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Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと] 序章 第7話 選ぶと言うこと 09/10
イズミの機嫌が少しだけよくなったように見えた。彼は笑顔だった。
扉をノックし、中の様子を伺ったら、イツキ中尉が出てきた。
「悪いけど、いれてくれる?ミハマがこれを連れてけってさ」
機嫌はよくなってるように見えたんだけど……『これ』扱いかよ。指さすなよ、もう。
「殿下は?どうなさったの?」
「もちろん、テツの所だけど?」
「いま戻ってきたばかりなの?」
イツキ中尉はオレに聞いていた。少しだけ嫌そうに。思ったより、サワダ父との話が長引いてたから。普段、よっぽどなんだな……。
なるべく表情を変えないようにして、オレは黙って頷いた。
「殿下がおっしゃるなら、どうぞ」
ホントにここの連中は、ドイツもコイツも殿下殿下って。もうさすがに慣れたけど。
あまりに自分の存在がぞんざいに扱われていて、ちょっときつい。
いや、『ちょっと』じゃないか……。
でもまあ、良いよ。ティアスに会わせてもらえるなら。それがこいつらを束ねてる王子様の意志。だからオレは彼女に会える。この自由のない世界で。
彼女の存在だけが、いまのオレを照らす。
部屋に入ると、ティアスがベッドから起きあがっていた。ケガが酷いせいか、あまり元気がいいとは言えなかったけれど、オレを見て笑顔を向けてくれた。
それだけでも嬉しかった。
あの時代では沢田のモノだった彼女は、いまオレと秘密を共有してる。彼女はオレのことを見てくれてる。ずっと欲しかったモノが、手の届くところにいる。
「彼女、さっき目を覚ましたばかりなのよ」
「そっか。そうだよね、ケガ酷かったから……」
でも、今イズミとイツキ中尉がいる前じゃ、オレは彼女に何を話して良いか判らない。お互いに知ってるって言う顔をするのも変だし……彼女が死神だってばれてしまうわけで。
「サワダ議員のご関係の方だとお伺いしてますけれど?」
そしてこの男は……怪我人相手にそう言うこと言うか?
「なに睨んでんの?」
「別に。彼女がもうちょっと落ち着いてからでも良いんじゃないかな?」
「やけに突っかかるじゃないの」
「いや、ミハマ以外のヤツへの気遣いがないな、と思っただけで」
「喧嘩腰だな」
「良いんですよ。もう大丈夫ですから。お世話になりました」
彼女はにこやかに微笑む。大丈夫って顔色じゃないんですけど。
「……シン、その話は後にした方が」
「いいえ。サワダ議員にオワリ国王にご紹介していただくことになっていたんです。その途中に魔物に襲われてる人がいて」
「へえ。うちのガーディアンですら手こずるような魔物相手に、善戦してたって話を伺ってますけど」
イズミのこの超喧嘩腰に、ティアスは笑顔で答えていた。
なんか、あの噴水広場でのイメージと違うけど。