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Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと] 序章 第4話 敵と味方がいる幸せ 01/07
どんどん、気が重くなってくる。
やっぱり、俺が住む世界とは違いすぎる。
このでかすぎる王宮も、なんか気疲れしちゃうし、昨日の死神の広間での出来事も、何だか気が重かった。昨夜泊まった宿舎でも、王子と王のそれぞれの親衛隊に、王の側近、それからミハマさん達と、同じ国なのに微妙な関係なのもプレッシャーだし、それプラス他の国の人もいたりして、わけが判らない。
今日のこの式典だか、報告会だか知らないけど、この場の雰囲気もとにかく居心地が悪かった。
最初に行われた報告会は、ホールに椅子を並べて参加者全員で報告を聞くだけの物だけだから、静かに座ってれば良かったからまだマシだった。だけど、そのあとの会食!いや、懇親会って名前らしいけど?これが最悪だった。知らない人は多いし、いっぱい誤魔化さなくちゃいけないし、何より、オワリの国の人たちの目が厳しい!やってられん!
「シュウジさん、サワダはどうしたの?式典のときはいたのに」
「ああ、昨日からちょっと調子が悪いんで、外に出てますよ。あの子、人の多いところが得意じゃないんですよね。調子のいいときは良いんですけど」
「そんなんでよく武術会とかで優勝したよね?人いっぱいいるのに」
「緊張するとかしないとか言う話とは違いますからね。それより、私も煙草吸いに出たいんですけどね……。テツがいないから、ミハマのそばを離れるわけにも行かないし」
「そうだよね」
えー……サワダだけずるいよな。オレもちょっと、ここにはいたくないなあ。大体、オレはニイジマに会いに来たわけだし。
それに、ニイジマ以上に会いたい人が出来てしまった。
「シュウジさん!ミハマさんが奥の方に行っちゃったよ?」
「あ、全く、勝手に動いて……」
たくさんの人に囲まれて、なお目立つミハマさんを追って、人混みに消えるシュウジさん。見えなくなったのを見計らって、そっと会場を抜け出した。
会場の外の廊下には、そんなに多くはないけれど人がいて、話をしたり煙草を吸ったりしていた。その中に、オワリ国の軍服は見あたらなかった。中王軍の軍服は、ちらほら見える。シュウジさんの話だと、この会場にいるのは中佐以上、と言うことらしいけど。
他の国の軍服はよく判らないし、ドレス着てる女の子もみんな同じに見えたけど。
案内図を片手に、昨日行った死神の広間を目指す。
会場に、死神の姿はなかった。もちろん、階級の低いニイジマも。
彼女に会いたい。彼女の話を聞きたい。
聞こえてくるピアノの音を頼りに、迷いながらも何とかたどり着く。広すぎるよ、この王宮!
「あら、たしか昨日、雄将殿といた……」
「アイハラユウトです!」
一応、軍人を見たら敬礼をする癖はついた。噴水横のピアノを弾く死神と、その横にいるニイジマに反射的に敬礼。
「今、懇親会の最中では?」
床に座り込んでいたニイジマが、腰の剣に手をかけながら立ち上がった。昨日と随分態度が違うじゃねえか。なんなんだよ!
「いや、その……楽師殿のピアノが素晴らしくて、その……」
「トージ、そんな戦闘能力のない子にすごんでどうすんの」
「でも、昨日、オワリの議員が、サカキ元帥と……」
「よく見てた?あの人達のこと。雄将殿の父上と、オワリ国王子の仲の悪さ。雄将殿は、王子の側近なわけでしょ?武術大会も、王子の許可がなければ出ないって言って、大会運営委員を困らせてたじゃない」
「あの議員とは関係ないってコトですか?王子の一派は」
「私にはそう見えたけど?そうじゃない?アイハラ一等兵」
ごめん、何言ってるか判んない。そう言う政治的なしがらみとか、オレは関係ないんだってば。
大体、サカキ元帥とサワダ父が仲がいいからって、何で警戒してるわけ?この人達、中王軍の人じゃないのかよ。
「昨日、楽師殿は軍の組織とは離れてるって……」
「そうね。でも、軍人よ。要請があれば戦場に出る。中王に忠誠は誓ってるわよ、ねえ?」
「もちろんです、大佐殿。オレは、中王軍に所属していますし」
二人して(多分)意地の悪い笑みを浮かべる。
オレはあえて、二人に一歩近付いた。
「オレ、ホントにそう言うの関係ないから!ただ、あんた達に会いに来ただけだよ。オレが知ってる人たちが、他にいないかと思って」
「知ってる人?」
「これ……ニイジマと、オレだよ」
携帯の写真を見せる。
不審がられるのは判ってたけど、もう耐えられなかった。
「なにこれ。トージ、こんな写真撮ったの?知り合い?」
「知らないっつの。大体、オレ、一昨年まで士官学校にいたんだぜ?それからずっと、ここにいるし。こんなオワリのヤツなんかと……」
二人して交互にオレの携帯を見る。
そう言えば、気になってたけど、この二人、階級差があるはずなのに、トージは彼女に対してタメ口だ。
「これは、新島であって、ニイジマじゃないんだよ。オレが知ってる新島で……オレのいた時代にいた人で。生まれ変わりで」
「何言ってんの、この一等兵は?」
「さあ……?」
「オレはあんたに会いたかったんだ」
生まれ変わりでも何でも、もう一度会いたかった。
「顏、隠してるけど、ティアスだろ?」
携帯に残っている彼女の写真を、死神に見せた。