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Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと] 序章 第2話 これもきっと何かの縁 05/07
イズミと墓に来たのは、もしかしたら失敗だったかも。
ここまで雰囲気が悪くなるとは思わなかった。
いや、サワダとイズミが揃ったからなのかな。
てっきり同じ顔だし、同じようなしゃべり方だし、同じような人間に見えちゃってんだよな。違うって、もう判ってるんだけど、時々。
シュウジさんも生まれ変わりとか何とか言うし。
「そっくりかもしれないけど、全く違う人生を歩む、別人。そっくりだと思ってるのは、おそらくあなただけです」
勘違いをしちゃダメだ。多分、あのシュウジさんの言葉が真実に一番近い。
オレが、オレだけが、ここでは異端に思われてるし、思ってる。
オレは何とか生き延びて、元の時代に戻りたい。
だって、ここのイズミとサワダの重い空気を感じてたら、あっちの二人の仲の悪さなんて、猫の喧嘩程度にしか見えない。
こっちの二人はゴ●ラ対メカゴ●ラだ。(実際、あの恥ずかしい雑誌の記事を見る限り、それくらいの破壊力は持ってそうだけど)
「テツ!シン!やっぱりここにいた!」
その叫ぶような呼び声を聞いて、サワダとイズミの間に流れていた重い空気は一気に軽くなる。本当に、プレッシャーから一気に解放されたような、分かり易すぎる変化だった。人と人との関係とか空気とかって、すごく気をつけてないと判らないと思ってたけど、この二人はこんなに判りやすくて良いんだろうか……。
でも、このプレッシャーから解放されたのは、ホント助かる!まるで天使!救世主!
いや、キラキラ王子様か!?
まだ、遠くにいるので顔が判別できないけど、あの薄い色の長髪と、モデルみたいに長い手足、なによりあの華やかさ。これが王子様のオーラってヤツか?!はっきりと誰か分かるって言うのもすごい。服装は、フツーなんだけどな……。
こちらに手を振りながら走ってくる様は、ほとんど昔の少女漫画だ。モテそう……。
後ろには二人、くっついてきていた。
一人はさらさらロングの美人(どっかで見たことある……)と、軍服に身を包んだ青年。なんか、警官みたいで怖いな。外でサワダが持っていたようなでかい剣ではなかったけど、腰に剣をぶら下げてるし。なにより、グレーともブルーともつかない色の、かしこまった軍服は、それだけで威圧感がある。
歳も結構上かな。多分40近いと思う。筋肉質で異常に姿勢がいいせいか、おじさん臭くはない……。
突然、軍服の男に敬礼をするサワダとイズミ。二人は私服(しかもかなりカジュアルなコートとか着てるし)だったので、何だか違和感があったが、先ほどのにらみ合いにも似た緊張感が二人を包んだ。
オレ……敬礼した方がいいのかな。
「サワダ中佐。元老院のナカタ議員がスズオカ准将とともに元老院まで参上するようにと」
「ソノダ中佐。……私とスズオカ准将だけですか?イズミ中佐とミナミ中佐は?」
「いえ、結構です。ナカタ議員はお二人だけを、と……」
「大丈夫だよ、オレも呼ばれてるから」
ソノダ中佐と呼ばれた男は、にこやかに答えたミハマさんの態度に、眉をひそめた。
仮にも王子様じゃないのか。
「……その子が、サワダ中佐が連れてきて、王子がかくまっている少年ですか?……どこかで見たような」
「あれー?そのことでもしかして呼び出しですか?さすが、王宮内での出来事にはお詳しい」
にやにやしながらそう言うイズミを、ソノダ中佐は睨み付ける。でも、正直、威圧感のある人だけど、さっきのゴ●ラ対メカゴ●ラの恐怖を思えば、大したことはなかった。
ホントにあのプレッシャーは何だったんだ、怪獣二人組……。
「殿下の教育係も兼ねておられますから、王子の行動にお詳しいのは当然です」
「『王子の教育係』はもう随分前にスズオカ准将が引き継がれたじゃないですか?大体、もう王子も子供ではないわけですし」
イズミ、怖いよ、お前。何で顔はにこやかなのに、そんなに怖いんだよ。しかも喧嘩腰。
「ナカタ議員はこの国のことを考えておられるだけです。王もご高齢ですし、王子にもっとしっかりして欲しいと思っておられるのです。トラブルの種をわざわざ連れ込むようなマネを……、サワダ中佐までご一緒になさってては、お父上であられるサワダ議員も……」
「あー、オヤジは関係ないんで……いや、父のことも、相続のことも、護衛部隊に所属する私には関係ありませんから」
サワダも、うっそくさい笑顔だな、おい。こんなに判りやすく仲が悪くていいのかよ。
さっするに、王子の特殊護衛部隊のサワダやイズミと、ソノダ中佐が肩を持ってる元老院ってのは、王子であるミハマさんの事を巡って対立してるって事か。
もしかして、オレ、その出汁に使われてる?
それにしてもなんか、サワダが辛そうだな。作り笑顔の気持ち悪さもあれだけど、父とか、相続とか、めんどくさそうな単語がいっぱい出てきた。要は、父親と対立してるって事だよな。
サワダのお父さんって言ったら、こんなでかくて生意気な子供がいるとは思えないくらい若くてかっこよくて、しかも大学の助教授で、受験の時に沢田のコネで2、3回しか会ったことがないけど、なんか友達みたいに(歳が近いのもあるけど)仲が良い親子だなと思ってたけど……。
「ソノダ中佐、もう、伝令は良いだろ?任務終了。ナカタ議員には後で向かうって伝えといて」
「しかし殿下、ナカタ議員はすぐに、と……」
「悪いね。オレも忙しいからさ。元老院も、今、忙しいはずだけどね?中王から召集令が出てるはずだよ?」
「……ですから、余計にすぐに、……です」
「片づいたら行くよ。ちゃんと准将も中佐も連れてくから」
完全に笑って誤魔化した。
「殿下の護衛は我々が行いますから。戻ってナカタ議員にご伝言を」
ミハマさんと一緒に来た女性が、ソノダ中佐を促した。
凛とした雰囲気に飲まれたかのように、ソノダ中佐はまわれ右して歩き出そうと動く。
「……その少年、親衛隊の大尉によく似ていませんか?」
「他人のそら似じゃないですか?」
イズミの答えに、ソノダ中佐は再び振り向くことはなく、立ち去った。もしかして、フォローしてくれた?イズミが?!
いや、オレのフォローをしたわけじゃないか。