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Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと] 序章 第6話 袖振り合うも多生の縁 05/08
「……不愉快になるかもしれないけど……オレの話、聞いて貰っても良い?」
「どうぞ?……大丈夫ですよ、そんなに身構えなくても。シンやサラさんはちょっと極端なんですよ。誤解しないであげて」
「……ミナミさんも?ちょっと、あの極端な反応はびっくりしたけど」
「あはは、普段と全然違って、可愛いでしょ?」
いやいや……君も充分可愛いんですけどね。
オレに笑顔で対応しながら、部屋まで一緒について来てくれる。
この人は……普通だ。やっぱそうだよな、あいつら、極端つーか、メチャクチャだよな。
「シンはあの通りの人だから、仕方ないけど、サラさんはこの後でもちゃんと普段通り喋ってくれますよ」
「そうかな。そうだと良いけど」
「大丈夫よ。あの人は、冷静な判断の出来る人だから。確かに、テッちゃんや殿下のことになると、ちょっと感情移入し過ぎちゃうところもあるけどね」
もう、部屋の前についてしまった。
もう少し、彼女に話を聞いてみたいんだけど……。
「君は?ホントは、オレに怒ったんじゃないの?」
「彼女の名前を口にしたくらいで?あの人、神経過敏すぎるの。テッちゃんだって、そんな弱くないのに」
「お兄さんみたい?」
「あら、私の方がお姉さんぽくないかしら?」
扉の前で話を続けるオレにも、彼女は笑いかけてくれる。どう見てもサワダと同じ遺伝子の入った顔してるけど、やっぱり可愛い。
「知ってるの?サトウアイリって言う人のこと?」
「……知ってるって言うか……オレのいた時代の沢田の、ピアノの先生だったんだ。美人だったから、良く見に行ってた。N町のスタバでいつも待ち合わせて、レッスンに行くんだって言ってたよ。だから、沢田はいつもあそこで彼女を待ってた。ティアスが現れるまでは、沢田のヤツ、絶対佐藤さんのことが好きだったんだよな。絶対口割らなかったけど」
「どんな風だったの、あなたの知ってるテッちゃんは」
「いや、あんな感じだよ。あそこまで極端に根暗じゃなかったけど。ピアノばっか弾いてて、口が悪くて、根暗で、ひねてて、古風。泉も……まあ、あんな感じだけど、あんなに怖くはなかったな。普通に仲も良かったし、割と笑顔を絶やさないタイプの人だったから」
何でオレ、あんなにいじめられるんだろうな……ホント。
「どこが良かったのかな?確かに綺麗な人だけど……テッちゃんのことなんか、見てもいないのに」
「そうなの?仲良さそうに見えたけど。佐藤さんて気が強いって言うか……ちょっときついところがあったから、沢田がそれを諫めて……って感じで。あいつ、ああいう気の強いタイプ好きなんだな」
「タイプ?」
「うん。結局佐藤さんとどうなったかは絶対口割らなかったけど、つき合ってた女はまた気が強かったしね」
ティアスは、じゅうぶんすぎるくら良い子で、優しかったけど、負けん気の強い女だった。よく沢田と口げんかしてたし。てか、沢田が負け気味だったし。
こっちのティアスも……気は強そうだな。あのサカキ元帥とか言うエライ人に対して超喧嘩腰だったし、軍で大佐なんて呼ばれちゃってるくらいだし。いろんな意味で強そう。
「……オレの知る限り……別に佐藤さんてそんな悪い人じゃないし、沢田との間に何かあったのかとか知らないけど、二人は仲良かったよ。……もちろん、こっちのサワダとは別人なわけだけど」
「そうだね。でも、なんか不思議な感じがするよ。テッちゃんじゃない人の話なのに、何だかテッちゃんの話を聞いてるような気もする。何だか訳がわかんなくなっちゃった」
そうなんだ。オレも話してて時々混乱してくる。
オレのことを人扱いすらしてないイズミだって、一緒にいると、何だかオレと一緒にいた泉のような錯覚すら覚えるし、サワダだってそうだ。
でも、そっくりで、時々同じコトを言って、同じような生き様のような者を見せてくれるくせに、何だか根本的に何かが違う気がしてた。
ティアスだけだ。
オレがあの時代を思い出せるのは、あの時と変わらない、優しいあの子だけ。
オレにいつでも会いに来てと、言ってくれるあの子だけだ。