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Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと] 序章 第6話 袖振り合うも多生の縁 02/08
ミハマは、サワダとシュウジさんを連れ、王が待つ謁見室へと入っていった。イズミとミナミさん、イツキ中尉は、ここにはほとんど入れないんだと言っていた。
王に会えるのは、貴族だけなんだと。
階級は同じでも、大きな壁があるような言い方だった。
「まあ、そういやな顔するなって」
「……どっちが」
もろに不愉快な顔して答えたのに、イズミは笑顔だった。
なんか、ホントに怖いな、こっちのイズミ……。だって、そう言うイズミが一番不愉快そうだったくせに。
「アイハラくん。部屋に戻りましょうか。ここで待っていることは出来ませんから」
「……すみません」
どこまでも丁寧で(ぎこちないけど)優しいミナミさんには、ただただ頭が下がる。だって、階級も一緒で、同じ王子の護衛部隊なのに、そばで待つことすら出来ないなんて、悲しいじゃないか。
ミハマに対して、彼女はあんなに心を寄せているのに、悔しいはずがないのに。
ミナミさんに誘導される形で、オレが彼女の横を歩き、その後ろからイズミとイツキ中尉がついてきていた。
「そういえば、さっきサワダ中佐がおっしゃってた……中央のセリ少佐というのは?」
エレベーターに乗った途端、ミナミさんがイズミに切り出す。
「ああ、話したことなかったっけ?」
「いや。名前は聞いたことある。ただ、こんな所に私服で、と言うのが気になったんだ。お前は心当たりは?」
「どうだろね。あの人、変わってるからね。若手ナンバーワンのくせして、わざわざ楽師の下を選ぶような人だから」
「……私の印象では……」
「なに?」
ミナミさんは言葉を選んでいるようだった。しばし、視線を落として考える。
エレベーターの扉が開く。その時、口を開いたのはミナミさんではなく、イツキ中尉だった。
「楽師殿って、悪い人じゃないって印象だけどな。変わってるって言うか、浮いてるみたいだけど。何だか、まるで私たちみたいね」
「ユノちゃん~。あんな、顔も出せないような女と一緒にしないでよ~」
「でも、なんかテッちゃんみたいじゃない?」
「それ、テッちゃんが聞いたら怒るよ?」
「だから、本人には言わないじゃない。なんか、自虐的な匂いがするのよね。ちょっと、会ってみたいな。アイハラさんはどう思いました?会われたんですよね?」
「え?」
そこでオレに話を振りますか?!
……なんて答えたら良いんだ。
「いや、なんか……何て言うの?」
「こいつさ、楽師と話したあと、惚れちゃったみたいでさ。テッちゃんに妬いてんのよ」
「あれ?楽師殿って、顔見えないんじゃなかった?」
「うん。全くもって判らん。でも、相当ミステリアスな感じはするし、こういうダメそうなお子さまは、うっかり中身を想像して妄想に恋とかしそうじゃない?」
「お前な!そう言うのは人のいないところで言えよ!」
しかも、そう言うのって、オレじゃなくてあっちの沢田のキャラじゃない?!
いやいやいや……、落ち着け自分。こっちのイズミは、そもそもオレのことを知らない上に、極悪大魔王だ、根性悪で、腹真っ黒だ、人を人として扱ってないんだ。
……と、思ったけど、怖いからそこまで言うのはやめとこう。ホントに、なんでオレ、イズミなんかにこんなに気を遣ってるんだろ。
「でも、あれは相当妬いてたと思うけど。まあ、テッちゃんとも何もないけど」
「そうか?なんか、曖昧っつーか……微妙な感じが怪しいけど?」
「ないって」
はっきりと、そう言いきった。何故だかその横でミナミさんが笑顔を見せる。
「テッちゃんじゃあ、ねえ?」
「ねえ」
……なんか、イツキ中尉と二人でそう言いあうイズミは、彼女と頭一つ分以上違うのに、女子高生が二人いるみたいで気持ちが悪い。
つーか、いったい何なんだよ。この人達の、サワダに対する認識は。
『実はホモなんじゃないかって言うくらい、女嫌いだって言う噂も聞いたことあるし、そこんとこどうなんすか』
『いや、ホモは確実にないけど……。そこそこフツーですって、ちゃんと女を好きになってたし。でも、まあそう言うのはないかな。今、疲れてるし、あの人』
イズミもなんか『お疲れ』なんて言ってたし。まあ、調子は悪そうだったけど。あんな戦いとかしてて、ばたばたしてるから、仕方ないのかな?
でも、そこまで言われるほど酷かねえだろよ。
だいたい、あいつはティアスとつき合う(本人達からやんわり否定されたことはあっても、はっきりつき合ってるって言ったのを聞いたことはないけど)前だって、佐藤さんのことを好きだったじゃないか。なんか、気持ち悪いぐらい初々しくて、何も出来ない子供の恋って感じで、本人は隠してるつもりでもバレバレで……。
泉も新島も知ってた。ティアスですら。
オレ、確かここに来たばっかの時に、シュウジさんに佐藤さんのことを言った記憶があるな。その時、彼は否定しなかった。否定したのは、イツキ中尉、つまりオレのいた時代の沢田の妹である沢田柚乃が、彼の妹ではなくイツキユノという名前であることと、こっちのサワダにティアスという名の女はいないと言うこと。それ以外の人間関係を肯定した。
縁があるなら、そう言う女がいてもおかしくなくない?ピアノを習ってたはずだし、今のサワダはあんなに上手にピアノを弾くじゃないか。
「なら、サワダと佐藤愛里とはどうなんだよ」