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Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと] 序章 第6話 袖振り合うも多生の縁 06/08
イツキ中尉に沢田達の話をしても、すんなり受け入れてくれた。何だかミハマと話をしているみたいで、話しやすかった。
いや、ミハマよりもずっと話しやすいかも。あの人、のほほんとした顔で、時々とんでもないことしでかすから。そう言う怖さが、彼女にはない。
「……なんで、サトウさんの名前言ったら、あの二人はあんなに怒ったの?サワダと何かあった?」
彼女はにこやかに微笑んだまま。
「……サワダの様子がおかしいのと、関係あるとか?もしかして……」
同病相憐れむ。
ティアスがサワダに言った台詞を思い出していた。
明らかにサワダは、苦しんでいた。オレの知らない何かで。
「興味あるの?」
イツキ中尉の笑顔は変わらない、だけど……。
「オレのこと、試してる?」
「まさか?」
「……人が悪いよ」
かわいさに騙されそうになる。
でも、沢田が嘘をつくときと同じ顔をした。だから、よく判ったよ。
「興味じゃない。……サワダには、本気で感謝してるよ。ミハマにも。でも、それが空回りするし、イズミには独りよがりだって言われるし、挙げ句の果てに知ってる奴の名前言っただけで怒られてるんじゃ、どうして良いか判んないから。そんだけ!」
「殿下は聞いてくださるけど……シンじゃ難しいわね。殿下は諫めてはくださるけど、シンを止めるようなマネはしない方だし。シュウジさんもフォローはしてくれないだろうし。サラさんもテッちゃんが絡むと、ちょっと冷静なところがなくなっちゃうし」
「……君は?」
「どうかな?」
可愛いけど……食えないかも。所詮、沢田の妹……(いや、こっちじゃ兄妹じゃないんだけど)
「どうして、テッちゃんはお墓を掘るんだと思います?」
「何か、関係あるの?」
「どうかな?」
「あるんだ。……じゃあ、逆に聞くけどさ、君は中央にいる楽師殿の話を聞いたことは?」
「よく、殿下に聞かせていただきますよ」
直接の面識はないけど、彼女たちの共通言語にはなっている、らしい。
「その楽師が、墓を掘っていることは?」
「ええ」
「彼女、サワダに優しくしたことを部下に『同病相憐れむ』って言った」
「そう」
彼女の反応を一つ一つ確認しながら話しているのだが、彼女は全く変わらない。
「何で彼女は墓を掘っているのかな?」
「誰の墓を掘っているんでしょうね、本当は」
「……誰の?」
死んだ兵士の墓じゃないの?
……ああ、そうじゃない。楽師の心にも、サワダの心にも、死者を弔う気持ちはある。でも、その個体に対して感情はない。だけど、その姿は妙に悲しい。
ティアスが墓を掘る姿は、想像もつかなかったけれど。