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Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと]

Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと] 序章 第5話  穴二つ 03/08


 驚いたことに、本当にオレはミハマさんと二人だけで中王の王宮内を歩くことになった。本気で驚いた。
 だって、あのイズミ達の態度や、ミハマさんの扱い方から、こんなコトをするなんて考えにくかった。だって、敵地になる可能性のあるところを、オレみたいな疑惑だらけの戦闘力のないヤツと、しかも王子様という立場である彼を、二人だけで歩かせるなんて!

「……あの、ミハマさん。どこか目的があるんですか?」
「もっと普通に喋ってよ。なんか、テツとかシンばっかり、仲良さそうでうらやましいな」

 いや、そんな理由でふてくされられても!

「でも、ミハマさん、王子様じゃん!オレとタメ口呼び捨てはまずくないですか?!だって、イズミですら敬語、殿下呼ばわり!」
「まあ、人前ではね。立場もあるし。それに、シンはどっちかって言うと、そのギャップとか、演じてるって感じを楽しんでるって言うか……」

 よく判ってんじゃん、この人。あいつ絶対楽しんでたもん。この人のことを『殿下』なーんて呼ぶとき。

「でもさ、アイハラはオレと同じ年なんだし、『アイハラ大尉』なら立場があるからともかく、君はそう言うのは関係ないわけだからさ。人前では君も演じるのを楽しんでみたらいいよ。シンみたいに」

 この人はとにかく笑顔だった。こういうところ、うまいよな。上の立場の人のくせに、それを感じさせないっつーか、反感を持たせないようにしてるっつーか。
 よくいるもんな、同列、あるいは下の年齢や立場が微妙なヤツのくせに偉そうに『タメ口やめよう(コイツは既にタメ口)』『フランクに』なんて言って即タメ口。ずけずけ近付いてくるタイプ。どんなエライ人だお前はって突っ込みたくなる。
 逆にエライ人に『無礼講』とか言われても、威圧感だらけで信用度ゼロだしね。

 うらやましいって言うのは……悪い気はしないよなあ。何でそんなこと軽く言えちゃうんだ、この人。じゃあ大丈夫かな?って思っちゃうし。

「あーそっか、サワダと同じ年ならそうなるのか。じゃあもしかしたら、ミハマ……もいたのかもしれないな。オレと面識がなかっただけで、イズミやサワダと友達だったりして」
「だったら、面白いよね。そしたら、みんなただの学生で、フツーの友達で……」
「だったら……ミハマって、名字なんて言ったっけ?」
「シラカミだよ。言わなかったっけ?」

 言われた気がするけど、流してた。沢田や泉が話してなかったか思い出してるけど……あんまり細かい話とか、覚えてないんだよな。バカなことばっか話してたし。意外と、真面目な話はちゃんと覚えてるんだけどな。

「……漢字……聞いちゃダメなんだっけ?」
「漢字で……?ああ、そだね。君の時代は、意味語で表記してたの?」
「意味語?それ、サワダも初めて会ったときに言ってた。『意味語を教えなくてもいい』って。でも、普通に本とかには載ってるじゃん。名前はカタカナだけど。どういうこと?」

 ミハマはちょっと腕組みをして考えた後、オレに耳打ちをして名前と名字を漢字で教えてくれた。誰にも言っちゃいけないと釘を差してから。
 多分、この中王の王宮では誰が聞いてるか判らないとの判断からだったのかもしれない。ここは……敵地になるかもしれないところだから。

 でも、あのオワリの王宮すらも、ミハマにとっては敵地になりそうだと思った……。
 
「シュウジやテツやシンに聞いた方が、ちゃんと説明してくれると思うけど」
「いや、あの人達は……サワダ達はオレなんかに必要ないって言ったし、シュウジさんは話が長すぎるよ」
「うわー……言いそう。シュウジも、テンション上がると、いつ止めて良いかわかんなくなるしなー。でも未だ説明だから良いよ。説教なんか始めたら、2時間3時間当たり前だもん。年寄りみたい」

