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Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと]

Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと] 序章 第5話  穴二つ 06/08


「魔物に対しては中央正規軍に匹敵する力を持つと言われてるオワリ王子護衛部隊の力を見てみたかった。それじゃダメかしら、サワダ中佐」

 彼女は悪戯っぽく、サワダを見つめた。
 あの布の中は、すっげえ可愛いんだぞ?判ってんのか、サワダ?

「遊びじゃねえんだぞ?」
「知ってる。だから、あなた達に渡すの。だって、王の親衛隊も、王子の親衛隊も、めぼしい人はいなかったしね。それに……悪い虫も巣くってるようだから」

 ティアスの言葉にため息を付いたのはミハマだった。

「お気遣い感謝します、楽師殿。……急ごうか、テツ。カトウさんとシュウジに連絡して。アイハラも……」
「あ、うん」

 ティアスに挨拶をして墓を立ち去る。宮殿内に戻る扉を抜けるとき、見たことのある中王軍の軍人とすれ違った。彼は笑顔で敬礼し、ミハマ達も簡単に挨拶だけして先を急いだ。
 どこかで見たことあると思ったら、さっき雑誌で見た人だ。確かセリ少佐。
 死神の配下で、とんでもなく強い人。ティアスの元へ向かったのだろう。

「悪い虫か……。お前、また父と何か話してた?オレから離れて行動するってことは、そう言うことじゃないの?」

 サワダの言葉に、ミハマは黙っていた。
 ミハマがどうしてオレを連れてあの場へ行ったのか、やっと判った気がした。

 悪い虫って言うのは、多分サワダ父。

 そうだよな、中王軍の元帥と仲がいいってことは……なんか繋がりがあるってことで。あれ?でも、そうなると、この魔物が襲ってきたのは、サワダ父のせいで、中王軍とつながってて。てことは、軍が魔物の襲撃を手配して……?でも、軍にいるティアスはミハマの手助けをしてくれて……。

 わけが判らなくなってきた。人間関係が複雑すぎる。

 とにかくはっきりしてるのは、サワダ父と対決してる姿を、息子であるサワダに見られたくなくて、彼はオレを連れてあそこに行った。でもサワダにはお見通しだった。それだけだ。

「いいから、あんまり気にすんなよ。オレはあの人よりも、お前の下に付くことを選んだ。それだけだろう?」
「そうだったね。ごめん」
「判ってりゃ良いんだよ。それより、お前と父の会話を聞いてると背筋が寒くなる。あの人も大人げがない、息子と同い年の子供に向かって、あんな喧嘩腰にならなくても良いのに」
「息子に大人げないとか言われたら、いくらなんでもかわいそうだよ」
「でも、ちょっと今、ざまあみろって思ったろ?」

 サワダが笑った。

 すごく久しぶりに見た気がする。ここに来てから何だか苦しそうな顔ばかりを見ていたから。

「ちょっとだけね」

 ミハマも一緒になって笑った。

 ……なんか、ついてけないな。こんな複雑な人間関係の中で、そんなの辛くない?
 戦争とか、戦闘とか、政治とか。あんまりにも世界が重すぎる。

「シュウジ?こっちでパスが手に入ったから、急いで出発するぞ。え?王になんて言えばいいって?……適当に……」

 移動しながら、サワダがシュウジさんに連絡を取っていた。確かに、『死神にパスもらっちゃいました☆』とか、軽く言えるような状況じゃないよな。しかも……

「あー、もう!確かに役にたたねえけど、せめてもう一枚パスくれよ!!王の分!!っとにあの死神は!!」
「オレ達の分だけ先にもらえただけでも充分だって。確かに、またいろいろ突っ込まれることになるけど。面倒だな……またお説教かな、元老院に」

 こっちはこっちで、国に戻ったらまたいろいろ面倒そうだし。いいじゃん、緊急事態なんだから、そんなこと気にしなくても。

「あ、シンに連絡しなきゃ。パスもらえたこと。あと……派手にやるように」
「派手に?なんで?そんなこといちいちしなくても……」
「力を見せつけとくんだよ、元老院の連中にな。お前の力を」
「オレの力じゃないよ。テツやシン達のだろ?」
「ひいては、それをまとめるお前の力になるんだよ。そのためには、判りやすくしないと。ちょっと抜け駆けしたくらいで文句言われないようにな」
「……それはそれで、文句言いそうだな、あの年よりどもは……」

 国じゃないと思って、むちゃくちゃ言ってるな。こいつらは。随分ここに来る前と態度が違う。これが本音ってこと?オレがいたから、今まではあんまり言わないようにしてたってこと?
 それとも、緊急事態だから、どっかぶっ飛んじゃったかな? 

 玄関を出ると、カトウさんとシュウジさんが車に荷物を積んで待っていてくれた。挨拶もそこそこに、車に乗り込み、行きに来た道とは違う方向へ走り出す。

「ミハマ、王へのフォローはキヅ大佐にお任せしました。カトウ、出来るだけとばしてください」

 横断道の入口でパスを見せ、スピードを上げた。
 行きに通ってきた下道とは随分違っていた。道は広くて走りやすいし、ほとんど車が通っていない。これなら速いはずだ。

「なんだよ、アイハラ。黙っちゃって。ビビってんの?魔物が襲撃してきた国に帰るから?」

 ……このやろ。あんなに辛そうにしてたヤツとは思えん発言だな。

「別に。オレ、口出ししちゃいけないかと思って」
「大丈夫だよ。大した数じゃないらしいし。今ごろシンのヤツなら……あ、連絡しなくちゃ」

 携帯片手に、イズミに連絡をするサワダ。気のせいか、ものすっごく生き生きしていた。

「もしかして、イズミってこの道使ってんの?だから、速く移動できるとか。だって、出発時間はそんなに大差ないはずなのに、もうついてるなんておかしいだろ?」
「それは、企業秘密。言うとシンに怒られちゃうからね。……まあ、普通に行ったらこの車で5時間くらいだけど、今日は他に車も少ないし、とばせばもうちょっと早くつくよね」
「いや、制限速度は……?」
「無いですね、この道は。優遇されてますねえ」

 煙草を吸いながら嫌味っぽく言うシュウジさんを、カトウさんがたしなめた。
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