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第25話 エイイチロウ
軒下でびしょぬれになっていた男は、黒いストロー素材のチロリアンハット、黒地に赤い牡丹が描かれたガーゼのシャツ、黒の斜めがけバッグ、黒の綿パン、黒のレザースニーカー……と全身黒ずくめだった。無精ひげを生やし、首から小さなビデオカメラを下げていた。
「ナギ、何か拭くものちょうだい。カメラが壊れちまう」
「て言うか、そんなびしょぬれのまま上がろうとすんな!畳が濡れる!カナタ!タオル持ってこい!エーチロはちゃんと入口に行け!窓に足かけない!!」
エーチロと呼ばれた男は行動全てを突っ込まれ、渋々軒を伝って武道場の入口に向かった。
「何なんだよ、なんで親しげなの?二人!!」
「てか、今お前、エーチロのこと兄貴って呼んだ?てか、お前、名字なんだっけ?」
「木津だよ。どんな忘れっぽさだ!あれは木津詠一郎!うちのバカ兄貴!!知り合い?!」
「んーと、学部時代の飲み友達。世間って狭いなー。あいつ、弟なんかいたんだ」
じろじろと眺められ、ため息をつくエイジ。入口からカナタと一緒に、カメラを拭きながらエイイチロウが入ってきた。
「……拭いてから上がって来いよ」
「相変わらずこうるせえな、ナギは。カメラの方が大事だっつーの。あー、テープとかダメになってねえだろな……あと8mm!!」
エイイチロウ本人よりは濡れていないバッグを、道場の真ん中でひろげ始める。嫌そうな顔だが、それ以上は言っても無駄と知っているのか、ナギはなにも言わなかった。
「しかし似てねえ兄弟だな」
しみじみそう言うナギにエイイチロウが反論する。
「それ、たんにナギがオレの名字とか知らなかっただけじゃないか?名前もちゃんと言えないし。うちの研究室に来ては『エーチロはどこだー』って。誰だよって感じ。おかげでみんながそう呼ぶようになっちまって」
「良いじゃねえか。オレ、これでも先輩だぞ?」
「同じ年じゃん。専攻違うし。そういやコトコさんから聞いて知ってはいたんだけど……何でここの院とか入ってんの?何でうちの弟と知り合い?」
「まあ、いろいろあってな……。それより、コトコと連絡とってたの?」
「うん。こないだ実家に寄ったから、そん時に。せっかく近くに来たからさ。椿山にいるのは知ってたし。そん時ナギにも連絡しようと思ったんだけど、携帯の電池切れちゃってさ」
カバンから8mmカメラを取り出し、丁寧に拭いていた。見かねたエイジがもう一本タオルを持ってきて、兄の頭に乗せた。
「充電すりゃいいじゃん」
突然電話してきて、突然音信不通の兄に、あきれ笑顔のエイジ。
「だって、野宿しながらカブで移動してたんだぞ?どこでするんだよ。金もねえのに」
「どうやってここに入ってきたんだ。学園内は関係者以外立入禁止だろうが。学園どころか、寮のある敷地からもう入れねえだろうが、相当五月蠅いぞ、ここは」
ナギはマドイ達を追って何度も足を運んだが、そのたびに門前払いを食らっていた。だからそれはよく判っている。
「忍び込んだ」
「……どこから?」
「内緒。秘密の入口があるんだなー、ここ。ちょっとエイジを驚かせてやろうと思ってさ。3年ぶりだし」
「3年ぶり?!」
眉間にしわを寄せ、木津兄弟を交互に睨むナギ。それがいやで、エイジはわざとナギの横に移動して、あぐらをかいた。
「T大に入ってたのすら知らなかったよ。もしかして、それでこないだ突然電話なんか……?」
以前、エイジの部屋にいたときに彼から電話があったことを思い出すカナタ。
「エイジのお兄さんて中等部まで椿山で、その後、外に出たって聞きましたけどT大なんですね?ナギさんと同じ建築だったんですか?」
「いや。オレは視覚伝達デザインって所の4年。休学中だけどな。……でっかいね、君」
「……計算あわねえし」
兄を睨み付けながら突っ込むエイジ。隣でカナタが苦笑いしてる。
「しょうがねえじゃん、1浪してるし」
あと1年9ヶ月休学できるぞ、なんて冗談ぽく言ったエイイチロウに、ナギが釘を差す。
