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Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと]

Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと] 序章 第2話  これもきっと何かの縁 02/07


 恐ろしいことに、イズミに連れられて城(外観はどう見てもウエスティンホテルだけど)を出て、ちょっと距離のある墓場(多分位置的に名城公園だと思われる)につくまで、俺達二人は全く会話をしなかった。
 確かイズミって……喋りすぎて沢田とか南さんとかにうんざりされてたような気がするんですけど。さっきも減らず口ばっか叩いてたし。
 オレ、相当嫌われてるかも……。(別にオレもこっちのイズミは嫌いだから良いけど)

「テッちゃん!またここにいたのかよ」

 遠くに黒い人影が見える。それに向かって大きく手を振るイズミ。どうやらサワダらしいけど、よく判別できるな。全然判らん。

「シン!何でアイハラを連れてきてんだ。コイツは……」
 
 徐々に墓の中にたたずむ黒い人影がはっきりしてきた。
 てか、すげえ遠くと遠くで怒鳴り合いながら喋んなよ。他に人がいないから良いけど、みっともないなあ。

「わーってるって。なんか、『アイハラユウト』の墓が見たい、っつってうっさいからさ。仕方なく連れてきたわけよ。オレってば親切☆」
「あっそ。墓なんか見たいの?お前」
「だって、オレの墓なんだろ?」
「……お前のじゃないよ」

 そう言いながらサワダはため息を付いた。顔は苦笑い。

「テッちゃんてばまた、墓掘ってた?今はもうないだろ?それに、ここにお前がいるとミハマが気にするだろ?」
「まあ、掘る墓はないけど、掃除くらいはしとこうかと思って」
「良いけどね。それで気が済むならさ。しかし、変わってるね。テッちゃんも、中王の死神様も」
「あの女と一緒にするな」

 ……なんだよ。やっぱ滅茶苦茶喋るんじゃん、イズミのヤツ。
 サワダは、人であまり態度を変えないけど、イズミは分かり易すぎ。
 しかし死神女って、どんなだそれは。

「サワダ……さん。死神って、誰?」
「呼び捨てで良いよ。そうやって呼んでたんだろ?……死神っつーのはあだ名みたいなもんだよ。実際は……名前、ないんだっけ?」
「なんか、階級とか、楽士殿とか、死神って名前ならそれで良いとか言ってるらしいけどねえ」
「……その、恥ずかしいあだ名みたいのは、誰が最初につけるわけ?死神てなんだよ」

 だっておかしいだろ、死神なんて。恥ずかしいし。リングネームかっつーの。

「さあね。テッちゃんみたく、墓を掘ったり、管理したり、戦争になれば人をさくさく殺してるし」
「その言い方だと、オレも死神って事にならない?」
「他国からみればそんなもんでしょ。戦争になったら、君は一番の難関になるわけだし?まあ、彼女が死神って呼ばれてるのは、風貌とか、持ってる大鎌とかもあるでしょ?」

 死神の風貌……。なんか、想像するだけで嫌な感じだな、その女。しかも何でそんな恐ろしい話を墓場でしちゃってるわけ?
 墓場……、って言っても、オレが想像していたのとはちょっと違った。あの、お寺にあるような縦長の難しい漢字が並んでる灰色の墓石ではなくて、外国の映画に出てくるような、白くて平たい石がたくさん地面に落ちていた。石にはカタカナで名前と、生年と享年が記してあった。仏教じゃないって事かな。

「なあ、サワダがこのお墓、みんな作ったの?」
「みんなは無理だよ。知らないヤツだってたくさんいるし。穴掘る手伝いをしてるだけだよ。誰も好んで戦死者の墓を掘ろうとしないしね……。自分の身内ならともかく」
「身内ならって、ここは……?そう言えば、何でこんなにホテ……城に近いんだよ?」
「ああ、ここは、オワリ国軍の戦死者、主に軍人だけど、その中でも、身寄りがない遺体が葬られるところだからな」
「神社も寺もないのに?」
「テラ?神社ならあるけど、テラってなんだ?神社は遺体を埋葬するとこじゃないしな」

 うーん……。寺には墓があってフツーじゃないのか、日本は?
 しかし、身寄りのない戦死者、か……。

「それって、『アイハラユウト』にも身寄りがなかったって事?」
「確かな。身寄りも仕事もないから軍人になった、って言ってたし」

 あ、それ、オレ言いそう。とりあえず食ってかなきゃいけないしね。
 なんか、絶対別人なんだけど(シュウジさん曰く、生まれ変わりなんだって言うけど)それでも、まるで自分のような部分もあると、ちょっと不思議な感覚を覚える。

 もっと知りたいって。

 それは多分、サワダが少しだけでも、死んで埋められたオレに対して心を残してくれているのが判るから。
 単純にサワダが優しいだけなのかもしれないし、ここに埋めたヤツ全員に同じくらい思いを残しているのかもしれないけれど。
 それでも、死してなお、誰かの心に残るのって、どんな風なのか、オレは知りたいし……そうなりたい。

「サワダ、アイハラユウトの墓の場所は?」
「ああ、こっちだよ」

 そう言って何の迷いもなく案内してくれる彼の背中をみて、心が満たされる感覚を覚えた。
 きっと彼は、ここで彼が埋めた全ての人を覚えているかもしれないけれど。
 それでも、アイハラユウトは彼の心に残っているのだ。
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