Copyright 2006-2008(C) Erina Sakura All rights Reserved
このサイトの著作権は管理人:作倉エリナにあります。禁無断転載・転用
或る夏の日(6 years ago)(天に向かって唾を吐け!【 Spits against heaven ! 】番外その2)
暗闇(P.01/P.03)
オレの持つ、この深い闇を、一体いつ彼に見せようか。
彼のそのときの反応は判っている。彼は必ずオレの持つ闇を受け入れる。そして、その瞬間、オレ達の距離はぐっと縮まる。
判っている。
だけど、それだけじゃだめなんだ。
その縮まる距離感は、まだまだ離れたままだと感じさせないと。
オレとの距離の遠さにもっともっと飢えさせないと。
もう、いつ触れてもおかしくない距離を持続させないと。
だから、タイミングが肝心。
「ユズハ、お前、毎日練習来てるけど、受験勉強は?」
珍しくナギが「一緒に飯でも」なんて言って連れ出すから、何の用かと思ったら、様子見と探りと心配なわけね。
大方、師範に言われて話を切り出したってとこだろう。
だってナギは、判ってる。
「オレにヌカリがあるとでも?」
「……お前、第一志望何処だっけ?」
「S大の文学部」
「……勿論、第一?」
「当然」
「大丈夫なのか」
「良かったら模擬の判定結果も渡すから、師範に見せてくれば?」
「だよなぁ……。お前ってホント感じ悪いっていうか、むかつくよなぁ。どう考えたって受験生の態度じゃねえし。大体、お前が悪いんだぞ。父の目の届く所で『暇だから映画見に行こう』だの、『買物に行くからついてこい』だの言って、いかにも遊んでますって所見せてるから、オレが受験生を誘う悪いヤツに見えるんだ。誘うなら他のヤツにしろよ。他に友達いないのかよ」
「わざわざ他のヤツ誘うより、お前を拉致ってった方が早いし」
「拉致ってってるって判ってんなら、もうちょっと何とかしろよ」
彼はわざとらしく、ため息なんてついて見せる。
彼は判ってるくせに、義理難く、師範のおつかいをこなしたわけだ。かわいいもんだね。
人生が面倒くさくなりそうだけど。
「じゃあ、心配かけたお詫びに面白いことを教えてやろう」
「別にいい。心配なんてしてないし」
「まあ聞け。実は、最近は推薦入試ってヤツが早いらしくてな。なんと試験日が9月末だ」
「……あと一ヶ月じゃねえか!帰って勉強しろ!」
「いや面接と書類選考だけだし」
彼はわかりやすく脱力した。
「……師範に言っとけよ」
「いや今日決まった」
「……そうか」
君に真っ先に報告しているのだと。
その価値を、意味をはっきり理解しろよ。
距離の近さを当たり前にしないでくれ。
「……しかしまあ、そんな話のために、こんな安いファミレス……?お前は人の誘い方を知らんのか?もっと他に店はあったろうが?すぐそこのカフェバーとか」
「男子高生二人で、夕方から、あんなカップルばかりのバーとか行けるか?」
「まあ、しかもナギは中学生くらいにしか見えないし?」
「それ、今関係ないし!てめえが老けてんだよ!」
良好な関係を築けている。オレ自身そう思えるし、端から見てもそう思われているだろう。
オレは、見掛けは綺麗なもんだけど、それ故、誤解もされやすいし、元々人見知りをするナギの、数少ない友人として見られている。それでいい。
でもナギは、大人ぶりすぎて、決して人当たりは悪くないのに、彼自身の持つ壁によって、新しい人間が近づいてくることを拒んでいる。それに一番苦しんでいるのは彼自身。
彼はもっと人との交流を求めているのに、それが出来ないジレンマに悩む。
興味ない他人なんかどうでもいい気がするけれど、彼にはそうもいかないらしい。
「バカだね、お前は」
「なんか言ったか?」
……地獄耳……。
「何も」
「あそ。ならいいけど。明日から学校始まるから、さっさと戻ろう」
夜は始まったばかりですが、なにか?
つか、こいつは……もうちょっと遊びがあっても良かろう?!なんでそんな……。
さすがにへこむよな……。自分に、自分との時間に価値がないみたいで。
「どうせ始業式だけだろうが」
「だって、ずっとここにいたって仕方ないし」
……その上、突き落とすか……?
