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Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと] 続・序章 第1話 続・世界を見る 02/10
「……なあ、中王は、何で各国にスパイとかいれてんの?だって、大名行列までやらせて、しっかり支配してるのに」
「さあね、気が小さいんじゃないの?」
オレの質問に対してそう答えたイズミを睨み付けたら、笑い飛ばされた。
「てか、元傭兵の集まりって言ってた、中王の周りの人は。なあ?!」
「ああ、言った言った。オレらの年より上のヤツは知ってる。知ってるって言っても、各国の支配階級くらいだけだけど。情報操作もされてるし」
わざわざ説明してくれたサワダに、イズミがからかうように「親切☆」なんて言って笑った。
「どういうこと?」
イズミの方を見るのをやめた。
「テッちゃん。そんなヤツに説明したってしょうがないでしょ?大体、そいつの話がホントなら、この時代のことなんか、コイツには関係ないんだし」
「関係ないからこそ、知っといた方がいいこともあるかもな。ミハマなら、多分そう言うさ。そのつもりでコイツを放し飼いにしてるんだろ?」
放し飼い……言い得て妙とでも言うべきか。
実際、王子の護衛部隊だって、オレに対しては微妙な態度だ。オレが悪いのかも知れないけど。王子であるミハマが、オレに対してもフラットな見方をしてくれた。だからこそ、こいつらもそれに倣っている。それだけだ。
痛いほど、判ってきた。
「関係ないからこそ、知らなくても良いことだってあるさ。ミハマなら、そうとも言うだろうね。だからこそ、オレ達も放し飼いだよ。オレの態度を見てもね」
サワダは溜息で返事をした。
イズミの言葉の意味も判る。
ミハマはオレを全面的に信用してるわけじゃない。出会ってからの時間を考えれば当然だ。
だからこそ、オレにも、オレを疑う者達にも、好き勝手にやらせている。
何より、オレはともかく、彼は彼の護衛部隊を、何より誰より信頼している。彼らがそれに応えるために動いているから、全幅の信頼を寄せているのか、それとも、彼が信頼するから、彼らがより応えようとするのか。
「スパイ、いるんだろ?この国にも」
「いるよ?」
「だから、オレが余計なこと言ったらまずいんじゃないの?」
睨むようにイズミを見つめるオレに、彼は苦笑いで応えた。
「何度も言うけどね、オレはそれなりの階級の軍人で、この国の世話になるなら、それなりの態度しろっての。しかも年上なんだし。だってお前、テッちゃんと同じ年なんだろ?あれ?今年18なら、テッちゃんのが上?」
「……誰が年上?」
「だから、オレ。君の時代のオレのそっくりさんは、君と同じ年かもしれないけど、オレは今19歳ですから」
「……そうなの?学年一緒とかじゃなく?」
「なく!」
そう言えば、ニイジマも20歳とか言ってた気がする。なんか、ここまでそっくりなのに、年齢とか違うのって、逆に違和感あるんですけど!!
「そんなに驚いた顔しなくても。意味が判らん」
「だって!こんなに似てるのに、つーかまんまなのに!気持ち悪いよ」
「気持ち悪い意味がわかんねえし」
「もう良いよ。良いから、説明して」
「図々しいよね、アイハラくん」
そう言っていたけど、イズミは何故か笑っていた。
だいぶ、態度が柔らかくなった気がする。
「要するにだ。今から25年前、当時傭兵だった現中王は、仲間と共に中央に乗り込み、中王を殺し、赤子だった中王の娘を幽閉し、その座に自らが座った。それだけのことだ」
「……クーデターみたいなこと?」
「それならまだマシじゃない?」
ホントに、支配者なんだ。今の中王は。
だから、逆らった国は武力制圧され、『墓』だなんて呼ばれる。
逃げ場はない。この世界は、もうこの狭い場所しかないのに。
「なあ、その中王の娘って……?」
幽閉したってことは、殺されなかったってことだ。
なんでだろう。赤ちゃんを殺すのは忍びないってことかな?多少なりとも、人間らしい心があるってこと?
「行方不明だよ。5年前からね。まあ、前中王の娘が生きてるってことを知っているのは、中王軍でも一部だけどね。統括部があれから 、血眼になって探してるし。行方不明になったとき、中央に出入りしてる各国のエライさん達は、彼女が死んだものだと思ってる。そう発表されたし」
「意味が判んないって。何それ?何が真実で?誰が何を知ってるんだよ?」
「さあ?」
「何でイズミはそんなこと知ってるんだ?」
彼は笑顔で応えた。聞くだけ野暮なのかも知れない。コイツは何だか底が知れない。
「中王が各国にスパイを派遣してるように、各国も対応してる。生き残り、のし上がり、支配から逃れようとしたり、うまく立ち回るためにね。情報がなかったら、何も知らずにのたれ死んでくだけだから、この世界では」
サワダが補足してくれた。
これは、彼の優しさなのだろう。……たぶん。
「中王って、いったい何なんだよ。世界の支配者?何がしたいんだよ。何で探してんの?前の中王の娘を」
「さあ。何がしたいかはよく判らない。だけど、中王の血を引くものを探すのには、何か理由があるらしい。こないだ、シュウジが何か言ってたな」
「言ってたね。まあでも、そんなこと、こいつに話しても仕方ないでしょ?必要ない。ただ、支配されてる側の正しい対応としては、どうやって支配されてるか理解した上で、NGワードを喋らないって言うのがベターじゃないの?」
彼は、これ以上喋るつもりはなかったのだろう。サワダの隣に座り、彼のマネをするように煙草を吸い始めた。
「支配されてるだけじゃ、納得いかないし、何とかしたいから、『それなりの対応ってヤツ』をしてるんだろ?」
「当然だろ?何もしないままのたれ死ぬのだけはいやだね☆」
にやっと笑ったのはイズミだった。
「な?テッちゃん」
「……だな」
その笑顔に、オレですら違和感を感じてしまうほど、彼は力無く微笑み返した。