 歩きながら目線を落とし、ため息をつく。相当説教されてそうだな、この人。一応シュウジさんは教育係だって言ってたし、仕方ないかもしれないけど。問題行動多そうだしね。

「てか、オレもあんまりちゃんと理解してないんだ。意味語を使いこなせるわけじゃないし。意味語の研究は禁止されてないけど、研究発表は禁止されてるし、そう言う機関はないから情報交換もおおっぴらに行われないし」
「なんで?なんでそんなにいろんな大事なことが禁止されてるの?」
「意味語の研究は、戦力になるからだよ。魔物と国、国と国、人と人が戦う上で、重要な力を持つから。使えるものも少ないし……。だって、変だと思わなかった?テツの話」
「なんのこと?」
「テツが武術大会で優勝したってヤツ。雑誌読んだろ?テツがああいうのに載るのを嫌がる理由は、目立つのがいやなこと以外にもちゃんとあるんだ」
「……そうなんだ。あいつ、古風でおっさんで、目立つの大嫌いな奴だから、そう言うので本気で嫌がってんのは知ってたけど。でも、顔良いし騒がれてんだから良いじゃん」
「嫌がってんの知ってんなら、やめてあげてよ」

 きつい口調ではなかったけど、彼の顔は真剣だった。だからオレは仕方なく頷いた。

「それ以外の理由って?」
「テツって、強そうに見える?」
「ぜんぜん。いや、オレが知ってる沢田よりは……あいつもスポーツは得意だったけど、ケンカとか格闘技とかするタイプじゃなかったし……。でもこっちのサワダは、細っこいくせに、ボクサーみたいな筋肉の付き方してるから多少強そうに見えるけど……でも」
「うん。体格的に、他に強そうな人はいっぱいいる。実際、力だけならシンに簡単に負けちゃうし。腕相撲とか」

 あいつも巨人のわりには細いけど……。でも、確かにサワダよりはいい体格してる。単純に腕相撲とかなら強そうだ。

「でも、武術って話になるとまた別の話だよ。テクニックもあるし、他にもいろんな要素が絡んでくる。その要素の一つとして『意味語』の研究が絡んでくるんだ」
「名前を教えないってのも、関係あるの?」
「あるよ。簡単に言うと、『全てのことに意味がある。線の一本、一つの動作にすら。それらで構成された名は、その人物そのものを表す』ってコト。どうやってるかはよく判んないけど、うっかり意味語を教えちゃうと、『自分』を解析されちゃって、弱点をさらけ出すようなものになるんだって。だから生まれたらもちろん名前を付ける。その人にふさわしい名前を。でも、それを他の人に知られちゃいけない」
「……でも、音は一緒だろ、ミハマだって」
「うん。音だけでも解析できる人はいるらしいけど、それが全てなわけじゃないから、知られても大したことはないんだって。だから、名前の表記がカタカナだね」

 うーん……、日本語が共通語ってのもすごいけど(日本にしか人が残ってないから仕方ないけど)、それに意味があって、弱点がばれるって言うのも……。

「もしかして、その意味語ってヤツを研究したら、戦えるってコト?少なくとも人相手なら」
「あ、魔物にも種類とか名称とかあるから効くんだけど。でも、戦えるかって言われると……どうかな。シュウジが戦えるように見える?」
「全くもって、無理、あり得ない。……あ、もしかして、実はものすごい使い手?」

 ミハマは笑い飛ばした後、ちょっとだけ考え込んで

「いや、見た目通り、何も出来ないから。あくまで知ってるだけ。解析は出来ても、その後の展開が出来ない。ただ、人対人の時は強いかもね……」

 ミハマが声を潜めた。
 何となく言いたいことは判る。シュウジさんはああ見えて優秀な研究者らしいから、彼のような人の手に掛かったら、弱点なんて丸見えなわけだ。
 それは要するに、戦えないけど、戦力になる。だから、研究者は禁忌なんだ。

「テツやシンはきちんと知り、その後戦いのために展開が出来る。だから、彼らはオワリにとっても貴重な戦力で有り人材というわけ。あと、あの楽師殿や、その配下のニイジマ中尉なんかもね。あの雑誌に書いてあっただろ?」
「ミハマが持ってっちゃったから、あんまりちゃんと読んでない。どこに書いてあった?」
「今から行くところにあるよ」
「そう言えば、どこに向かってんのさ?王子様がふらふらと、こんな所で」
「図書館だよ。中王の図書館は蔵書が多くていろんなものがあるよ。まあ、中王研究室以外の人が入られるところは限られてくるけど、結構、他国の人も利用してるよ。だから、ちょっとだけおとなしくしてて。一応、オレのお付きってコトだから。フリだけ頼むね」
「え!?オレ、なんにも出来ないん……だけど……」
「良いの良いの、あんまり一人で出歩くとうるさいだけだから。それに、シュウジ達が側にいると、警戒されちゃうしね」

 警戒って……。

 なんか企んでないか?この王子様!?てか、王子様が企んで動くなっつーの!
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