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Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと]

Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと] 序章 第3話  支配するもの、されるもの 03/07


 確か、オワリの国って裕福だって言ってた気がする。
 王宮だって、まんまウエスティンホテルだったし。(しかも後で知ったけど、 オレのいた客間は7階、王族の暮らすフロアは最上階だそうだ。高いはずだよ)
 オレがこっちの時代に来たと気付いたとき、特にそんな違和感は感じなかった。リニモの路線だってあったし。出発したとき、地下鉄の駅もあったし。

 なのに何で?

「何でエスティマ?!何でエルグランド?何で男ばっかり!?」
「何それ、車種名?」
「えー、ミハマさん知らないのっつーか……、そっか、無いのか。大きさが似てるだけで」
「あーもう、うるさい。騒ぐなよ。人数少ないだけましだっつーの。しかも男だけって、なに期待してんだ」

 うんざりした顔でため息をつくサワダの隣で、ミハマさんが笑っていた。その隣ではシュウジさんが無言で「煙草吸って良い?」とアピールしている。
 ここにイズミがいないだけマシなのか……?でも、ミナミさんとか、女子がいねえよ!運転手さんもおっさんだし。

「なあ、新幹線とかで行ったらたった二時間じゃん!何であえて乗用車で、しかも下道なんだよ。これ何時間かかるんだよ!?」
「……新幹線て?」
「昔はそう言う名前の乗り物があったんですよ。災害後に建設し直されたという記録もあります。ですが、そんな簡単に素早く大人数が移動できる手段を、中王が許すわけありませんね」
「何だよそれ……。納得いかないな」
「支配されるって言うのは、そう言うことです。君の言っている新幹線というのは、ちょうどこの路線の部分にあったものじゃありませんか?」

 そう言って、シュウジさんが開いたのは地図だった。
 地殻変動があったせいか、多少、地形が変形してるけど、日本道路地図だった。東海道新幹線のあった位置に、同じように黒い線が引かれている。

「なんだ、あるんじゃん」
「ええ。現在は横断線と呼ばれています。しかし残念ながら、中王の許可がないと使えません。これを使えばオワリとトウキョウの間を1時間半で移動できますよ。災害復興時に、まっぷたつに割れた線路を、復旧したという記録があります。中王の正規軍には、研究開発部もありますから。あと、高速もありますよ。このクラスの自動車で、5時間半くらいかかりますかね」
「……もちろんそれも……」
「許可がないと使えませんね。要するに、基本的には中王の正規軍に所属してるか、お気に入りになるしかありませんねえ」
「むちゃくちゃだ!自由がないよ!」
「ええ、その通りですよ」

 シュウジさんはそう言ってさらっと流したけど、ミハマさんとサワダの表情が少しだけ変わったのに気がついた。
 何だろう。笑顔に見えたけど、その空気は妙に重い。

「ぼっちゃま。あまりそのようなことを大きな声で言わないでくださいませ。姉君の立場がございます」
「すまないね。秘めといてください」
「心得ております」

 誰がぼっちゃま?
 なんて思ってたら、顔に出てたのか、サワダが無言でシュウジさんを指さしてた。

「何ですか、アイハラくん。こう見えても家は王妃を輩出するような貴族の家系ですよ?そこはかとない気品が出てるでしょうが」

 運転手のおっさんが必死に笑いこらえてますけど。

「うん。シュウジさんて気品がありすぎて、ホントに軍服似合わないね。コスプレみたい……」
「それはお互い様でしょう」

 サワダとミハマさんは顔の素材のせいか様になってる。これだから顔のいい男ってムカツクよな。

「そう言えばこの地図、気になってたんだけど、日本地図なの?沖縄とかは?北海道なんか変形しちゃってるし」
「日本地図というか……ほとんど世界地図なんですけどねえ。あなたの言う世界地図って、これでしょう?」

 いつも持ち歩いてるのか、シュウジさんはくたくたになった黒いリュックからA5サイズの分厚い本を取りだした。「ニホン歴伝書」と書いてある。どうやら歴史の本らしい。
 その中の最初のページを開いて見せてくれた。そこには見慣れた世界地図が載っていた。

「災害のあった年から10年後、生き残ったのは僅かな人数でしたが、世界は復興しつつありました。その時、中王という存在がどこからともなく現れ、この世界を支配しました。この本は、その年を紀年とし、スタートしています。この地図は、災害前の状態と、現在の状態を比較するために掲載されてるんですよ」
「マジで!ちょっと見せて」
「ダメです。この本、もう廃版なんですよ」

 つまみ食いを制すように、手の甲を叩かれた。この間サワダが部屋から勝手に本を持ち出しても、(戻せと注意はしたけど)そこまで怒らなかったのに……。

「災害前のことは、ホントは中王の研究室以外は調べたりしちゃダメなんだ。だから、今はオワリの国も災害前の町並みをあえて記念碑みたいに残してるけど、それすらも現在の建物に修復するように言われてるんだ」

 ミハマさんの困った顔に、少しだけ戸惑った。

「……研究しちゃダメって……。じゃあ、この人どうなるの?」
「指ささないでくださいよ。私は、こう見えても軍師兼王子の教育係ですから。歴史の研究は、内緒です。だから、あなたも不用意な発言をしない方がいいです。中王の元に行くのなら、中王正規軍に近付くつもりなら。それを釘指しておこうと思って、わざわざこの車に乗せたんですよ」

 何だよ、それ、おかしくない?

「そんな支配、理不尽じゃない?昔のこと調べるのなんか、勝手じゃん!?なんかやましいことでもあるんじゃないの?」
「でしょうねえ。でも、判らないでもないですよ?研究者を排除することで、新しい技術や発見を、中王の直下以外からは出ないようにコントロールしたいわけですし。武術大会なんかも、現中王の趣味だって話もありますが、各国の危険因子を見極めることが出来ますしね。でも、この世の中ではそうも言ってられないんですよ。仕方ないです。あなたもおとなしくしてなさい。生きていたかったら」

 ずるい。それは大人の意見だよ、シュウジさん。
 だって、サワダもミハマさんも何も言わないけど……彼らは無言で反発してる。

 オレがこの人達から感じてるプレッシャーは、多分、中王の支配に向けられてる。

「シュウジさん、こそこそ研究してるくせに?だって詳しいじゃないか……中王の元でしかできないって言ってたくせに」
「研究は、どこにいたって出来ますから。どうせするなら、役に立つ所の方がいいってだけですよ」

 シュウジさんの台詞に、運転手が再び彼を優しくたしなめた。
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