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天に向かって唾を吐け! [Spits against heaven!]

或る夏の日(4 years ago)(天に向かって唾を吐け!【 Spits against heaven ! 】番外その3)


「車を買ってみました☆」

 夏休み。道場のことが気になって、初日に新幹線で戻ってきたら、駅にユズハが待っていた。緑色のミニだった。明らかに新車。
 でもオレ、今日帰って来るとも、新幹線で帰るとも、この時間に来るとも言ってないんですけど?!
 いや、もう、ユズハには何も突っ込んじゃダメだ。なんかよく判んないけど、コイツはとにかく無茶苦茶だ。言いたかないけど、こう言うとき、なんかすごい。

「なんだよ、わざわざ迎えに来てやったのに、嬉しそうにしろ」
「……いや。うん。つーか、見せびらかしに来ただけ?」
「そう言うこと。かっこいいだろ?!」
「まだビニールついてるし!だっせえ!!」

 神経質なのがユズハらしいというか。コイツのことだから、別のカバーを買うまで絶対はずさないな。

「五月蠅いな。今からカバーを買いに行こうと思ってたんだよ。良いから隣に乗れ」

 ほらね。細かいんだよな。
 まあ、つきあい長いし、慣れてるし、気にならないから良いけど。

「……いや、その……荷物が」
「なんだよ」

 ユズハが迎えに来てるとは思ってなかったから……。
 オレの後ろに男を見つけて、顔色が変わった。

「あれ、この人ナギのおうちの人?わざわざ迎えに来てくれたの?」
「いや、お向かいさん。うちの門下生だよ。田所柚葉。S大の2年生。ユズハ、コイツは……」

 ユズハがあからさまに嫌そうな顔をしているので、一瞬、紹介するのを躊躇った。

「……打田規人。オレはノンて呼んでるんだけど。大学の友達でGDの1年生」

 オレがしどろもどろになりながら、遠慮がちに紹介しているにも関わらず、ノンはずいっと前に出て、営業スマイルをユズハに見せた。
 そして、いつものようにずた袋のようなカバンから名刺ケースを出して、両手で彼に渡す。

「上野で劇団ネオロマンを主宰しています、打田です。よろしく」
「……田所です」

 本人は完璧な営業スマイルのつもりかもしれないが、あからさまにユズハの顔は引きつっていた。人が友達紹介してんだから、もうちょっといい顔出来ないのか、コイツは。

「人を連れてくるなんて聞いてないぞ?」

 ノンの名刺を持ったまま、オレに耳打ちをするユズハ。つーか、そもそもお前には帰ることも連絡してませんが、何か。
 この神経質男が、新車に見ず知らずの奴を乗せるとは思えんな……。

「迎えにきといてもらって悪いけど、オレ達バスで……」
「良いよ、乗ってけば。どうせ同じ方向に行くことになるんだから」

 ……笑顔恐!!

「どうぞ、打田さん。後ろで申し訳ないですけど」
「あ、そうですか、悪いなあ。明日には帰るんで、お構いなく。田所さんも合気道を?」
「……ええ」

 よかった。ノンにはユズハが不機嫌なのはばれてないみたいだ。オレにはあの笑顔は最高に気持ち悪いんだけど。
 ユズハの機嫌が変わらないうちに、車に乗り込む。

「実家が合気道の道場で、師範代やってるって言う話をしたら、見に行きたいって言い出してさ。明日からまた上野で練習始まるから、またにしろって言ったんだけど、付いて来ちゃったんだよ」
「そんな邪険にしなくても良いじゃんよ。あのな、ナギ。またにしろって言って、またの機会があった試しはこの世の中にはないんだよ?」

 ノンの言葉に、何故か運転してるユズハが頷いていた。……ホントは機嫌悪くないとか?

