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Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと]

Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと] 序章 第3話  支配するもの、されるもの 06/07


 中王の王宮は、やっぱりめちゃくちゃだった。とにかく全てがでかい。オワリの王宮も大きいと思ってたけど、ここはとにかく桁違いだ。

 入口を入ってすぐ、テーマパークのような広間が広がり、その先にはゴシック調の柱が連なる長い廊下が続く。柱の隙間から、緑が覗く。おそらくこの廊下の外は、緑豊かな庭が広がっているのだろう。
 施設案内図によると、この辺りは応接用の空間になるらしい。こうして支配国の王が集められるときに使われる空間のようだ。軍の研究施設は、王宮の真ん中にある大広間を挟んで逆側にあるらしい。大広間より先は、軍事関係者以外立入禁止。かなり行きにくそうだ。

 長く続く廊下や、途中にあるいくつかの広間には、別の国の王や王女らしき若い女性がいた。軍服や、着ているドレスなど、かなり文化が違うことも判る。
 中王の支配で、文化が変えられようとしている。その影響もあるのかもしれないな、と思った。

 何人か、ミハマさんに声をかける人たちがいた。ほとんどが女性だった。よく考えなくても、こんな世の中で裕福な大国の王子、しかも見かけもまさに王子様☆なミハマさんがモテないわけがなかった。オプションでサワダもついてるし。

 そのサワダも、声をかけられていたけど、ほとんど聞こえないフリ。態度悪すぎ。

 ミハマさんも、なるべく早めに話を切り上げては先を急いでいたけど。いつもこんな感じなのかな?

 入り口から随分歩いた。広すぎてどこかよく判らなくなってしまったので、シュウジさんに案内図に載ってるどの辺りかと聞いたら、王宮の東の端だと教えてくれた。外にある森を抜ければ、ちょうどオワリの宿舎があるのだとも教えてくれた。

 そこは、ドーム上の屋根がついた、屋外ホールのようだった。
 60畳はありそうな円形のホールがひょうたん型に2個つながっていた。二つのホールは1mくらいの段差があって、階段でつながっている。上段のホールの真ん中に噴水があり、そこから階段の真ん中を通って、下のホールに水が流れ、池を作っていた。
 周りを囲んでいたのは柱かと思いきや、白い壁に大きなスリットが入っていた。天井はとにかく高い。ホントに音楽のホールくらいあった。
 そして、噴水から離れた、上段のホールの片隅にグランドピアノが置いてあった。そのさらに奥には、高そうなソファセット。

「あれ?いつもここにいらっしゃるんだけどな……」

 噴水の脇できょろきょろと目的の人を捜すミハマさん。隣でシュウジさんが我慢できずに煙草に火をつける。
 サワダは……?

「あんまり状態がよくねえな……。こんな水場付近に置いとくからだ」

 ピアノを弾いていた。オレの知らない曲だった。
 てっきり墓掘ったり闘ったりしてばっかで、練習してないかと思ったけど、オレが知ってる沢田よりうまいんじゃないかと思った。

「まあ、こんな所にあるにしては、手入れがしてあるけど」
「それはどうも、雄将殿。続けて?もっとあなたのピアノを聞きたい」

 現れたのは顔を布を巻き付けて隠し、中王軍の制服に身を包んだ女性だった。

「……あんまり練習してないから」
「でも、あなたのピアノはとても強くて、私は嫌いじゃない」

 せっかく死神が誉めているのに、サワダは無愛想だった。

「テツ。ピアノ、良かったら楽士殿と一緒に……」
「無茶言うな」

 無茶と言うより、そんなこと、しないで欲しい。
 だって、彼女は……。

「大佐殿!勝手にさっさと行かんでくださいよ!あんた自分の立場判ってんすか?」
「立場って何よ。好きなように動くだけよ、もう」

 後から現れたのは新島だった。
 オレの胸騒ぎってヤツは、意外と正確だった。

「コウタとカナは?」
「式典の準備に引っ張られていきましたよ。大佐殿も中王様に呼ばれてるでしょうが」
「良いよ、そんなの。この人のピアノが聞きたかったの」

 彼女は……サワダのピアノの音が聞こえたから、急いでここに来たってこと?

「ニイジマ中尉、ですか?はじめまして、ですよね?オワリ国王子のシラカミミハマです」

 あ、しまった!ニイジマに会いに来たんだった。忘れるところだった……。ミハマさんがオレのことを紹介しようとして、オレの腕を引っ張り、ニイジマの元へ連れてくる。

「こちらこそ。お初にお目にかかります。ご丁寧にありがとうございます。こんな若輩者の名までご存じいただけるとは。ニイジマトージ中尉です」

 緊張した面もちで、ニイジマはミハマさんに敬礼をした。

「それで、こちらは……」
「存じております、有名ですから。王子付き守護のサワダ中佐と、軍師のスズオカ准将。……そちらは?」
「アイハラユウト……一等兵です」
「……一等兵?」

 一等兵て、何?

「まあ、妥当なところですね」

 いつの間にか隣に立ってたシュウジさんが、ぼそっと呟いた。

 いや、判んないんですけど。
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