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Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと]

Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと] 序章 第1話  世界を見る 03/05


「お前さっき、パラレルワールドって言ったじゃねえか。やっぱりコイツがウソ付いてるってことか?」
「何でそうなるんだよ!嘘なんかついてねえって!証拠見せたじゃんよ!」

 今にも掴みかからんばかりの勢いの(ていうか、じっさい胸ぐら掴んでるし)沢田を気にもとめず、シュウジさんは煙草を噴かし続ける。

「納得のいくように説明してください、シュウジさん!ていうか、助けて……」

 無視して煙草をふかし続けている……だけかと思ったけど、なんか、目がうつろだ。超怖え……。

「あー、もういい。コイツ、まだ考えがまとまってないだけだ」

 オレから手を離し、ため息を付きながら、テラスにもたれかかる。
 考えがまとまってないなら、思わせぶりなこと言うなよ、もうー。

「それより、思い出したか?こっちに来る前のこと」
「何だよ、信用してないんじゃなかったの……ではないですか?」

 いいながら、そうっと沢田から距離をとる。

「お前、判りやすく卑屈になるな。別に良いよ、タメ口で。戦闘能力無いヤツには暴力振るわない」
「……そう言うとこ、やっぱ沢田なんだよな……。その無駄な漢気!箱入りのせいか、妙に古風だし」
「……それ、誉めてんの?」

 わー、すっげえいやそう。

「誉めてる誉めてる。めっちゃ誉めてる。ティアスもそう言うとこが好きみたいだし」

 何故か、ますます顔が険しくなった。

「どんな女、それ?写真持ってる?」

 さすがに、自分の彼女だって言われると気になるモンなのかな。オレだったら悪い気はしないと思うけど、何でコイツはこんなに嫌そうな顔なのか。

「人の女の写真なんか持ってるわけないし」
「いいや、絶対持ってる。お前、今日何回その女の名前を言った?『人の女』っつーわりに気にしすぎなんだよ」
「……沢田のくせに鋭い」
「くせに、ってなんだ。早く出せ」

 あくまでも命令口調か、このオレ様は。

「自分のことは、とことんまでに鈍いんですけどねえ」

 煙草、三本目だよ、シュウジさん。

「うるせえ!10年、女がいないヤツは黙ってろ。てか、さっさと結論出せよ」
「9年3ヶ月です!女嫌いは黙ってなさい!」

 ……10年前は彼女いたんだ……。

「シュウジさんて、いくつ?」
「33」
「まだ32です!」
「どっちだって一緒じゃんよ。いいから、オレにも煙草ちょうだい」
「一緒じゃありません。ガキがこんなモン吸うんじゃありません。なにが『いいから』なんですか」

 シュウジさんが怒鳴るのを無視して、勝手に2本抜き取り、オレに1本くれた。

「沢田、ライターが無い」
「くわえてろ、つけてやる」

 言うとおりにすると、沢田はオレの煙草を軽くつまみ、すぐ離した。
 何故か火がついていた。
 驚きもあったけど、思わず、顔が綻んでしまう。

「手品?」
「みたいなもんだ、この程度なら。種明かしはしないけど。企業秘密だから」

 そのときは、単純にすごいって思ってた。

「写真、見せろよ。別に減るもんじゃなし。燃やすぞ?」
「……脅してるじゃん。まあ、良いけどさ。こっちにいないみたいだし」

 いたとしても、こっちの沢田なら、興味を持つこともなさそうだし。
 しょうがないから、携帯のメモリを探して沢田に見せた。

「顔がよくわかんねえよ、この写真。こっちの男は見覚えがあるけど」
「あー、これ、新島が前に入ってきてティアスにかぶってるヤツだった……」

 もう一枚、オレと一緒に撮ったヤツがあるけど、さすがに恥ずかしくて見せられない。

「ニイジマっつった?この男」
「見覚えあるって言ったよな?新島もいるの?こっちに」
「この国じゃない。中王直属正規軍の中尉だったかな?士官学校の卒業も早かったけど、出世も異常なスピードだとか言ってたな。雑誌にも載ってた気がする」
「雑誌?」

 なんで軍人が雑誌?
 オレの疑問を無視して、沢田はシュウジさんの部屋から雑誌を2、3冊持ってきた。

「テツ、返して置いてくださいよ、ちゃんと」
「わーってるよ。えっと……たしかこの辺のページに……」
「うっわ、なんで沢田も載ってんの?なんかグラビアっつーか、アイドル雑誌みたい」

 終始むっとした顔の沢田が、4ページに渡って特集されていた。載ってる単語の暑苦しさとファンタジーコスプレがなければ、完全にただのアイドル雑誌だ。

 オワリの国を守る炎の雄将、サワダテツヒト
 麗しき王子の美しき守護神
 中央武術大会での華麗な剣技。来年の優勝もこの人で決まり。

 うーん、暑苦しいっつーか、歯が浮くな。雑誌のタイトルも「剣聖」だし。なんか、すげーノリだな。ついていけん。

「なになに、『今年の武術大会の優勝は、黒髪黒目の知的な風貌の美少年だった。今大会が初出場ながら、2回戦の時点で既に多数の女性ファンが付き、大会を華やかなものにしていた。しかし、彼はいたってクール。ファンの声援にも、インタビュアーの熱意にも答えることはない。その風貌から漂わせる雰囲気そのままに、彼は硬派な男だった……」
「だーっ!もう、何をでけえ声で読んでんだ!恥ずかしい!見るページはそこじゃねえ!」

 予想通り、真っ赤になって怒ってやがる。沢田は目立つこと嫌いだからな。
 からかい甲斐があるんだか、ないんだか。
 しかし、美少年。間違っちゃいないが、むかつくな。

「なんだよ。こんだけ写真撮られといて、悪い気はしないんじゃ……。てか、スタバで言ってたこと、あながちウソでもないんだな」
「好きで撮られたんじゃねえっ!それにその雑誌はトウキョウの中心部と、トウキョウに出入りしてる各国の上流階級くらいしか見ない雑誌だから、町の人は(マニア以外)まず見ない。いいから、こっちのページだ」

 なんだ、つまんない。
 次に開いたページには、まさに新島が写っていた。しかも、こちらは完全に『軍服』を着ていた。

「コイツだろ?さっきの写真。友達?」
「うん。なあ、新島にも会いに行ってみてもいいかな?東京にいるの?」
「うーん。多分な。……しばらくは直轄部勤務って書いてあるから、中王のお膝元にいるみたいだな。まあ、お前の正体が分かってからだけど」

 その話、やっぱり忘れてなかったわけね。

 オレ、別に何もしないから、もう自由にしてくれよ。
 パラレルワールドでも何でも良いよ。

 いいから元の世界に帰りたいよ。

 タンっと音を立て、シュウジさんが煙草を消した。完全にわざとだった。

「アイハラくん。結論から言いましょう。ここは君がいた世界です」
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