「2留プラス2年休学で、計8年まで大学にいられるって、大学に入ってすぐに教授に言われたから、あと2留1休学するつもりか?金出させといて何やってんだか」
やれやれ、と言った感じでわざと大きく肩をすくめてみせるエイイチロウ。
「で、何してたんだ?……えっと、合気道の師範代だっけ?ナギって。だからその黒帯は判るけど……お前、何やってんの?」
「習ってたんだよ。その、合気道を」
「そーだな、その無駄にでかい体格を存分に生かした方がいいよな。うん、そうかそうか」
笑顔でそう言う兄がカンに触ったエイジ。
「……兄貴面すんな」
「あいかわらず可愛気がないねーうちの愚弟は。ひねてんだろ?コイツ、な?な?」
「そうだな……エーチロ……。でも、コイツが偏屈で偏っててひねくれてる理由が、ちょっとだけ判ったような気がするよ、オレは……」
エイジには、ナギの隣でカナタまで頷いていたのが、ショックだった。
しかし、エイイチロウは自分のことだと思っているのかいないのか、3脚をカバンからだし足を伸ばし、首から下げていたカメラを設置する。
「何やってんだよ、兄貴」
「いや、ちょっと袴はいてるナギを撮っとこうと思って」
「……意味判んないし」
ナギは慣れてるのか、ノーコメント。しかし、カメラの方を向くことはない。
「そういやエイジって、もしかしてコトコさんの生徒なわけ?」
「そうだけど。……そっか、梶谷先生もT大だから……」
「あん人は同じ専攻の先輩だったんだ。何か変な感じだな。まあ、初めて話したときも驚いたけど。椿山出身だって言ってたから。あの人、高校までここいたらしいし。大抵はそのまま持ち上がりか、ドロップアウトだからな、ここの美術科は。……ま、だからオレは高校は別の所に行ったんだけど」
「だったら、もっと話、聞いときゃよかった」
大学を出るときには、もうここに来ることは決めていた。
「何言ってんだよ、ナギと飲んでたときもその話してたって。てか、お前は絶対T大の院に行くかと思ってたのに。残念。ただで撮れて、こんなに良い動きする綺麗な素材、なかなかいないのに……。カメラ映えするんだよなー……」
「うるせえな、『女だったらよかったのに』って文句言いながら撮ってたじゃねえか。……あー、でも、お前が撮ってたヤツって、みんなもう大学出ちゃったのか?」
「そうそう。お前らが卒制のころから、後輩とかに頼んでたんだけどな。なかなかね。コイツを撮りたいって言うのがいなくてさ……。やっぱ、華がねえとな」
「そんなこと大声で言ってっから、変なとこで敵作るんだよ。『人物に頼りすぎで映像そのものは……』とか、『何がしたいか判らない』とか」
「学生同士で文句つけあってるだけで、何言ってんだか?って感じだろ?そんなんいちいち聞いてらんねえって。でもまあ、映画は芸術だけどショートムービーは買い上げ出来ねえとか言ってた時代のことを思えば……」
「だから、結局一体何しに来たんだよ、兄貴は!つーか、休学までして何してんだよ?!」
ナギがしていたように、畳を叩いてエイイチロウを怒鳴りつけるエイジ。
「……カブで日本一周したあと、カンボジアに行こうかと……」
「意味わかんねえ!」
「旅の途中?」
「何で疑問型なんだよ!」
「……仲悪いのか?お前ら??」
いつもより大声で怒鳴るエイジに、ちょっと引き気味に突っ込むナギ。カナタに至っては、驚きすぎて口が開いていた。
「仲がいいとか悪いとかの次元じゃねえって。コイツは昔っからこんな感じだって。こんなにでっかくはなかったけど」
怒鳴られ慣れてるのか、エイイチロウは笑っていた。このマイペースっぷりが、エイジの突っ込み体質を作ったのかとカナタなどは思う。
「ナギさん、そろそろオレ達戻らないといけないんで。雨もやんできましたし」
「ああ、そうか。もうそんな時間か」
壁に掛けられた時計は、もう7時50分を過ぎていた。高校生のカナタとエイジは、校門を出なければならない。
「そういや腹減ったなー。簡単なモンになるけど、お前らもくる?」
もちろん、笑顔で答えるカナタとエイジ。完全に餌付けされていた。
「……ナギ、オレは?」
「え?帰るんじゃねえの?挨拶だけで」
冷たいナギの一言も、力つきるエイイチロウも、ビデオカメラは撮り続けていた。
