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Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと] 序章 第6話 袖振り合うも多生の縁 08/08
今、確かにいた……。
いたはずなのに……。
「どうしました?誰かいました?」
「いや……ごめん、見間違えたみたい」
彼女はもう、いなかった。随分離れていたし、見間違いだったんだろう、ホントに。いくらなんでも、こんな所にまで来るはずがない。
「……ごめんなさい。戸惑ってますよね、ホントなら。あなたの話が全て真実なら、あなたは相当辛いはずなのに」
イツキ中尉は心配そうな顔をしてくれはしたけれど、『真実なら』と念を押した。
しばし……彼女は言葉を発しなかった。嫌な沈黙が流れる。
彼女が言葉選んでいるであろうことは、容易に理解できた。
「もう、部屋に戻ったらどうかしら。お疲れでしょう?」
「もう少し、ここにいて良い?」
「良いですけど……あなたにとっては、ここは何もない場所だわ?」
そうだけど。
この人、口調が優しいだけに、余計こたえるな。
風に乗って、血の匂いがした。イツキ中尉もそれに気付いたのか、不安そうな顔でオレを見た。その時、何人かの男女の叫び声と共に、地面が揺れた。
「な……なんだ?!」
「何が起きてるの?敵襲?魔物?……でも、こんな中心部に?!」
彼女の顔は、不安と言うより、闘う者のそれだった。
「私、見てきますから、アイハラさんはここにいてください。危ないですから!」
「危ないって!君だって!!」
声の聞こえた方に走り出したイツキ中尉を、必死に追いかける。
地面の揺れが徐々に酷くなり、血の匂いもきつくなる。走って現場に向かっている家に、墓場を抜け、森に出た。
森の奥の方から、煙が上がっている。
「なんでついてくるんですか!危ないですよ?」
地面の揺れは、いつの間にか収まっていた。
それに彼女も気付いたらしく、少しだけ安堵の顔を見せた。
「……収まってる見たいですね」
「でも、煙が収まらない」
「そうですね」
話しながらも、彼女は足を止めない。
現場はすぐに判った。地面にえぐれたような巨大なクレーターが出来ていて、周りの木は燃えさかり、煙を吹き出していた。燃えさかる木の周りには、何人かのケガをした男女がいた。おそらく、叫び声を上げたのは彼らだろう。ケガはしているが、自力で動けているようだった。
一体、どうやったらこんな巨大な穴が出来るのか。何があったんだ、こんなに怪我人がいて。
……クレーターの中心にいたのは、サワダとティアスだった。