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Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと] 序章 第3話 支配するもの、されるもの 05/07
中王の王宮の大きさに、開いた口がふさがらなかった。なんか、ゴシック調の重たい感じの外観だけど……(オワリの王宮10個分くらい?)でも、ニホンに建ってるのは違和感があるなあ。
それにしても、この場所って、お堀もあるし、もしかして?
「シュウジさん、ここって元皇居?」
「天皇制の時代の住居ですね。その跡地です。トウキョウはほとんど建物の面影はありませんけどね。こちらの建物自体は100年ほど前に修復されたものです。ま、これ以上は、どこで誰が聞いてるか判らないので、静かにしててください」
確かに……。
お堀の外に巨大な駐車場があって、そこには他の国の偉い人らしい人たちが続々と到着していた。さっきの話を聞く限り、他の国の人にも警戒をしておいた方がいい気がした。世界がそんな状態なら、諸各国もお互い、警戒しあっているだろうから。
それにしても、めちゃくちゃな数の車だな。オワリの国だけで乗用車2台、ミニバス2台、リムジン(王様用らしい)1台。これで他にいくつ小国があるか知らないけど、全部来たら、何台になるんだ。どんなワールドモーターカーショーだよ。軍隊仕様のミニバスはともかく、リムジンとか、乗ってきたワゴンとか、やたら高そうな車だし。
開いた口がふさがらないまま……。
「アイハラくん。これ、読みます?車の中でお渡ししようと思ったんですが」
シュウジさんに渡されたのは、「中王宮施設案内」と書かれた薄っぺらいパンフレットだった。
「何ですか、これ。観光施設じゃあるまいし」
「さっきも言いましたけど、ここでは研究が出来るんですよ。ですから、研究者志望の人や、正規軍を志望する人向けの案内書です」
「なるほど……そうすると、各国から優秀な人材が集まってくると」
「まあ、ほとんどはこのトウキョウに最初から住んでる人か、中王直轄地になった地域から来た人なんですけどね」
なんか、どんどんここにいるのが嫌になってくるな。早く元の時代に帰りたい。話を聞いてるだけで、感じ悪い。生きて行くには窮屈な気がする。だってオレ、災害前ってヤツを知っちゃってるもん。
「殿下、これからのご予定は?」
ミハマさんにそう聞いてきたのは、親衛隊長のキヅ大佐だった。出発前に紹介して貰った。今年50歳で、アイハラ大尉の親代わりだったそうだ。士官学校のお金もこの人が出してたって聞いた。
だからかも知らないけれど、オレに対する彼の態度は非常に微妙なものだった。良いともいえず、悪いともいえず。遠慮と、懐かしさと、悲しみがぐちゃぐちゃになっているみたいだった。
「ちょっと行きたいところがあるから。オレは明日のパーティ会場にいれば良いんだろ?王宮内にはいるよ。この中だけなら、サワダ中佐もいるし。それより、……彼を、どうする?時間はあるけど」
「いえ、結構です。あれはアイハラ大尉ではありません。サワダ中佐が確かに埋めました。私もその場にいましたから」
「そうだね。それも含めて、どうしたいって聞いてるんだ」
キヅ大佐は黙ってしまった。
この綺麗で華やかな、ともすれば子供のようにも見える少年が、老獪さを持つ軍人を圧倒しているように見えたのは気のせいだろうか。何も、そんな酷いことを聞いてるわけでもないのに。
「いえ、なにも。その少年がアイハラ大尉と別人であると言うことが判っていれば、それで良いのです。その少年は、殿下の管理下におくと言うことでしょう?元老院からはそのように通達がありましたが」
「とりあえずね」
「判りました。『とりあえず』ですね。では、親衛隊は待機しております」
「ついでに、王にもそう報告しといて。スズオカ准将とサワダ中佐はオレが連れて行くので」
キヅ大佐を含め、親衛隊は全部で4名着いてきていた。いつの間にか大佐の後ろに並び、ミハマさんに敬礼をする。その中にはカグラもいた。
親衛隊はそのまま、まわれ右して王宮の東側へと向かっていった。
「どこ行くの?あの人達」
「宿舎があっちの方にあるからさ。オレ達も、後で向かうよ。ところで君はどうする?」
いや、どうするって言われても、ミハマさん……?
「こいつ。この人に会いたい」
「……ちょっと待て、アイハラ。その雑誌、いつの間に持ってきてた」
開いたのは新島が載ってるページだったけど、自分が載ってるのがいやだったのか、サワダに取り上げられた。
「いいじゃん。よく読むと面白いよ、この雑誌。読者投稿コーナーとかあって。良いね、サワダ、アイドルみたい」
サワダから雑誌を取り返し、わざとページをめくる。
「もういい、こいつ置いてこう」
「あ、ひどい!ひどすぎる!」
「まあまあ。楽士殿の所に行こうか」
にこやかに、しかし、ちゃっかりオレから雑誌を奪い、ミハマさんは歩き出す。その後を、シュウジさんとサワダが無言で着いていったので、オレもそれに必死で着いていく。
ミハマさんて、意外とオレ様系?あの、我の強い人たちが、政治的なしがらみをさておき、ミハマさんについてるのも、よく考えたらおかしな話だもんな。絶対あの人、なんかあるって。ミナミさんはああ言ってたけど……オレもそう思ったけど。
ちょっと、おとなしくしてようかな。フリだけでも。
なんか、そういう意味ではミハマさんが一番厄介な気がしてきたし。……ものすっごく優しいし、いい人なんだけどね。
「ミハマさん。楽士殿って?」
「死神殿の別称だよ。彼女、名前がないんだ。だから、いろいろな呼ばれ方してる」
「……何で、楽士殿?」
「何かこういう式典があると、中王の要望でピアノを弾いたり、歌を歌ったりするんだ。オレは、あの人の歌は好きだな。テツも、そうだろ?君もピアノを弾くから、特に」
胸騒ぎがした。歌を歌う。新島が側にいる。
サワダは?どう、思ってる?
「別に、好きじゃない。悪くはないけど」
彼の素っ気なさ過ぎる態度に、思わず、胸をなで下ろした。