「てか、兄弟で美術やってんのもすげえな。親がそういうのやってたの?」
焼酎を飲みながらエイイチロウに笑顔で聞くナギ。時計は既に11時を指していた。
一緒に夕食を食べたカナタとエイジは、先に寮へ戻っていた。
部屋の真ん中に置かれたテーブルがわりのローボードに酒を並べ、床に座って叫ぶように笑っていた。
「いや……親は全然?オレが椿山にいたころはエイジもまだ小さくて可愛くてさ、オレが映画ばっか見てた横にずっと一緒にいたんだよ。で、オレがさ、映画を一通り見たら、その後気に入ったヤツを何度でも見んの。で、それも一緒に見んの。で、オレは映画作りたくて美大入ろうと思って、外を受験したんだわ。……その影響じゃねえ?」
「えー?お前、キューブリックとか好きだっつってたじゃん」
「中学生くらいの時に『フルメタルジャケット』とか見てたな。前半のハートマン大佐が訓練生ずらっと並べて下ネタ満載に躾けてるシーンとか好きでさ」
「よく考えなくても、まだ1ケタのガキにそんなもん見せんなよ……。だからひねくれるんだよ。ぜってえ『サー、イエッサー!』とか言わせていじめてただろ」
「やったやった。でも、ちゃんと『2001年宇宙への旅』とかも見せてたし。……?あ、お帰りなさい。おじゃましてます」
エイイチロウの言葉にナギが後ろを振り返る。
後ろにユズハが立っていた。
「ナギ、この人誰?」
「エイイチロウは笑顔だったじゃん。挨拶もしたじゃん。何で喧嘩腰なんだよ」
ユズハは無言で、持ってたコンビニの袋をナギに渡し、エイイチロウとナギの間に座った。
「あ……お前、仲間はずれにされてひがんでるのか、もしかして!?」
「違うっつーの!!そうじゃなくて、誰だよ。ここはオレの部屋でもあるんだぞ?」
「学部時代の飲み仲間で、木津の兄貴。エーチロだ」
「エイイチロウだよ。ちゃんと言え、ちゃんと。間違えて覚えられたらどうすんだよ。てか、でっかい人だな……細っこくて武道家って感じはしないけど。何、この人やっぱ体育学部の人?」
「いや、文学部。一応年上だから、こう見えても」
学部時代の友人と話すときのナギには、なんの足枷もなく、ただただ楽しそうだった。その笑顔が気に入らないユズハ。
「おっ、鍛高譚。うまいよなー。芋も良いけどやっぱ紫蘇だなー。ナギ、こればっかだもんな。ワインだとすぐ悪酔いするし」
そう言って、隣に座るユズハの顔を見上げ、笑顔を作った。
「ナギのために買ってきたんですね」
「……いや。……オレが飲みたいから」
ナギもユズハを見上げる。両側から見上げられ、戸惑うユズハ。
「うちの愚弟がお世話になってるようで」
「いや、オレは別に……ナギが……」
「ナギが東京にいたころ、お噂はかねがね。あんまり田所さんの話ばかりするから、どんな人かなあって」
「そんなに何も……」
と反論しようとしたところを、エイイチロウは謎のジェスチャーでくい止める。
「いいっすよねー、同居人が料理うまいと。ナギの料理って初めて食ったけど、田所さんは毎日食べてんですよね」
「いや、勝手に作るから……」
「ていうか、初めてじゃないじゃん……」
嫌な顔して小声で呟くナギ。完璧な営業スマイルのエイイチロウに引いていた。
「良いですね、この寮。寮長いなくて。他の部屋も大学生ばっかだし」
「あんまりよくはないけどね」
同じ寮には第1ステージでぶつかったタケルがいた。玄関で会うたびに気まずい。
「……今日、泊まって良い?」
「だめ」
猫なで声で言っては見たが、ユズハは笑顔ではっきりノー。
「床で良いから!あと朝ご飯だけ!」
「だめ」
やっぱり笑顔で断るユズハ。喧嘩腰の時より質が悪いんじゃないかと思ってナギは反論する。
「いいじゃん、床でいいっつってんだし。明日には出てくんだから、今夜くらい。お前、神経質過ぎんぞ。一晩くらいいいじゃん別に」
「やだ。知らない人が部屋にいると寝れないし。お前らどうせずっとそうやって飲んでんだろうが?」
「ホントにお前、人を部屋に入れるの嫌がるよな。意味わかんねえし。そりゃ、エーチロはお前から見たら知らない人だけど」
「やなモンはやだ」
