Copyright 2006-2009(C) Erina Sakura All rights Reserved
このサイトの著作権は管理人:作倉エリナにあります。禁無断転載・転用
Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと] 続・序章 第1話 続・世界を見る 07/10
……絶対何かあった!
怪しすぎるよ!好きになるわけなんか無いって言っときながら、あの態度!
「相原です、入って良い?」
思わず、ドアをノックする手に力がこもる。ちくしょう、悔しい……。何があったんだ。
ティアスもちっとも返事してくれないし。
「……ごめんね。どうかした?どうぞ?」
何だ、わざわざ扉まで来て開けてくれたんだ。申し訳なさそうに扉の向こうからオレを覗いていた。
「1人?さっきサワダが出てきたみたいだけど」
「……あ、うん。いたけど、一緒に他の人もいたよ?」
いや、そうじゃないだろ?時間差があっただろ?
「入ったら?こんな所で話さないでも」
「うん」
1人きりなのに、あっさり部屋に入れるなあ……。平気なのかな、そう言うの。
もしかしたら、サワダのことも……。いや、だったらわざわざ『他の人も一緒に』なんて言う必要がない。
何度かこの部屋に入ったけど、2人きりになるのは初めてだった。大抵誰か一緒だったから。
それは、他の連中がオレのことを信用しきってないのもあるのだろうけど。
だって、この部屋と、オレにあてがわれた部屋は、随分扱いが違う。広さも、オレの部屋の倍くらいはあるし、ベッドも広い。
テレビもあったけど……ティアスはつけてないみたいだった。
オレの部屋が素泊まり客多めのビジネスホテル(安め)だとすると、この部屋はシティホテルのエグゼクティブフロアにありそうな部屋だった。言ったこと無いからよく判らないけど。
でも、やっぱりベッドには天蓋がある。意味が判らん。
彼女は後見にサワダの父親である元老院議院がついている。オレのように招かれざる客ではないということかな。
だって、彼女も私服でこの城にいるのに、よそ者なのに、オレのつけているバッジはない。
だからと言って、この部屋には当然、生活感なんて無いけど。
「体……もう、起きあがっても大丈夫なの?この間は起きあがるのも大変だったのに」
こんな言葉をかけることすら難しい距離感なのに、どうやって連絡係など!
「だいぶね。いつまでも寝てるわけには行かないし。時間もったいないから」
「若いのに、生き急いでるな」
「そうかもね」
彼女は悪戯っぽい笑顔を作って見せた。
「座りなよ。まだ、体が辛いだろ?」
「ありがと。君は優しいね」
「勇十で良いよ。オレの知ってるティアスは、そう呼んでたから」
そう言ったら、彼女は少しだけ戸惑っていた。申し訳なさそうな顔をして、目を伏せ、オレの顔を見ないようにベッドに腰掛けた。
『オレの知ってるティアス』
オレの知ってる彼女なら、気にするだろうことを判ってて、そうであることを期待して、わざとオレはそう言った。
彼女はオレの携帯のデータを消したことを、申し訳なく思っている。だからパスをくれたし、優しくもしてくれる。
そこにつけ込むようにといったら、言い方が悪いだろう。オレはくすぐっただけ。
「……ユウト。そこの椅子に座ったら?」
「うん」
おそるおそる、オレをそう呼んだ彼女に、オレは満足した。いい気分だ。
彼女が、オレの知る彼女であることと、オレと彼女の共有するこの時間に。
オレの知ってる彼女とは別人かも知れない。でも彼女は、オレと時間を共有した、あの子をこんなにも思い出させる。
「サワダと、何の話をしてた?」
「何でさっきからサワダ中佐の話ばっかり??」
「いや……まあ……。そりゃ……。いや、サワダってさ、何つーか、女の人苦手、みたいな話を聞いてたから、意外だなー……なあんて……」
「何それ。その言い方。何かトージみたい。やだあ?」
唇を尖らせ、むっとしてみせる様は、オレの知ってる彼女そのものだった。
逆にあの、中央の広場にいた、顔を隠した楽師の姿からは想像がつかない。
「あんまり、エライ階級の人って感じじゃないんだ?」
「そんなこと無いわよ?これでもそこそこの階級ですから」
今度は悪戯っぽい笑みを浮かべて見せてくれる。
「ティアスって、いま幾つなの?」
「失礼ね。そんなこと、直球で聞かないでよ、もう。20よ。トージと同じ年」
そう言えば、ニイジマも年上なんだっけ、オレより。あんまりそんな風に見えないけど。
「ふうん。ここの護衛部隊もそうだけど、それって……あんまりよく判んないんだけど、すごいんだろ?その年で、あの階級って言うのは」
「ああ、それはあの男の敷いたルールがメチャクチャだからよ。強ければ、戦って勝てば、上に上がれるだなんて。まあ、のし上がるのにはちょうど良かったけど」
あの男って……もしかして中王のことですか?支配者じゃないかよ、もう。
その制度でのし上がってる人間にまで、メチャクチャとか言われてるし。
……てか、サカキ元帥との会話を聞いてても思ったんだけど……中王に与してるわりに、忠誠心みたいなモノが感じられないって言うか。ここにいる護衛部隊と比べると、似てる部分もあるし、違いすぎる部分もある。
護衛部隊は、オワリ国に所属してるのに、愛国心というか、王とか、国自体への忠誠心のようなモノが薄い。国のために戦うし、国を守るために動いているのだけれど、彼らにとっては王子ミハマが全てだ。
王子が国を守るから、彼らも国を守っている。そんなところがある。だけど、彼らの王子への忠誠心は強く、重い。
良いとも悪いとも思わないけど、護衛部隊も、ティアスも、組織の中で浮いてるように見える。
「ちゃんと黙っていてね。こんな話。判ってると思うけど」
ティアスは、人の悪い笑顔を見せた。余裕たっぷりに。