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Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと] 序章 第6話 袖振り合うも多生の縁 03/08
また、オレは余計なことを言ってしまった気がする。
明らかに、『サトウアイリ』の名前を聞いた途端、彼らの間に漂う空気が淀んだ。
「あの……」
「判ってんなら、喋るなよ。ホントに空気読めないっつーか、無神経っつーか」
「無神経まで言うことないだろ?!大体……今のは良くない気がするけど、サワダのことだって……」
「黙ってろよ!てめえの声も聞きたくねえ!」
イズミの口元だけはいつも笑ってた。目だけが笑ってなくて怖かった。でも、それでも、彼のポリシーなのか、笑顔らしきモノを作りながら、彼はオレに罵声を浴びせていた。
でも、今、彼の顔から完全に笑顔のようなモノは消えていた。オレをバカにするでもなく、突き放すように。
彼はもう、オレの方を向くことはなかった。
「どうしたのよ、シン。そこまで怒ることないじゃない。この人、何も知らないんだから」
「そんなの判んないだろ?ホントに知らないヤツの口から、こんな単語が出てくるか?!」
「それもそうだけど。……サラさんも何か言ってよ」
ミナミさんは黙って、オレ達の様子を見ていた。彼女が怒っているようには見えないけれど、何かを考え込んでいるようだった。
「ユノちゃん、オレはこういうヤツ、ホントに嫌なんだよ。何か知ってるにしても、知らないにしても、タチが悪いね。無神経って言うのは、罪なの!」
「シンだって無神経なとこあるわよ」
「それとこれとは話が違うって。テツのこと何も判ってないくせに、何も知らないくせに……ミハマがどんな思いでテツをかばってるか、わかんねえくせに!」
イズミはオレを罵るくせに、オレの方を一切見ようとしなかった。
……ミハマ。
イズミは、別にサワダのためだけにあんなに怒ってたんじゃない。誰より彼をかばっていたのはミハマで、ミハマの存在があるからこそ、サワダをかばう。二人分の怒りを、悲しみを、背負うモノを、イズミがオレにぶつけてきた。
そうでも思わなければ、納得できないよ、イズミの怒りが重すぎて、痛くて。
「ねえ、アイハラさんが何か言ったのかもしれないけど……でも、この人にはこの人の言い分があると思うの。サラさんからシンに何か言ってあげてよ」
オレはただ黙って、表情を崩さないように強張ってることしかできないけど、ミナミさんがイズミに何か言ってくれるのを、イツキ中尉以上に期待していた。
多分……この短い間、ここにいた印象でしかないけれど、イズミは、基本的にミハマとミナミさんの言うことしか聞かないんじゃないかと思ったから。
「サラさん」
ミナミさんは、イツキ中尉の言葉には応えず、目を伏せた。
「悪いけど……シンを止める気も……何か言う気もない」
た……頼みの綱なのに!!
もしかして、ミナミさんも相当怒ってるってこと?!
「もー!!テッちゃんは別に、アイハラさんには普通の態度だったじゃない。怒ってもいなかったし。それ見たら判るでしょ?サラさん!テッちゃんはそこまで弱くもないし、バカでもないわよ!」
オレのことをミナミさんもイズミも怒ってると思ったのだけれど、イツキ中尉はサワダの話を彼女にしていた。
ミナミさんに対して、まるで怒鳴りつけるかのように叫んだかと思うと、今度はイズミに向かってつかつかと歩いて近寄り(袴なのに、よく見たら編み上げブーツだった)、随分上の方にある彼の鼻の先に向かって指を指し、怒鳴った。
「殿下はこの人を自由にさせたんでしょ?あの方は、言いたいことがあったらちゃんと自分で言うし、この人がテッちゃんに対して無神経な態度をとっていたのだとしたら、絶対どこかで釘刺してるわよ!」
……当たってる!!なんかすごい!!
「だから、ここでシンが怒る必要なんかないの!殿下の思いを無駄にする気?!テッちゃんのことを、シェルターに入れて守ってあげたいわけじゃないのよ、あの人は!」
「……まあ、そうだけど……」
バツが悪そうにそう呟いたとき、イズミはやっと、一瞬だったけどオレのことを見た。