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Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと]

Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと] 序章 第5話  穴二つ 04/08


 設備も綺麗、天井も高い、テラスもあって居心地も良さそうで、図書館としては非常に質が良かった。ここだけ見てると、中王とか支配とかって言葉が嘘臭く感じるくらい、良い施設だった。
 でも、この巨大な図書館の(図書室?)の真ん中にある受付から向こうは、壁で仕切られていた。その壁に付けられた巨大な彫刻の施された扉から、時々いかにも研究者、と言った様相の人たちが出てくる。その時ちらっと見える、壁の向こうは、暗かった。でも、暗い理由は、本棚と蔵書数の違いだった。壁の向こうが、こちら側の図書館と同じくらい、いやそれよりあるとしたら、蔵書数が半端じゃないってコトなんだろう。天井までありそうな本棚にぎっしりと本が詰められ、その本棚が密集して、あの暗さなのかもしれない。本が日に焼けないようにとの配慮かもしれない。

 どちらにしろ、表側のこちらとは、世界が違った。
 シュウジさん、ここの研究者になったら、あの本が読み放題ってコトか……。それよりも、ミハマを選んだってコトなのかな。

「あんまり、見ない方がいいよ」

 ミハマが何冊か雑誌を持って、オレが座っていた席の向かいに座った。見るなって言われても、あんな扉があったら、見ちゃうって!
 じゃあ、なんでこんな席に座るんだよ。扉の目の前だし。

「それより、ほら、ニイジマ中尉はここにも載ってる。楽師殿についてる人は、有名人になっちゃうのかな?」
「ニイジマ中尉の他にもいるの?」
「うん。他にセリ少佐とサエキ大尉。ニイジマ中尉もかなりすごいけど、セリ少佐は飛び抜けてるね。異例の大出世をしてる」

 そう言ってミハマが見せてくれたのは、こないだ見たのとは違ってた。どうやら中王軍の広報誌らしい。もう一冊は、こないだと同じ雑誌だけど、表紙が違うから……前の号かな?年号だけだと判らないや。

「この人だよ。さっきも、楽師殿を迎えに来てた」

 セリ コウタ少佐の経歴が書いてあった。17歳まで一兵卒として中王軍に勤務。その後士官学校に入学し、本来4年かかるところを飛び級して19歳の時に卒業。魔物討伐にて戦果を上げ、全部で3つの勲章を授与。22歳の若さで現在少佐。

「ニイジマ中尉と士官学校時代に同期だったみたいだね。先にセリ少佐が卒業したみたいだけど」
「てか、階級高くない?!だって、年が!」
「うん。でも、今の中王軍のシステムなら、そう言う人も出てくるだろうね。戦果を上げること、武術大会でいい成績をだすこと。この二つが取り上げられる。武術大会は中王の趣味らしいけど、如何に魔物と戦えるだけの力があるかは、この軍にとっては大きいみたい。だから、楽師殿が大佐でも、その評価自体に文句を言うものは少ない」
「それって、楽師殿が強いってコト?」
「意外って顔だね」

 オレ、また今まずいこと言った?ミハマは常に笑顔だけど、優しい顔、優しい言い方、だけど……。

「仕方ないよねえ。あの人小柄だし、強そうには見えないもんね。ピアノ弾いたり歌ったりしてるとこだけじゃ。でも、あの人、大鎌を振り回して戦うよ。どれくらいかは知らないけど、相当強いって聞いたことある。少なくとも、あの階級にいられる程度にはね」

 びっくりした……。てっきり、なんかミスをしたかと思った。
 なんなんだよ、さっきの含みを持たせた間は!オレが、楽師殿の……ティアスの顔を知ってることとか、ばれたのかと。

「顔も名前も隠してるのに?」
「名前を隠してる人は、結構いるよ。偽名を使ってる人もいるし。さっき言ったろ?名前を知られると言うことは……」

 弱点をさらけ出すと言うこと。

「士官学校にはそんな人は入れないけどね。でも、たたき上げの人や、昔から軍にいた人には多い。楽師殿は確かにあそこでは異質だけど」

 偽名どころか、彼女には名前すらない。

「彼女の名前、彼女の顔。……気にならない?」
「……さあ。わざわざ隠してるもの、探んなくても……」
「オレはあの人のこと、好きだな。歌ってるところは綺麗だし、厳しいけど、優しいし。だから、彼女がどんな人なのか知りたい」

 ……オレのこと疑ってんのか?

 ミハマの表情は、どうしてこんなに違って見えるんだろう。

「……これはこれは王子……。今日、ご出発では?」

 例の立入禁止の扉から出てきたのは、サワダのお父さんだった。彼が声をかけてくれて、オレはほっとしたけど、そのすぐ後で、二人が険悪だったことも思いだした。

 勘弁して。100歩じゃ足らないけど、とにかくメチャクチャ譲って、イズミで良いからそばにいてほしい……。辛いって、この二人。

「夜、出発に決まったので。それまでせっかくですから国にはない本でも読んでいようかと思いまして。サワダ議員は父と一緒に帰らないのですか?」
「……ええ。もうしばらくこちらに」
「そうですか。サカキ元帥とも仲がよろしいようですし。中王様とも」

 サワダ議員は黙って笑顔で返した。
 もしかしてミハマは、ここに彼がいることを知ってて来たのか?!

「国の情勢もあまりよくないというのに……元老院の方が国を離れられては、王である父が困ってしまいますね」
「情勢?オワリはとても安定していますよ、王子」
「そうですね。でも、知っていますか?魔物が襲撃してくる回数……」

 ミハマの声を遮るように、サワダ父の後ろの扉から人が現れた。サカキ元帥とティアスだった。

「お、なんだ。険悪だな」
「……しゃれにならないから、そう言うこと言うのやめろって」

 酔っぱらい……いや、サカキ元帥にサワダ父は突っ込んでいた。ティアスは黙って、オレ達に挨拶をしてくれた。

「珍しいですね、護衛部隊の方と一緒にいらっしゃらないのは。……サワダ中佐は?」
「出発まで自由時間にしたので」

 ティアスはどうやら、調子の悪かったサワダのことを気にかけてくれていたらしい。敵か味方か微妙な関係なのに、優しいよな。

「王子様自ら動かなくたって良いんじゃないかな?いるべき場所から離れすぎてると、ろくな目に遭わないよ?」
「肝に銘じておきます」

 く……空気悪!なんだよこの二人。険悪すぎる。ミハマもあからさまに喧嘩腰だし。
 二人の間の空気を壊したのは、携帯の着信音だった。それも、ミハマとサワダ父、二人のモノが同時に。

「……国に……魔物が?!」

 そう呟いたとき、ミハマが最初に見たのはサワダ父だった。
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