Copyright 2006-2009(C) Erina Sakura All rights Reserved
このサイトの著作権は管理人:作倉エリナにあります。禁無断転載・転用
Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと] 序章 第0話
地球から来た男。
昔、読んだ小説。酷く印象的にオレの頭に残っていた、あの話。
オレの大好きなあの作家。
「ここ」は絶対、確実にそんな世界。
じゃなきゃおかしい!
そう思ってしまえる柔軟すぎるオレの頭がちょっと憎い。
だって、意識を失ってて、はっと気が付いたら、いつもの行きつけのスタバ。
いつも陣取る店外喫煙所。隣には同じクラスのそれなりに仲よしこよしのお友達。
いつもみたいに何処に行こうか騒いでたはず。
でも隣にいたヤツはどうも違うらしい…。
「誰よ、お前?てか、何でいきなりオレの隣に座るわけ?」
「てか何言っちゃってんの?沢田……」
どうもマズイコト言ったらしい。目の前にいる、クラスメートのはずの男の纏う空気がかわった。
「なんでお前、オレの名前……?」
と言った所で、沢田(らしき人物)はしばし考えこんだ。
どうみても沢田だよな…。
黒髪黒目の嫌味なくらいの美形で、何とかっていうタレントに似てるとかで(オレより背が低いくせに)やたらモテて…。
「まあ……顔しってるヤツがいてもおかしくないか」
なにそれ。
有名人てこと?沢田のくせにナマイキな。ちょっとモテるからって。
「しかし図々しい、いきなり呼び捨てか」
そう言われてもどうみたって沢田だし…。
「お前、名前なんつーの?アイハラユウトっていうヤツ知らない?」
オレの名前だっ、それは~!!
ってウッカリ叫んでしまいそうな所を抑えて…。
だって、この人、よく見たら危ないよ!沢田みたい(つーかそのもの)だから油断してたけど、こ…コスプレイヤーか?
フツーの学ラン、フツーの髪型、いつもの騒がしいスタバ。
なのに、その剣!
何、背中にしょっちゃってんの?!おかしいだろ?
……落ち着いて辺りを見渡すと、沢田の他にも武器らしき物を携帯してる人は何人かいた。
なんか……物騒な感じ。
コスプレのがまだマシかもしれない。だとしたらドッキリとか…(誰が何のためにだよ)
「き…奇遇だよな、オレもアイハラユウトっていうんだ。漢字は、勇気の勇に漢数字の十で…」
沢田はなぜか不思議そうな顔でオレを見ていた。
「何かオレの顔についてる?」
「いや、何を怖がってるか知らんが、意味語まで教えなくていい。とりあえず敵意がないのはわかったから」
「意味語……?何?漢字の事を言ってる?」
「…知らない?嘘だろ…どっから来たんだよ?てか、いきなり隣にいたしな」
敵意がないのがわかったなら、もうちょっと柔らかい態度をしろよ。
でも、あのしょっちゃってるデカイ剣(たぶん沢田よりデカイ)でさっくり斬られてもやだしな…。
「あー、もうなんかオレじゃ判断できねえや。めんどくさい、はっきりしろよ」
「な…なにを?」
嫌な感じじゃない?
「うちの親衛隊にいた男と同じ名前、同じ姿。それだけでも怪しいのに、わざわざこのオレに近づいた……」
うわ…ありえない!
何、この重圧。なんか…目の前にいるのは沢田の姿をしてるのに、まるで巨大な獣の前にいるみたいだ……。
「何者だ?」
「オレが…知りたいよ。オレは何も判らない。沢田……さんの知り合いのユウトはどうなったんだよ?」
「死んだよ。こないだの内乱で」
「な……内乱……」
めちゃくちゃ物騒な言葉を聞いた気がする…。
戦争してるから、こんな…。
地球から来た男、なんてカッコイイこと言ったけど、なんでこんなことに…。
どうしてオレはこんなところに?
思いだせ、沢田の隣で気がつく前にどうしてたのか!
……。
ヤバイ、全然……思い出せない。記憶とんじゃってるよ。
「思い出せない。どうしても……。それに怖い」
「怖い?」
「アイハラユウトが死んでるっていうことが。何かオレが死んだみたいだ」
「お前は生きてるだろうが」
オレの言葉に沢田は呆れたようにため息をついた。
オレ達の間に流れていた、オレを押し潰していた重い空気が少しだけ軽くなった。
「オレが墓を掘った」
唐突に沢田はそう言った。
「……オレじゃ判断できない」
沢田が何を言おうとしてるのか、わからなかった。
「怪しきは罰せよっていわれてるし……シンに」
「真?!泉真のこと!?」
しまった……。沢田の顔色が明らかに変わった。地雷ふんじゃったか?
「シンのことは、なんで知ってんの?ホントに何処からきた?」
彼の纏う空気が、再びオレを押し潰す。
内乱、戦死、武器らしき物の携帯。
あまりにかけ離れた世界の言葉が、目の前でオレの友人の姿をとって迫ってくる。
「待てよ。オレ、ホントに何も判らない……。沢田も泉もオレの友達で……、ここにいるのは偶然っていうか、オレだって判らなくて……」
どうしよう。どうしたらいい?
今、オレが何処にいて、どうしてここにいるかは全部おいといても、この状況はヤバいよ。
だってどう考えても目の前にいるヤツは、オレの知ってる沢田じゃない。
オレの知ってる沢田は、ピアノばっか弾いてて、こんな血生臭い感じはしなかった。
戦争なんか、違う国の話だったから、当たり前だけど。
ああ、ドッキリだと思いたい……。
「……お前が嘘ついてるようには正直見えないけど、シンのことまで知ってるとなると……。
……なんだ?どうした?」
「今……何時?」
「何時って……。何だよこんなときに。…そういや白夜だから、ウッカリしてたな。もう8時近い」
沢田は腕時計と携帯を交互に見ながらそう言った。
しかし、白夜って……??
「ここ、日本だろ?愛知県だろ?」
「アイチケンてなんだよ。ニホンはニホンだけど。外から来たみたいなこと言うなよ」
「だって、白夜て、こんな北半球の真ん中でありえないだろ!北欧でもあるまいし」
「知るかよ。現にそうなんだから、仕方ないだろ?あーもう、早く戻らないとミハマに怒られる。めんどくさいから、お前も一緒にこい。アイツに判断を任せる!」
その瞬間、オレははっきりと理解した…というかさせられた。ずっと疑いながら、ドッキリであることを祈りながら、過ごしていた。
でも、自然までは変えられない。
ちょっとした違和感、くらいで済んでいたのが、あまりにもスケールのデカイ話になってしまった。
ありえない。こんな超常現象。
さぁっ……と目の前が暗くなったかと思ったら、身体中の力が抜け、その場に倒れこんでいくのが判る。
多分、一瞬の出来事のはずなのに、その感覚はいやにスローだった。
隣にいたはずの沢田の声が随分遠くに聞こえる。
また、目が覚めたら、オレの知らない所に、似て非なる世界にいるのかな……。
妙に冷静にそんなことを考えながら、意識が遠くに行くのを感じた。