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Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと] 続・序章 第1話 続・世界を見る 06/10
確かにオレは、この城の中で、場所は限られてるけれど、自由に動けるようになった。
オレの学ランの胸には金色の小さなバッチがついている。ちょっと凝った彫りが入ってるくせに、星形でちょっとカジュアル。いぶした感じの色が、アンティークっぽくって嫌いじゃない。これがまた意外とかっこよかったりするんだけど。
だから、このバッチ自体に不満はないんだけど。
だけどこのバッチは、要するに識別の印なわけで。
まあ、名札だってそうなんだけど。でもこのバッチがどういう意味での識別なのか?それが判らず、ちょっとだけ不愉快だった。
でも、オレに自由が、限られた中での自由が与えられたのは、確かにこのバッチのおかげだ。
国でオレが軍服を着てるわけにも行かない。私服でも、この学ランでも目立つ。だから、この人は部外者じゃないですよ、という証なのだろう。
事実、先ほどニイジマ達やイズミ達が言っていたように、この国は外敵を警戒をしている。
そんな中、オレはただの刺激物にしかならない。
だから自分で刺激物じゃないことをアピールするしかない。
でも、刺激物じゃないことをアピールできても、浮いてることには変わりない。
彼女の部屋へ向かう道のりも、オレは好きじゃなかった。
ここにいると、人目に付くのが、いやになってくる。
そして、いやでも人を必死で観察しなくちゃいけないことにも気付かされる。
ホントは、ここにいるのは不愉快でしかなかった。感謝をすることとは、別の話だ。
なのに、ティアスとニイジマ達の間をつなぐ?この上、オレにここで一体どう動けと?!
ティアスの部屋に向かう途中で、何人も軍服を着ている人に会う。
親衛隊以外、この城の上層階であるフロアで、オレが知ってる……つまりは過去で知り合いだったヤツに会うことはなかった。外ではたまに見かけることもあったけど。
階級の低い兵は、このフロアには上がって来れない……らしい。
年齢的に、まだ士官学校生か、士官学校卒でも准尉か少尉、大抵は陸軍歩兵といったところだ。
要するに、このフロアは、あのイズミ達が下手に出るような、階級の高い人たちばかりなのだ。
だから、余計に居心地が悪い。
初めて会う人が、どれくらい偉くて、どんな扱いで、どんな立場なのか、ある程度は見極めなくちゃいけないってこと。
そんなめんどくさい上に、むかつくこと、いちいちしなくちゃいけないのがいやで仕方ない。
例えば……ちょうどティアスの部屋の前に立つ、軍服に身を包んだ男性。もう、中身なんか見えやしない。間違えないために、まず軍服を、それから階級章を見ないと。
おそらく、この部屋に一緒にいるミハマか、イズミに用があるんだろうから、伝令だとしても少尉以上。伝令じゃなく、用があるなら、もっと……。
胸に光る勲章と、襟に付いた小さな階級章。それを見逃さないように。
階級は少佐、勲章は1つ。でも、戦争での功績じゃない。
おそらく年は40近いだろう。豊かな口ひげを蓄えていることに、オレはやっと気がついた。
「……君は?殿下に……ご用ですか?」
口ひげの少佐は、オレを嘗めるように値踏みしたあと、胸に光るバッチを見つけたらしく、値踏みをやめ、言葉を変えた。
オレはわざとらしく敬礼して見せた。
「いえ。オレ……僕は結構です。この部屋の客人に用がありますので……。後ほど。外で待たせていただきます」
オレの言葉を受け、少佐は部屋の扉をノックし、許可を得て入っていった。
中は何だか賑やかだった。
そう言えば、サワダの父を後見に持つと言うことと、出会いのこともあって、彼らは彼女を警戒していたはずなのに、話している姿は何だか楽しそうだった。
その姿は、オレの不安を煽っていた。それは十分理解している。
部屋の外で待っていたら、ミハマとイズミが口ひげの少佐と一緒に部屋から出てきた。
「イズミ中佐は結構ですけれど」
「いえいえ。王子の護衛が、私の仕事ですから」
笑顔を崩さないまま、減らず口を叩くイズミ。隣を歩くミハマが、オレの姿に気付いて苦笑いして見せた。
……何か、どっと疲れるな。
思わず溜息をもらす。
今なら、部屋にはティアス1人か……。やっとまともに話が出来そうだな。
でも、何から話したら良いんだ?まいるな……ちょっと考えないと。
扉をノックするまでに、随分時間がかかったような気がした。
ニイジマがオレに何を求めてるのか知らないけど、彼からの重圧はノックする手を鈍らせるのに充分だった。
「あれ?アイハラ?何だよ、こんな所で」
「?え?!何で、サワダがティアスの部屋から……?会議に行ったんじゃ」
不思議そうな顔でオレを見ながら、サワダは後ろ手に扉を閉めた。
てか、なんでミハマ達と一緒に出てこなかったんだよ。今まで……そんなに長い時間じゃなかったにしろ、もしかして2人きりだったってこと?!
「いや、報告会だけだったし、遅れていったからすぐ終わったんだ」
「でも、何でここに?」
「いや、ミハマ達がいたから……。なに噛みついてんだよ」
苦笑いを見せるサワダ。……ちょっと大人気なかったかも。
でも、よりにもよって、サワダなんだもんな……。
「別に。なに話してた?」
「話?……話、ねえ……」
目を伏せる。その顔が、まるでオレの知ってる沢田のようで、……嫌だった。
「とくに何も?お前が気にするようなことは。自分の知ってる女とは別人とか言っときながら、相当だな」
「サワダこそ。何でそんな含んだ言い方するんだ?」
一瞬、サワダの表情が変わったのを見逃さなかった。
すぐに元に戻ったけど……慌てたような、悪いコトしたような、そんな顔だった。
「なにもない。あるわけもない。勝手に誤解すんなよ、めんどくせえ」
そう言って、オレの前から逃げるように、彼は立ち去った。