序章 第4話  敵と味方がいる幸せ 02/07
        
         オレは、ただ、彼女に近付きたかった。本当にそれだけなんだ。
         でも、この二人には、その想いは伝わらなかったらしい。
        
        「大佐殿……これは、まずい」
        
         ニイジマはそう言うと、オレから無理矢理携帯を奪おうと、力ずくでつかみかかってきた。
        
        「なにすんだよ!オレんだぞ!」
        「何言ってやがる!こんな物、どこで手に入れたんだ!何でお前が姫と一緒に写ってんだ!」
        「ひ……姫!?ティアスが?!」
        「知らないフリしたって無駄だ!吐けよ!」
        「トージ、やめなさい!ホントに知らないみたいよ!
        「でも!」
        「そんな子に、一体何が出来るって言うのよ?」
        
         必死に食らいついていたオレは、いつの間にかニイジマの腕にぶら下がっていた。そんなに体格変わらないのに、何でこんなみっともないことに……。しかも、その間抜けな様子を見るニイジマと目が合っちゃってるし。
        
        「……確かに、そうかも。弱っちいし、考えなしだし。姫のこと狙ってきたってわけでもなさそうだし。だったらこの写真は?」
        
         ニイジマは携帯を奪うのをあきらめ、オレの首根っこを掴むと、軽々と持ち上げた。どうしてそんな体型で、マッチョな人みたいなコト出来るんだよ!?
        
        「そうよねえ……」
        
         二人して、怪しいモノを見る目でオレを見つめた。こんな、首根っこ捕まれておとなしくなってるようなヤツに、何が出来るっていうんだよ。
        
        「あのさ……オレの話、聞いて貰っても良いでしょうか」
        「……急に卑屈になったな、コイツ。どーする?姫」
        「あんた、さっきから姫って呼んでるわよ。気をつけなさいよ。一応逃げないように縛って、話を聞こうじゃない」
        
         ティアスのそれは優しさなのかどうか微妙なところだったけど、とりあえず話は聞いてもらえるらしい。
         縄で縛られた上、手綱のようにされ、広間の外へ連れ出された。もちろん、廊下側ではなく、森の方へ。
        
         それでもオレは自分の話と、シュウジさんが言っていた「生まれ変わり説」を、何とか彼女たちに伝わるように必死に話した。
        
         最初は、半信半疑で聞いていた二人だったが、シュウジさんの話をし始めたら、顔つきが変わってきた。
         それから、オレが知ってるニイジマやティアスの話をした。その時はさすがにサワダ達のように、自分のようで自分ではないからあまりいい気分はしないと言っていたけど。
        
        「オレの話、信じてもらえた?」
        
         なぜだか、新島とティアスは揃ってオレを見つめていた。
         いいかげん、この縄ほどいてくれないかな。しかも、縄の先は木に縛られてるし、なんかあったらどうすんの。
        
        「一概には信じられないけど……スズオカ准将の話は興味深いわね。あの人、歴史の研究をしてるって噂だし?」
        「そうだよな。研究開発部が何度も引き抜きの話をオワリに持ってってるって、こないだカナさんから聞いた」
        「引き抜きねえ。だから、中王はあんなにオワリを特別視してるのかしらね」
        「危険人物ってコトか?今度もうちょっと詳しく調べるようにカナさんに伝えとくわ」
        「そうね」
        
         オレのことなど無視して、ニイジマとティアスは打ち合わせを始める。話が見えないんですけど。
        
        「あの……すみません。とりあえず、疑いが晴れたなら解いてもらえますか?」
        「疑いが晴れたなんて、一言も言ってないけど」
        
         酷!最低だよニイジマ!
        
        「まあまあ、トージ落ち着いてよ。私は、この子の言ってることはそんなにウソばっかりだとも思えないわ。スズオカ准将って、少しだけ話をしたことがあるけど、なかなか面白い人だったし。研究者であることを隠してるから、詳しい話は聞き出せなかったけど、彼の知識は興味深い」
        「ふうん。あんたが言うならよっぽどだな」
        
         ……ただのオタクだと思ってた。実はスゴイのかな、シュウジさんて。
        
        「この、歪んだ歴史を押しつけられる世の中で、彼はほぼ、正確な歴史を知っている。それが中王にばれたら、大変なことになるけどね」
        「もしかして、オレ、相当まずいこと話しちゃった?あの、シュウジさんのこと……」
        「大丈夫よ、密告するようなマネはしない。私はむしろ、研究者はもっといないといけないと思う」
        
         ティアスはいったん広間に戻り、一冊のファイルケースを持って戻ってきた。その中から、ぼろぼろになった一枚の地図を出した。
        
        「ねえ、君がいた時代って、この辺りはどうなっていたの?」
        
         彼女が見せてくれた地図は、先日シュウジさんが見せてくれたものと、また違っていた。日本が地図の右端にあった。どうやら、ヨーロッパの方の世界地図らしい。しかし、その地形もまた随分様変わりしていた。
        
        「……いや、これくらいの広さはあったよ。随分地形は変わってるけど。この間、シュウジさんに見せてもらった世界地図に比べて、残ってる土地が広いよ、これ」
        「その地図は、きっとこれじゃないかな?」
        
         もう一枚、彼女が出してくれた地図は、シュウジさんが見せてくれたものと同じだった。
         中心にしている位置が違うのでわかりにくいけれど、明らかに「大陸」の広さが違っていた。
        
        「オレはあんまり詳しいことは知らないんだけど……オレがいた時代のティアスはね、元々ここの辺に住んでたんだ」
        
         彼女が最初に見せてくれた地図の、ベルギーがあるらしい辺りを指さした。
        
        「それで、ヨーロッパを転々としてたとも言ってたから、この辺りを廻ってたのかな。それから、日本に来たんだよ。目的があるって言ってた」
        「そう」
        
         あれ。そう言えばこの辺って、確か……
        
        『空から来る魔物を統率する力を持った一族が住んでると言われてますね。その昔、中王正規軍によって追放され、奥地に追いやられたそうですよ。ですから、危険なため、現在はこの北の門という場所から先は許可がなければいけません』
        
         シュウジさんは、この大陸のことをそう言っていた。
         でも、ティアスは何で、この辺のことを聞いたんだ?