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Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと]

Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと] 序章 第3話  支配するもの、されるもの 07/07


「一等兵を側につけているの?」
「……見習いみたいなもんですよ」

 死神に説明するサワダのピアノを弾く手が止まっていた。なんか、ものすっごくみんなして誤魔化してるな、オレのこと。大尉じゃダメなのか?

「へえ。おかしな話。あんな大きな国の王子の側に、あんな戦闘能力のなさそうな子供をつけるなんて。なにか、他にあるのかしら?」
「いや、だから、ただの見習いですよ?えと、士官学校にこれから行かせて、文官待遇として……」
「そう」

 死神が、ゆっくりと階段を下りて、こちらに近付いてきた。その怪しげな風貌とは違い、彼女の歩き方はまるでテレビのファッションショーで見るトップモデルが、さらに優雅に歩いているような感じだった。
 顔が判らないのに、彼女の女性らしさを感じてしまう。
 いや、オレは……多分彼女の顔を知ってるけれど。

「軍服、似合わないわね。軍人なんてろくな商売じゃないんだから、やめた方がいいんじゃない?えっと……」

 彼女がオレの目の前に立つ。布で隠されていて、顔かたちは判らないけれど、何だかいい匂いがする。それは、オレがいつも感じていた、コーヒーに混ざっていたあの匂い。

「アイハラユウト……です。あなたは?」
「私?名前がないのよ。階級は大佐待遇。階級で呼ぶ人もいるけど、正規軍の組織からは外れてるしね。好きなように呼んで。楽師とか、死神とか呼ぶ人もいるわ」

 何でだろう。偽名とかでも良いからつければいいのに。呼びにくいな。

「何で、死神?」

 そう言ったとき、シュウジさんとニイジマが動いてオレを止めようとしたが、彼女は機嫌を悪くすることなく(というか、布の向こうで笑ったように見えた)答えてくれた。

「サワダ中佐と、同じ理由よ」
「一緒にしないでくれませんかねえ。オレは死神なんて呼ばれてないですし」

 邪魔すんなよもう、サワダ……。
 彼はいつの間にか彼女の後ろに立っていた。さっきからシュウジさんとニイジマがおろおろしてるのが見える。ミハマさんだけがニコニコしながらオレ達を見てる。

「……まだ、一人で掘ってるんですか?墓を。将軍は……?」
「今は、彼らが手伝ってくれるから。あなたこそ、最近いらっしゃらないですけど」
「国にも、ありますから」

 なんか、いい雰囲気じゃない?二人。
 お互い突っかかってたわりには。嫌な感じ。
 でも、会話の内容は、ど暗いよな。墓を掘るとか掘らないとか。

「オレ、ちょっと出てるわ。あんまり動くなよ」
「うん。……大丈夫?」
「ああ」

 しばしの沈黙の後、サワダはミハマさんに断ってこの広間から立ち去ろうと、廊下の方に向かった。こころなしか、顔色が悪い。
 彼女は、サワダが立ち去る姿を黙って見つめていた。気を悪くしたようには見えないけど。

「……あ、父さん。いらしてたんですか?」

 出ていこうとしたサワダと扉のところで鉢合わせたのは、彼そっくりの30歳くらいの男性だった。髪が随分長いけど……サワダの父さんだった。

「ああ、一昨日から。お前、ちっとも家に帰ってこないから、知らなかったんだろう?どうした?顔色が……」
「少し、体調が悪いみたいですから。おひとりでいらしてたんですか?サワダ議員」

 サワダの父さんにそう言ったのはミハマさんだった。そのスキに、サワダは廊下を駆けていった。まるで、ミハマさんはサワダが逃げるのを手助けしたような……。

「お嬢ちゃん。コイツのために一曲歌ってくれよ」
「ここは場末のバーじゃないんですけど?サカキ元帥」

 死神とサワダ父をのぞく全員に緊張が走り、彼らは揃ってサワダ父の後ろから現れた男性に敬礼をした。そんな雰囲気にした当の本人は、サワダ父の頭をべしべしと叩き、逆に怒られていた。

 酔っぱらいのおっちゃんにしか見えんが、もしかして偉いのか……?

 そう思ってたのが顔に出てたのか、シュウジさんがオレの側に来て、囁くように忠告してくれた。

「敬礼してください。中王軍で一番くらいに偉い人です」

 マジっすか?!
 だって、サワダ父ほどじゃないけど若いし(どう見ても40前)、いくらなんでも死神とか呼ばれるような女に「お嬢ちゃん」はないだろ?!彼女も喧嘩腰だし。
 それに、何でそんな余所の偉い人が、サワダ父と仲がいいんだよ。

「……サワダ元帥、失礼ですがそちらの方は?雄将殿のお父上と言うことですか?」
「おお。そういや、息子もでっかくなったな。いくつだっけ?こないだ武術会で優勝したんだっけ」

 サワダ父の肩にのしかかり、死神の話も聞かずに絡む様は、立派な酔っぱらいだが、着ている軍服は、ニイジマや死神が着ている物よりも、マントがでかかったり、肩章が派手だったり、ワッペンやら勲章やらが多くてゴージャスだった。

「18だよ、まだ。武術会もたまたまだ。ここに来ると、あの子と間違えられてめんどくさい。あんまり顔を出したくないんだ。それより、この子は……?」
「ああ、この子がオトナシのお気に入りだよ。良いぜ、この子の歌は」
「そう。この子が……。どうも、サワダテッキ、オワリ国元老院議院です」

 サワダそっくりの顔で、全く違う笑顔で、サワダ父は死神にそつのない挨拶をした。

「あれは誰だ、お前に喧嘩腰のきれーな顔した子供は」

 そんな二人の様子を無視して、サカキ元帥は暴走中だ。ナチュラルにミハマさんを指さした。一応、一国の王子なのに……。いや、このおっさんの方が偉いのか?よく判らん。

「オワリの国の王子だよ。喧嘩腰言うな。お前、ホンットに男の顏、覚えないね。一応、オワリは大国だよ?まあ、王子がオレに喧嘩腰なのは本当だけどね。……ねえ、王子サマ?」
「いえ、そんな。滅相もない。サカキ元帥、以後お見知り置きを」

 彼はサワダ父の言葉を軽く受け流し、サカキ元帥に笑顔を向けた。
 その様子に、何故かサカキ元帥は喜び、満面の笑みで「そーかそーか」と叫びながらミハマさんの肩を叩いた。
 でも、なんかミハマさんがめっちゃ怖かったんですけど。なんで?

「お嬢ちゃん、オレがピアノ弾いてやるから、歌いな。元帥命令だぜ?」

 サカキ元帥の言葉に、彼女は頷くことなく、階段を昇ってピアノの前へ向かった。
 彼女の歌声は、オレに彼女の顔を確信させる、美しい物だった。
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