「良いけどさ。ビデオカメラまで持って来ちゃってさ。珍しい。どうしたんだよ、それ」
「浪人中の友達に借りた。木津ってヤツなんだけど。うちの劇団のビデオも撮ってくれてるからさ」
「ふうん、撮影とかしてんだ」
「チェック用と記録用だな。PRにも使ってるし。練習風景とか、町並みとかとらせてもらおうと思って」
「練習風景は、師範に確認してからだな。撮ってどうすんだ?」
「今度の劇の背景に使おうと思って」

 ノンは劇の話をするとき、本当に楽しそうにしている。そんな様子を見ているのも、その仲間に入れてもらえている錯覚を感じるくらい話をするのも、オレは好きだった。
 ……オレは、……好きなんだけどね。

「……ユズハ、顔が怖いんですけど」
「そんなことはない」
「いや、そんなことあるって」

 彼は自分のテリトリー内で、知らないヤツが騒いでいるのを嫌う。正直、ユズハが運転してくれて、助かった。あんまり他のヤツは気付かないけど、こう言うときのユズハはホントに感じが悪い。図体ばっかでかくて、甘ったれたガキでしかないんだ、コイツは。
 昔、コイツに会ったころから、何も変わっちゃいないんだ。

「ついたぞ。降りろよ。オレは車しまってくるから」

 オレとノンに笑顔でそう伝えるユズハ。ホントに怖いな、コイツの笑顔は。

「おわ!でかいな、お前んち!!お向かいさんてことは、こっちのでかい家が田所さんち?!」

 ユズハが車庫に車を入れてるところを見ながら叫んでいた。まあ、ユズハの所は母親が医者の上、良いとこのお嬢さんらしいし。

「うちは道場がでかいだけだよ。ユズハはボンボンだけど」
「ナギの話だと、頭もよくて、運動も出来て、道場でも一、二を争う強さってことだろ?それであの容姿で、さらにぼっちゃまっすか!?愛想もいいし、もてそうだな……」
「図体でかいだけの、腹黒で、根性曲がりで、甘ったれのガキだよ。スペックが良いだけだって。顔だってフツーだし。浮いた話とか聞いたことないし。サークルの連中に合コンに誘われたりはしてるみたいだけど」
「そうかあ?自分を基準に考えちゃいかんよ、お前は。……まあ、ナギも顔と成績だけはイイからねえ。身長と性格はあれだけど」
「だけって!?身長も性格も充分だって!!」
「いやあ?」

 不愉快な!オレだって浮いた話の一つや二つ……無いけど。

「絵になりそうだな。ちょっと練習風景見学させてよ。出来たら、あの人をメインに撮りたいな。強くて、容姿も良いなら、ベターな素材じゃない?」
「そうかあ?フツーじゃん。それに……、あいつ、そう言うの絶対嫌がるぞ。さっきだって、オレ達の話なんかほとんど聞いてなかったし」
「そうなの?」
「そうなの。そう言うヤツなの。外面良いから騙されてるだけだって」
「誰の外面が良いって?」
「お前だよ!いきなり後ろに立ってんじゃねえ!!」

 あー、びっくりした。気配殺して後ろに立ってんだもんな、ユズハのヤツ。

「座席のカバーを買いに行くんじゃなかったのかよ」
「お前、つき合ってくれるんだろ?」
「そんなこと言ったっけ?」
「多分言った」
「多分て?!」

 オレ達の様子を見ながら、ノンが爆笑していた。意味わかんねえし。

「何がそんなに面白いんだよ?」
「別に?それより、道場案内してくれよ」

 まだ笑っていた。なんかむかつくなあ、もう。しかたなくオレはノンを案内するため、先に立って道場の門を開ける。その横にユズハが並ぶ。

「……ま、今日一日のことだし?」

 人の悪い笑顔を向け、オレにだけ聞こえるように囁いた。
 聞かなかったことにしよう……。
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 >>warnning! ネタバレ含む、各話サブタイトル+所感(進行形の話のため、結構ネタバレ含みます)
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