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Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと]

Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと] 序章 第7話  選ぶと言うこと 01/10


 森の中だけではなく、クレーターの中のあちこちからも煙は上がってる。その中心にいるのは、サワダとティアス。彼は彼女を抱きかかえていた。

 てか、何、この状況は?ヒーローですか、あの男は!? 

 イツキ中尉について、クレーターの壁ををゆっくりと降り、サワダ達に近付く。サワダの腕の中にいるティアスは、ピクリとも動かない。
 オレは彼女から、どうしても目が離せない。
 死んでるわけではないけど……。

「テッちゃん!何があったのよ?」
「お前な!この状況ならフツーは『大丈夫?』じゃねえのか!」
「……サワダ、テ……彼女は……?」
「アイハラ……お前まで。ユノならともかく」

 あからさまに嫌そうな顔をして見せたが、サワダは大丈夫そうに見えるんだから仕方がない。

「大丈夫だよ、死んでるわけじゃない。傷は深いけど。……知り合い?」
「……でも、こっちの時代の人だ」

 彼女のことを話すのは、まずい。それくらいはオレだって理解してる。理解してるから、ティアス……。

「そうか」

 オレは、相当まずい顔をしていたのだろう。サワダは明らかにオレの顔色をうかがっていた。何故かは知らない。もしかしたらティアスがあの楽師だって判っていたのかもしれない。彼女に対するサワダの態度は、オレにはあまり良いものには見えなかったから。

「……アイハラさん、彼女を代わりに支えてあげてください」
「え?」
「だって、テッちゃんもケガしてますから。これだけの騒ぎなら、すぐに警備隊がやってくるはずですし」
「え?サワダ、ケガしてる?」

 彼女の体で見えなかったけれど、サワダの腹には大きな傷があった。いや、その傷って、フツー意識とか飛んじゃったりするんじゃないの?なんだよ、コイツ!?

「平気だって、そんなに酷くない」
「そう言うのは、酷い傷ってフツーは言うのよ?殿下に連絡するからね」
「いやいやいや……待てって、大丈夫だって」

 携帯片手にミハマに連絡するイツキ中尉を、必死に止めるサワダ。しかし、彼女は完全に無視。危ないので、オレはサワダの手からティアスを受け取った。

「……仕方ないわね、ホントに。何があったの?」
「何って、魔物が襲ってきたんだよ。『空から』ね」
「……空……」

 天を指さすサワダにつられ、思わず空を見上げた。
 空から来る魔物を統率する力を持った一族は大陸に住んでいる。そして中心部に魔物がやってくることはほとんどない。

『だとしたら、私も魔物の一族ってコトになるわね』

 あるわけもない。それが実証された。
 彼女が魔物の一族だなんてこと。
 こうして、彼女は魔物におそわれ、ケガをしている。だから、あり得ない話だ。

 少しだけ、ほっとしたのに……どうして何かが引っかかるんだろう。
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