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Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと] 序章 第6話 袖振り合うも多生の縁 07/08
どうしてサワダが墓を掘るのか。彼女はそう聞いた。
その後、楽師の話になった。何故楽師が墓を掘ってるのか、オレは聞いた。楽師とサワダが墓を掘る理由が、実は同じか、あるいは非常に似ているか、どちらかだと思ったから。
彼女の言う『同病相憐れむ』って言うのはそう言う意味だと思ったから。
でも、イツキ中尉は「誰の墓を?」と聞き返してきた。
それってつまり、サワダもいろんな人の墓を堀りながら、「誰かの墓を掘っている」ということにならないか?
イツキ中尉の言葉は憶測でしかないけれど、ティアスも「誰かの墓の代わりに墓を掘り続けている」と言うことにならないか?
ティアスが?サワダが?何のために?
だって、サワダは何だか辛そうだったけど、ティアスはあんなに優しいじゃないか。
「……楽師もサワダも、誰かの墓を掘り続けてるってことかな?」
「どうかしら。私にはよく判りませんけど。楽師殿という方は、人づてにしか知りませんし」
「楽師じゃなくて、サワダのことは知ってるくせに」
「……本当に、何も知らないんですね?知ってて、そんな言い方だとしたら、シンが怒るのも無理はないけど」
……やば!!地雷踏んじゃった?!
イツキ中尉の顔色は変わってなかったけど、それって要するに、カンに触ったってことだよね?
「墓……見ました?」
「少しだけ」
「テッちゃんが掘ったのって、どれくらいか知ってます?」
「……知らない……」
彼女は笑顔を崩さない。でも、妙な……絡みつくような威圧感を持ってる。
「連れてってよ。オレ、ホントに何も知らない。でも、イズミもミナミさんも怒らせて、理由も判らないままじゃ納得いかない。君は教えてくれるつもりもなさそうだけど、サワダが掘った墓くらい、教えてくれても良いだろ?」
「そうですね。でも、誤解しないでくださいね」
「なにを?」
「シンやミナミさんの怒りって確かに理不尽だから。だから、私はあなたに同情してるだけなんです」
……き……きつくない?!この人!!
こんな笑顔を見せてくれるけど、優しくしてくれるけど、相当怒ってるってこと?
結局オレは、その後彼女とは会話を交わすことが出来ず、墓に連れられた。
巫女さんの姿をしてる彼女は、この洋風の墓には何だか不釣り合いだった。
「どれくらい、サワダが掘った墓があるの?」
「最近はあまりさせてもらえないですけど、この端から、その端くらいまでは全部ですね」
「『最近はあまりさせてもらえない』って?なんで?」
「テッちゃんにも、立場ってモノがあるし……それに、これはいいことなんですけどね」
彼女は、墓を見渡す。俺もその彼女その視線を追いかける。
墓には、若い兵士が何人かいて、作業をしていた。墓石がないところを見ると、新しい墓を作っているのだろうか?
「……他にも、墓を掘る兵がいるんだ」
「ええ。前はあまりいなかったんですけど、テッちゃんが率先して掘ってたから、それを追うように、掘ってくれる人が現れ始めたんです。テッちゃんは居心地悪そうにしてたけど 、殿下は軍のためには後々良いことだって。士気を高めるためにも」
居心地が悪い……。なんか、後ろめたいことがありそうな感じだな。
サワダもそうだけど……ティアスももしかしてそうなのかな。
こうしてサワダの話を聞いているのに、ティアスのことばかり思い出してしまう。彼女の姿が頭を離れない。顔を隠してピアノを弾いているのに、その中に、彼女の悲しそうな表情が見えるようで。
「……って、ティアス!?」
オワリの国の軍の墓場に、ちょっとパンクな黒ジャケ黒スカートに身を包んだティアスが立っていた。
もちろん、顔は隠さずに。