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Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと]

Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと] 序章 第3話  支配するもの、されるもの 04/07


「その本、もっとよく見せてよ。シュウジさんと一緒に見る分には良いだろ?汚さないからっつーか、ぼろぼろだし、その本」
「アイハラ、お前ね、さっきのシュウジの話、聞いてた?歴史の研究ってのはここでは禁忌なの。特にお前は、直にその目で災害前の世界を見てることになってんだから、余計なこと言い過ぎなんだよ。だから、シュウジはあえてお前にはそう言うものを見せないようにしてるんだよ。中王のお膝元で余計なこと言わないように。帰ってから、シュウジの部屋で見せてもらえ」
「……でも、オワリに戻ったら、今度は元老院とか、いろんな人たちがいるんだろ?どうせその人達にも内緒でやってんじゃないの?」
「そこまで気がつくなら、どうして自分が余計なことをしてるってことに気づけない?」
「それとこれとは別だよ。何が手がかりになるかも判らないし」

 そう言ったら、サワダはあからさまにめんどくさそうな顔をして、シュウジさんから煙草を一本奪って窓を開けた。

「もーコイツめんどくせえ。シンのヤツ、何で一緒に乗ってこなかったんだよ」
「シンがアイハラに意地悪するから、別に行けって言ったの、テツじゃん」
「そーだっけ?良いじゃん、普段も一人で移動してるんだし、アイツは」

 バツが悪そうにしてんな。照れてんのか?もしかして。
 なんか、もしかしてもしかしなくても、かなり気を遣わせてるのかも……。さっきの台詞も、明らかにシュウジさんのフォローに入ってたし。
 オレの知ってる沢田も、こういうヤツなのかな?こんなに近くにいたわけじゃない。一緒にいたけど、もっとライトな関係だったし。

『テツはね、ああ見えてすごく不器用で、神経質なんだ。でもそれは、あの人の気遣いや、優しさの裏返しで、照れ屋だからはっきりそうだと素直に伝えられない』

 だから、彼のことをどう思ってる、とはティアスは言わなかったけど。

 沢田のことだけ、そう言う風によく見てるって感じで評価してたら、オレはもしかしたら彼女をあきらめていたかもしれないけど。でも、彼女はオレを含めていろんな人をよく見ていて、好意的に解釈してくれていた。

「……じゃあ、その本はいいや。シュウジさん、災害前と今と違うことを少しでも知っておきたいんだ。余計なことを言わないように。さっきの横断線の話だって、こっちじゃ常識なわけだろ?」
「そうですね。それは知っておいた方がいいです。……しかし、違いですか」

 開いていた本のページを一枚めくった。そこに出てきたのは……。

「なにこれ、世界地図?」
「ええ。今のです。残っているのはこのニホン国と一部の大陸です。あなたが言っていた北海道は、この大陸部分にくっついてますね。地殻変動の偶然で、ニホンは随分北に移動してるんです。それから、大陸は半分くらい沈んでます。こちらの大陸はほとんど砂漠です。災害後、植物が育たなくなってしまったんですよ」

 日本以外沈没。……とりあえずそれは置いといて。
 それで白夜とかになっちゃうってこと?それにしては、冬の寒さはフツーだけど。もっと寒いもんじゃないのかな。
 大体、北海道と大陸がくっついてるけど、その大陸は随分小さくなっていた。

「このユーラシア大陸だった所って、人が住んでるんだよね?」
「ええ。でも、空から来る魔物を統率する力を持った一族が住んでると言われてますね。その昔、中王正規軍によって追放され、奥地に追いやられたそうですよ。ですから、危険なため、現在はこの北の門という場所から先は許可がなければいけません」
「こっちの砂漠は?」
「かつては生き残りがいて、ニホンとも国交がありました。しかし、その国の跡地は中王に支配され、閉鎖されています」
「……何だかニホンは鎖国されてるみたいだね」
「鎖国ですか。江戸時代にあったと言われてた政策のことですね。まさにその通りでしょう。しかし、違うのは、外からはもう、支配者が来ることはない。来るとしたら、魔物だけです」
「中に支配者がいる……」
「ええ。ですから、不要な発言は禁止ですよ」
「でも、もう支配されてんじゃん。これ以上、なにもない」
「いいえ」

 シュウジさんは、地図上に載っている、赤い文字の土地を指し示した。よく見ると、いくつもある。北の門がある北海道の一部、東北にも細かく何カ所か。四国、九州にも。そして、その色は中王の土地である、トウキョウと同じ色。

「中王……直轄地……?」
「ええ。地図上の名称はね。他の所は名前があるでしょう」

 確かに。オワリの国もあった。愛知県と岐阜県の一部に国境が書いてある。
 よくよく見てみると、地名は全部カタカナだけど、漢字自体は普通に使われている。

「隠語で、『墓』と呼ばれています。簡単に言えば、中王に滅ぼされた土地です」
「……なんで?」
「逆らったからです。小さな国、軍事力のない国では1日で落とされたところもあります。ですから、支配された国は、中王に両手をあげ、逆らう気がないところを見せながら、こうしてご機嫌伺いに行くわけですね」
「ぼっちゃま、口が過ぎますぞ」

 運転手のつっこみに、サワダが吹き出した。

「何ですか、失礼ですね、二人とも」
「いや……悪い悪い。あんまり楽しそうだったから」
「ぼっちゃま、もうすぐ直轄地に入りますから。……イズミ中佐がいらっしゃらないと、誰もぼっちゃまを止めてくださらない」
「ごめんね、カトウ。君のとこのおぼっちゃまは、あんまりにも楽しそうだからさ、止めるのは申し訳ないんだ」

 悪意があるのかないのか、ミハマさんは笑顔でそう言った。うーん……シュウジさんに悪意はあるけど、カトウさんにはないって所かな。

「もったいないお言葉です、殿下。どうか、ぼっちゃまのことをよろしくお願いします。ここでのことは、私の胸に秘めておきますから……。どうか……」
「うん」

 この人は、信用できる味方ってことか。気のせいか「ぼっちゃま」の暴走を楽しんでるフシがあるけど。

「アイハラ、もうすぐ直轄地に入るから、気をつけてね」
「はい。……もうなるべく不用意なことは言いません……多分」
「君は自分では戦えないから、君を守れるようには手配しておくけど、気をつけて欲しいことがあるんだよ」
「はい?」
「敵も味方も、どこにいて、何をしてるか判らない。だから、その判断を自分でするために、気をつけて」
「どこにいて、何をしてるかって……よく判んない。誰が味方で誰が敵か、自分で決めろってこと?」
「そうだよ。オレは君の味方でいるつもりだけど、オレの味方が君の味方とは限らないし、オレ達の敵が、君の敵とは限らない。それは、オワリの国にいようと、中央にいようとね。だって、オレだって、そうなんだから」
「大変ですね。そんなの、辛いよ」
「そうでもないよ」

 ミハマさんは笑う。華やかで優しく、でも、強い目で。

「敵も味方もいることは、幸せなことだよ」
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