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Switch[モラトリアムを選ぶと言うこと] 番外編 うさぎ
白い体に真っ赤な目。
白ウサギには満腹中枢がないんだよ
与えればあたえただけガツガツと食べ続ける。
いつまでも満たされることはない。
ちょうど、僕のようにね。
「ウサギ売ってる」
「食用だよ。いろんな文化があるからさ。肉だけでもとんでもない数だよ。オレはウサギは食べないけど。なんか似てるでしょ、白ウサギに」
色が。白に近い銀髪、白い肌。赤とも紫ともつかない瞳。
ずいぶん大きなウサギだが。
「ウサギってさ、満腹中枢がないんだって。だから、いつまででも食べ続けるんだ。与えられたら与えられただけ」
「オレみたいでしょ?」
「……そう?」
彼は餌を与えないでください、ってかかれた張り紙の端っこをこよりを作るようにちまちまとつまむ。お坊ちゃんのくせに、手癖が悪いなあ。
きっと彼には、見るもの全てが珍しい。オレは判っててこうして連れて歩いてる。
もっともっと、オレの中まで、知って欲しい。
オレを君の懐に入れてくれるというのなら。
「可愛いよねえ、白ウサギ」
「だから、オレみたいでしょ?」
「君みたいなでかいウサギはいらないよ」
「ひどいなあ」
何をしても満たされない。
何を与えられても満たされない、そんな自分。
「人間はウサギじゃないよ」
「似たようなものでしょ?欲望に最果てはないんだよ」
「でも、シンは違うよ。ウサギじゃない。何を手に入れても満たされないのは、他に欲しいものがあるのを知っていて、ただ、間に合わせのもので自分を誤魔化しているから。それか……」
「それか?」
「欲しいものがないんだ。そんなの、理性的でひどくつまらないと思わない?動物の方がずっと良い」
彼はそう言って、いつものように笑った。
つまらないというくせに、楽しんでいる普段と変わらない。
「人間はウサギ以下なの?それともオレが?」
「人間にもウサギにも欲しいものはあるけど、人はいつか満たされる。というよりも、満たされる瞬間のために生きてるんだから」
それは誰が与えてくれるの?
「満たされるコトって、あるのかな?」
「あるよ」
彼は好奇心からか、ケージの中に指をつっこむ。
その指を、小さなウサギが噛んだ。
「ウサギだって、満たされたから、何度も何度も繰り返す」
「人間も?」
「ホントはね。満たされることを繰り返すために、何度も何度も繰り返す」
指から血が滲んでいた。
オレはその手をケージから引き出す。
「……いいのに」
「ダメだって、餌と間違われて食べられるよ?」
「それなら、それで良いよ」
やはり彼は、いつものように笑った。
オレがウサギなら、彼もウサギだ。
満腹中枢が壊れた、酷く動物的で、身勝手な存在。
ウサギは、ウサギ同士。不毛な生活を続ければいい。
だからオレは、彼の側にいよう。彼が求め続ける限り、彼を護ろう。