「いいじゃねえか、もう少し。別に帰って何をするわけでもないし」
オレの言葉に、ナギはため息をついた後、上目使いで睨み付けた。
「いいから、面接近いなら、大人しくしてろ」
あ、そ。そういうこと。
こいつはホントに……。
「なら、もっと言い方があるだろう?心配してるなら、そう言った方がいいときもある」
「オレが言うの?」
「だって、心配してたのはお前だし」
「だから……」
「じゃあ、言い方を変えようか。心配じゃなくて、気遣った。OK?」
「……まあ、じゃあ、気遣った……」
「よし」
まあ、こんなもんかな。
他のヤツに言えて、オレには言えない彼の気持ちもわからないでもないから。
「戻っても別にいいけど?他に行きたいとことかないなら」
「別にない。毎日顔合わせてるのに今更」
ホント、寂しいこと言うよね、コイツは。
「どうせ、明日も迎えに来るんだろ?」
「……迎えに行ってるんじゃない。朝稽古のついでだよ」
「お前、朝めちゃくちゃ弱いくせに、遅刻しまくりのくせに、それでも来るんだ?よっぽど好きなんだな」
「……何が?」
「だから、稽古が」
なに、そのベタなラブコメみたいなふり……。
……頭の中がラブコメに変換されてるのはオレの方か……。恥ずかし過ぎ。
「なんで朝起きられないんだろうな?」
「低血圧なんだよ」
「低血圧と朝弱いのって、実はあまり関係ないって聞いたぞ」
「まあいいじゃんよ、朝弱いくらい」
ナギにはまだわからないかな。
こうして、ありのままの君を受け入れる存在がある。その価値を。その恵まれた自分を。彼はきっとわからない。
子供のころから気を遣いすぎて、頑張り過ぎて、彼にはもう何が何だかわからなくなってる。
オレと一緒にいれば、彼の心が認められない理不尽さに対する反発も、敵と味方を分け、戦うこともできるのだと、何より彼が理解しなければ。
オレは、オレだけは、いやオレだけが、君の側にいられるのだと。
「……来月から、師範代だって、オレ。まだ17なのに」
人の顔も見ずに……いや、見ることが出来ずに、彼はそう呟いた。
ナギには時間が必要なんだ。せっかちなくせに、自分のことを話すのに時間がかかる。「好き」とか「嫌い」とか、簡単に口に出来るくせに、その過程を口にできない。
理由をつけろと言ってるわけじゃないのに、ただ好きなら好きだと、そう言えば良いのに、彼はそれすらもしない。
どうして悩んでいるのか、それに彼は悩む。
そんな彼に、オレの持つこの暗闇を、どのタイミングで見せるべきか。
ホントのことを言うと、それすらもちょっとだけ怖くて、実はかなり楽しい。
「お前さ、何でそんなに地元に残ろうとすんの?もっといいとこ行けるじゃん。3年連続特進クラスで上位キープしといてさ。他の連中はもっといいとこ行くのに」
「……なんで?」
「いや、なんでって……」
「らしくない?」
「そんな失礼なことはさすがに言わないけど」
何を今更失礼とか言ってんだか。
理由なんて、わかりきってるのに。
「人にはそれぞれ事情ってもんがあるの」
「判ってるよ。だからそれを聞いてんだよ」
「道場が、あるだろ?」
「……ああ、そっか」
あの家があれば、君はどこへ行っても、なにがあっても、必ず帰って来るだろ?
「……悪い、家から電話」
「何だよ、オレと出かけるって言ってきたんだろ?」
「言ってきたから、心配してかけてきたんじゃねえの?」
悪戯っぽい笑顔で人を指差す。
時々、そうやって人の気をひくのはずるい。
「電話、でろよ」
妙に義理難いナギは、電話に出ることすらためらう。この距離感とか、彼の礼儀とか、心地よくて嫌いじゃない。
「もしもし、なんだヒジリか。うん、まだユズハといる。良いよ、すぐに戻るから、待ってろ」
……なに、その話の流れ。
「相手はヒジリ?何だって?」
「明日から学校始まるから勉強教えてくれって。大変だな、今どきの小学生は」
「いや、どうかな……」
「まあ、やる気になってるのは良いことだから、オレはもう戻るよ。遊び足らないなら他のヤツ呼べよ」
「……って、おい!!」
それ、意味ないっての……。
しかも、ホントに帰りやがるし。
ナギの姿が見えなくなったのを見計らって、煙草を取り出し、火をつける。あいつの前で吸うと煩いから。
煙草を摘んだまま、顎を人差し指で軽く叩く。クセになってしまっていて、やめたいけどやめられない。しかも、ナギに言われるまで気付かなかったし。
でも、不思議とこうしてる方が考えがまとまる。
何だかヒジリは子供ぶった女みたいで、可愛げがない。いや、可愛げはあるか。計算高くてむかつくだけで。昔はマドイと揃って可愛かったんだけど。マセがきめ。
最近、明らかに敵視されてるしな……。なんだろ。
なんだろ、ってことでもないか。わかりきってる。
オレが邪魔になって来ただけだ。いちいちナギのそばにいるオレが。
ナギの気を惹きたくて仕方がないだけなんだ、あの子は。
ナギは、あの子たちにはどうしようもなく甘いけど、それは、妹だからなのに。
ヒジリは一体、何時それに気付くだろうね。
いちいちこうして邪魔されるのは不愉快だけど、哀れんでやろう。
決して手に入らない餌を吊されたまま、走り続ければいいさ。
関連コンテンツ
>>Spits against heaven ! Charactors(イラストつきキャラ紹介。3部以前に読むとちょっとだけネタバレ)>>warnning! ネタバレ含む、各話サブタイトル+所感(進行形の話のため、結構ネタバレ含みます)