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Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと] 序章 第2話 これもきっと何かの縁 03/07
サワダの後について、墓の中を歩いていく。
この中に自分を含めてたくさんの死体がいるかと思うと、正直いい気分じゃない。実際、オレってば盆も正月も墓参りとか行かないしね。
「テッちゃん、よく覚えてんね、こんな広いとこ」
「大体だよ。一個一個覚えててたまるか」
いや、大体でも……すごくない!?めちゃくちゃ広いし、ほとんど目印とかないし。自分の関係者一個だけ、とかなら場所も覚えてられるだろうけど……。
あ……、それすらもないんだ。この墓場は。
身寄りがいないって事は、人が来ないって事で……。
今日だって、こんなにいい天気なのに、ほとんど人がいない。
身寄りがいないって、こう言うことなんだな。死んでも、誰も引き取ってくれない。引き取れない。
オレ……「アイハラユウト」も、そうだったんだな。
「ここに埋まってるのって、軍人ばっかり?」
「オレが埋めたのはな。一般人も一部混ざってるよ。解放されてるからな」
「軍人はって言ってたけど……サワダ一人で埋めてんの?」
「昔は。今は何人か手伝ってくれる人もいるよ」
「ふうん。何で、あんな雑誌にまで載っちゃうような軍人が、墓掘りなんかしてんの?」
「アイハラくん、うっさいよ、君。ちょっと静かに歩けんの?」
……うっさいのはお前だよ、イズミ。何でずっと付いてきてんだよ、もう。サワダが案内してくれるから、もういらないっつーの。
「言いたいことがあったら口に出していった方が、ストレスたまんなくて良いと思うよ?」
しまった。顔に出てたし。
サワダも、さっきまでオレの質問に答えてたくせに、無視してどんどん歩いて行っちゃうし。
オレ、なんかまずいこと聞いたかなあ?
「アイハラ、これが、『アイハラ』の墓」
そう言って、足下の墓石を指す。何だか、表情が固い。
オレがサワダの顏ばっか見てたせいか、サワダの指がさっさと下を見ろとばかりに強く動いた。
墓石には予想通り、カタカナで「アイハラユウト」って書いてあった。18歳。オレと同じ歳。でもまあ、オレは軍人じゃないから……。
「親衛隊?……大尉。これが階級?」
「ああ、殉職したから、2階級特進したんだ。王子付きの親衛隊に所属してたんだ」
「王子……ああ、ミハマさんか。王子を守る仕事をしてたって事だろ?サワダ達もそうなの?」
「いや、オレもシンも親衛隊には所属してない」
「階級も全然違うしね。オレもテッちゃんも『中佐待遇』だし。本当なら、そんな偉そうな口聞けないのよ?君ごときじゃ」
そんなの、ここのアイハラユウトの階級なんか、俺には関係ねーじゃん!オレ、一般人だし!
コイツ、何でこんなにオレに対して喧嘩腰!?嫌味大魔王!?
……しかし、今のオレにはそれすらも言えないのか……。
だって、イズミ怖いんだもん。どう考えても体力的にもかないそうにもないし。(オレは平均身長だけど、イズミは180越えてるしね……)
「『中佐待遇』なだけで、実際はそんな上の階級じゃねえって、俺達の年齢じゃ。大体、シンは士官学校すら出てないくせに」
「テッちゃん、そゆこと言う?!あんな恐ろしい学校、行きたくないよ」
「じゃ、なんでそんな偉そ……もとい、偉い階級が付いてんの?二人とも」
イズミがサワダから目をそらし、オレをじろっと睨んだが
「テッちゃんは王族だから、まあこんなモンだけど?」
イズミはちらっとサワダを見たが、彼は目を合わすことなく、話をはじめた。
「俺達は、王子直属の特殊護衛部隊って名目で集められてる、軍の組織とはちょっと離れた部隊なんだ。とはいえ、軍人だから階級はあるし、でも王子直属だから、階級が極端に低いのもまずいって事で、特例なんだ。この年で士官学校を早めに出たヤツならアイハラの階級は悪くないさ」
悪くない……。まあ、フォローされてるな。しかし、士官学校って金かかんないのかな?アイハラユウトは金も仕事もなかったはずだけど。
どんなヤツだったのかな?こいつ。
何だか、ホントに自分を探してる気分になってきたよ。
「ねえ、このアイハラユウトって、どんなヤツだったの?」
「さあ、あんまり知らない」