだ」
「イズミじゃないのか?彼女を疑ってるのは?誰?ミハマ?シュウジさん?それとも……」
イズミは顔色一つ変えずに、いつもの笑顔のまま、オレを見ていた。
「……サワダ?」
「残念だねえ。アイハラはさ、あの子のこと、気に入ってたんだろ?それを、元々いた所では、テツのそっくりさんにとられちゃって」
「話を変えんなよ。大体、お前が先に……」
重たい話を、まるで自らの思いを、オレに教えてくれるようなこと。
もしかして、これって、オレのこと、多少なりとも信用してるってことか?
ミハマにも、サワダにも話しにくいことを、オレに話してくれてるだけなのか?
「先に……何だよ?」
「いや、なんでもない」
イズミの表情は変わらない。なんか、あんなこと言うから、急に申し訳ない気分になってきたじゃないか。
やっと見つけた、生きていける場所だなんて。
もしかして、イズミだけじゃなく、ほかの連中もそんなこと思ってるのかな?
だとしたら、オレとはあまりに意識が違いすぎるよ。
「何だよ、何へこんじゃってんの?」
「別にへこんで無いっつーの!」
「ああ、そう。アイハラ君、気がちいちゃいからなあ」
「小さくねえよ」
「ああ、違うね」
人の悪い笑顔に変わった。いや、まあ、普段も人が悪いんだけど、余計に。
彼はわざとらしく、タバコを手にとって見せた。演じてるって感じがしますけど。
「世界が狭いんだ。悪かったよ」
少しだけ、認められたような気がしてたのに、何でこんな言い方されないといけないんだ。