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Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと] 序章 第6話 袖振り合うも多生の縁 01/08
喚起の声も収まり、軍が帰還の準備を始めていた。
サワダとイズミもミハマのそばに戻り、事後処理の様子を見守っていた。
「……サワダもイズミもすごい人だったんだ……ですね」
「そう言うこと。アイハラなんか一瞬で壊れちゃうわけよ」
「シン!いい加減にしないか!」
ミナミさんがイズミの耳を掴んで自分の方へ引き寄せた。イズミは笑いながら「痛い痛い」って叫んでる。はっきり言って気持ち悪い。
……しかしバカだなーイズミって。ミナミさんがいるんだから、怒られるの判ってるくせにオレのこといじめるんだから。
もしかしたら構われたくてやってるのかもしれないけど。
「殿下!こちらにいらっしゃいましたか。ご無事でなにより」
……誰だっけ。軍服着てると、みんな一緒に見えるんだよな。
確か、ソノハラ大佐だっけ。ミハマに報告してた人だ。
ミハマの元へ駆けより、敬礼をした。それに合わせて、ミハマ以外のメンバーが敬礼をする。
「優秀な護衛官がいるんでね。……特殊部隊もそれなりに使えるようだね。まだまだだけど……」
「ですね。まだまだ改善の余地がありますね。どうですか、あなた方から見て」
笑顔で特殊部隊の働きを切り捨てたミハマに、同じように攻撃をするシュウジさん。実際、サワダとイズミがほとんどやっつけてしまったわけだから、仕方ないかもしれないけど……。
さらに、サワダ達にまで攻撃させようってか?この人のこと。
「さあ。私からは何とも。殿下のおっしゃる通りかと」
サワダの言葉に、イズミが頷いた。
……気持ち悪いんですけど。
あからさまに攻撃されて、へこんじゃってるよ、この人。大佐ってことは、少なくともサワダ達よりは偉いはずなのに。
「そろそろ、陛下がお戻りになるころだろう?その報告だろ?」
「……はい。王子が前線に出ておられると報告いたしましたら、危険ですからお下がりになるようにと」
「……わかった。報告も兼ねて、城に戻るよ」
そう言ったミハマは、笑顔だった。
王子とその護衛部隊の手に入れたこの大勝利は、誰に顕示するためのモノか。
「アイハラ、なに怖い顔してるの?城に戻らないといけないから、君も一緒に……」
怖い顔にもなるよ。なんで、同じ国なのに、同じ敵を見てるのに、戦わないといけないのに、こんなことに?
敵も味方もどこにいて、何をしてるか判らない。
そうは言っても、この状態は、どうしたって馴染めない。
あの広場でピアノを弾き、歌う、彼女の方がずっと近くに感じる。
……そう言えば、ティアスは?!さっきあの場所にいたのはティアスなのに。
「アイハラ!なにぼーっとしてんだ!ミハマが呼んでるだろうが、行くぞ!」
「痛いって、サワダ!ひっぱんなよ、もう!」
オレの肩を掴み、力任せに車に押し込めようとするサワダ。
サワダに聞いてみようかと思ったけど、魔物と戦ってたんだから見てるはずがないか。
仕方なく言う通りにして、シュウジさん達と一緒に車に乗り込む。
ソノハラ大佐が事後処理の指揮のため、離れていくのを見送り、港を離れた。ミナミさんとイツキ中尉が2人で同じ車に乗ったのは見たけど、イズミはいつの間にかいなくなっていた。
「……ミハマ、港に軍の人以外に……誰かいなかった?」
「港に?退去命令が出てるはずだから、軍人以外はいないはずだけど……見た?」
運転手のカトウさんも、シュウジさんも見ていないと答えた。
「いたよ。オレ、見た」
「……お前、すげえ遠くで戦ってたじゃん!どんな視力だよ!」
工場地帯から一番遠くにいたはずのサワダが、見たという。……そんなばかな。
「セリ少佐だったよ。もう一人いたみたいだけど、わからなかった」
「顔、見えたの?すごくない?自然と戯れて生きてきたりした?」
「……なんじゃそりゃ。別に、顔が見えたわけじゃない。人影が確認できたんだけど、すごく独特の動きをしてたから。多分ね」
「確証はないってこと?」
サワダは黙って頷いた。でもその後、人の悪い笑みを浮かべて続けた。
「シンにも確認したよ。あいつも見てたって。顔は見えなかったけど、あの動きはセリ少佐だって。なにしに来たんだろうね、こんな所に軍服も着ないで、楽師の犬がさ」
また、嫌な言い方するなあ。
「……なんだよアイハラ、黙って表情で訴えるのやめろよ。不満があるなら言え」
「嫌な言い方するな、って思ってさ。楽師のこと嫌いなの?好きなの?はっきりしろよもう。あんなに彼女はお前のこと……」
そこまで言って、ミハマの顔がちょっと怖いことに気付いて、言うのをやめた。
「どっちでもないって」
むっとした顔で返す。それはいくらなんでもないんじゃないのか?
「……そういうんじゃ、計れない。この言い方で、満足?」
悪戯っぽく笑った。
余裕のあるサワダに安心もしたけど、意味深な台詞がオレを不安にもさせた。