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Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと]

Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと] 序章 第3話  支配するもの、されるもの 02/07


 結局、部屋に戻されてしまった。しかも、テレビも本も、なにもない。退屈だ。シュウジさんの所に行ったのは、何か借りるつもりだったんだけど、そんな暇はなかったな。

 ちょっと疲れてたのもあって、ベッドに横になる。目に入ってくる天蓋にはやっぱり慣れないけど、それでも、ちょっとだけ、眠くなってくる。

 なんか、いっぱい頭の中に詰め込みすぎて、おかしくなりそうだ。
 あいつらの背負ってるものが重すぎて、辛くなっちゃうよな。
 やっぱり、俺にはこの世界は合わない。なんか、サワダの顔は暗いし、イズミは意地悪に拍車がかかってるし、ティアスはいないし。

 トウキョウ行って、新島に会って、オレはどうしよう?
 だって、アイツも結局、別人なんだよな。

 でも、少しでもオレの近くにいた人に、俺は会いたい。

『過去からつながる何かの縁だとしたら、オレは嬉しい』

 縁か……。
 なんて不確定で不確実。それなのに、どうして信じたくなってしまうのかな。

 多分、ミハマさんのせいだな。何の根拠もないのに、すごく魅力的に感じる言葉。
 彼の言葉を受け止めるとしたら、オレがここにいるのも何かの縁ってことにならない?実際、オレの生まれ変わりと思われるヤツがここには確かにいたわけだし。

 誰かと誰かがつながっていて、そのつながりに特別なものがあって、それを縁と呼ぶのなら、オレはきっと彼女に会える。会いたい。

 あの後、彼女は一体どうしたんだろう。
 オレは?
 何で思い出せないんだろう。

 彼女とスタバで会ってて、それから?

 ……そう言えば、沢田が来た気がする。オレとティアスだけの時間は短かった。
 沢田はティアスの横に当たり前のように座り、二人で肩を寄せ合った。
 多分、沢田は俺の気持ちなんて知らないだろう。
 二人は、オレや周囲の客の目を盗んで、何度もキスをする。
 見られてないと思ってる。悪戯っぽく二人で笑ってるのも知ってる。
 でも、オレは、しっかり見てる。

「アイハラ!返事しろ!」

 扉の開けられる音で目が覚めた。
 どうやらあのまま眠ってたらしい。今何時だ?空は明るいままだけど……(そう言えば白夜だっけ)

 しかも、よりにもよって、この夢見の悪いときに一番見たくない顔。

「……寝てたのか、お前。全然返事しないから、勝手に入ったぞ。制服のまま寝てんなよ、皺になるぞ」

 そう言うサワダは軍服を着てた。そう言えばさっき、着替えて元老院に行くって言ってたな。てことは、そんなに時間は経ってないってことか。

「なんでサワダって、発言がおっさん臭いかなあ」
「誰がだ。せっかく良い話を持ってきてやったのに」
「なに?!」
「なに、その態度の変わり様。現金なヤツだな」
「文句ばっかだな。だからなんだよ」
「トウキョウに連れてってやるよ。招集がかかってるんだ」
「招集?」

 サワダが偉そうに説明してくれた内容によると、トウキョウって言うのは中王って言う世界を支配する王様が住む土地で、特に用がなければ近付かない所だそうだ。その中王が年に何回か、支配下の各国の王を招集する。特に大した用件はなく(一応報告会って名目らしいけど)、印象としては歴史で習った大名行列に近い。中王の元に集めることで、支配力を誇示する、って言うのが目的らしい。
 ただ、ミハマさん達にしたら、トウキョウに行く理由になるので、そんなに悪い話だとも思ってないらしい。(でもそれは、この国が裕福だから、とも言ってたけど)

「オレ、ついてっても良いんだ?」
「ミハマが良いって言うからさ。明日出発だから、準備しとけよ」
「……え?」

 思わずそう答えてしまったオレに、サワダはイヤな顔をした。

「え?ってなんだ。いいから準備しろよ」
「そう言われても、特にないし。てか、急だよね」
「無いって……。着替えとか、準備させたろ?あ、あと、軍服着ないと」
「何で軍服?!」
「いや、中王の王宮まで入るなら、正装しないと。一般人は入れないし。オレ達といるのに、正装する?みんな軍服だよ?」
「……貸してください」

 正装って、蝶ネクタイとか、スーツとか?ありえないっつーの!

「あと、親衛隊のヤツ、紹介しとくよ。どちらにしろ、ミハマが移動するときは、親衛隊も何人か同行することになるし。ソノダ中佐くらいの階級の人なら、お前の顔を知ってるかは微妙だけど、親衛隊を誤魔化すのは無理だからさ」

 ああ、そう言えばそんなことを言ってたような……。アイハラ大尉のことを、よく知ってる人達なわけだ。
 アイハラ大尉の居場所は、そこだったのかもしれないな。

「カグラ少尉。入ってください」

 あれ?サワダより階級下なのに、下出に出てない?それにカグラって……。

「失礼します。……驚いた、ホントにそっくりですね。事情もお伺いしましたが」
「香具良未樹!」

 オレ、カグラも仲良かったんだよな。サワダやイズミとカグラはそんなに話をしてるのを見たこと無かったけど。でも、名前を叫んだのはまずかったかな。ちょっと引いてた。

「少尉のことも、ご存じのようですよ。ですが、彼の話はこちらとしても判断しかねるところですから」
「そうですね。隊長に報告しておきます。私の一存ではなにも判断できませんので。でも、本当に生き写しですね。ただ……」
「はい。彼は、おそらく全く戦争を知りません」

 カグラ……少尉はサワダの言葉に静かに頷いた。なんか、妙に落ち着いてて変な感じだった。

「わざわざお時間をいただき、ありがとうございます、中佐。明日の準備でお忙しいでしょうから、また後日、彼と話をする時間をいただけますか?」
「ええ。それはこちらこそお願いします。我々よりも、あなた方の方がアイハラ大尉のことにはお詳しい」
「ありがとうございます。……大尉の墓の件も」

 カグラはサワダに挨拶をすると、オレに視線を移した。睨まれているような目つきだったけど、多分見ているだけだろう。
 敬礼して、部屋を出ていった。

「忙しいときに呼んで悪かったかな?」
「何で忙しいの?」
「言ったろ?親衛隊も招集のときについてくるからさ。いつもミハマは勝手に父王に着いてくんだけど、今回はミハマも直々に中王に呼ばれてるから」
「ふーん。てか、カグラに敬語ってなんか変な感じだな。オレ達同じクラスだったんだ」
「お前の所ではどうか知らんが、カグラ少尉は年上だし、若いけど在籍期間も長い。親衛隊の中ではまだ話しやすい人だし、一応な」

 年上なんだ。あっちでは同じ歳だったのに。同じ人に見えるのに。
 ほんの些細なことだけど、「縁」が遠いのかもしれないなって思った。
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