「子供かお前は!!……てか、もう良い。こんなヤツの許可を取る必要なし!オレのベッド貸してやるから、エーチロはそこで寝ろ。オレはソファで寝る。それでベッドの所にカーテン引いとけばいいだろ?」
「お前なー!!」
血管が切れそうなテンションで怒鳴りあう二人に、少しだけ申し訳ない気がしていたが、寝床確保のためと思い、黙ってるエイイチロウ。
実はしばらくナギの所に転がり込むつもりだったが、思ったよりユズハは手強かった。怒鳴りあい、罵りあう二人を彼はじっと観察していた。二人の気が済むまで、そこにいないかのように、じっと。
時計の針が2時を指し示したとき、扉をノックする音が聞こえる。未だに罵りあうナギとユズハは気づきもしない。
仕方がないのでエイイチロウが扉を開けることにした。
「うるせえよ!あんたら!何時だと思ってんだ!こっちは朝練があるから……」
『先輩を敬え!!』
怒鳴り込んできたタケルに、鏡あわせのポーズで二人揃ってびしっと指さした。
「君は武道をやってるくせに、目上の者を敬うってことを知らないのか?全く、なってないな。だから簡単に負けるんだ」
「まったくだ。自分の弱さを人にきつく当たることで誤魔化そうだなんて、精神の鍛錬が足らない証拠だ。鍛え直してやろうか!?」
「う……うるせえよ!一回勝ったくらいで偉そうにしやがって!次当たったら覚えてやがれ!つーか、静かにして寝ろよ!ダメな大人だな!」
扉を勢いよく閉め、自分の部屋へ戻っていった。
「あのガキャー、うっせえな、まったく」
「いや、ナギ達も相当五月蠅いよ?よくもまあ、2時間も怒鳴ってられるよな。てか、勝ったとか負けたとか……ケンカでもしたのか、さっきの太いのと」
『……別に』
二人揃って誤魔化すナギとユズハ。エイイチロウはその様子を見て唇の端を上げる。
「そろそろ寝ましょうか。オレ、カブで移動してきて疲れたし」
何事もなかったかのようにナギのベッドに入るエイイチロウ。
「……木津くん、オレはまだ良いとは……」
「明日、よかったら一緒に茶でも飲みましょうよ。ナギの学部時代のビデオとか見せますから」
「……び……ビデオ?」
「ちょっと待て、何見せようとしてやがる!エーチロ!どれ?!どれのこと?!」
「おやすみー」
笑顔でカーテンを引き、電気を消した。まだテーブルも片づいてないし、ナギ達は立ったままだけど。
「……ビデオ?」
暗闇の中、手探りでナギの頭をこづくユズハ。
「いや……その……知り合いに見られると、恥ずかしいつーか……その……」
「オレ、田所さんと仲良くなりたいって言うかー。な、ナギ?」
ナギとユズハの会話に、ベッドからエイイチロウが棒読みで割り込んだ。
「いや、仲良くは良いけどさ……それは別に好きにすれば。でも、オレのビデオ、関係なくない?」
エイイチロウはナギの言葉を無視。
ユズハがナギの頭を撫でたり叩いたりしていた。
「なに撮った……?まさかエ……」
「するか!」
叫びながら、ユズハをベッドに蹴り飛ばした。
ナギはいつものように7時半には朝食を作り終わっていた。今日は3人分。
食べ終わり、コーヒーを飲みながら新聞を読む。
「……そうしてると、まるでちっこいおっさんだな。超和食だし!せっかく美形なのに……アイドル顔なのに……」
「うるせえよ!ユズハみたいなこと言ってるんじゃない!つーか黙って撮るな!」
エイイチロウも朝は早いらしく、既に起きてビデオカメラをまわしていた。
「良いから、さっさと食え。冷めないうちに」
「田所さんは良いのか?」
「いい。あいつ朝遅いから」
「起こしたりとかは?」
「何でオレがそんなコトしなきゃいかんのだ?ただの同居人に」
朝食まで用意してるのに?と疑問に思ったが、それが生活習慣の違う者同士が同居する術なのかと思って、無理矢理納得することにしたエイイチロウ。新聞を読むナギの向かいに座り、用意された朝食を食べる。
「あ、そうだ。なんか机の下に封筒みたいなの落ちてたぞ。昨日渡そうと思ったら田所さん帰ってきたからさ。あ、封は開けてないぞ。ただ、忘れるといけないと思って」
そう言ってエイイチロウがナギに差し出したのは黒い封筒と青い封筒だった。上に乗ってしまったらしく、ぐしゃぐしゃになっていた。
「……黒……」
「黒?オレのかっこ?」
「あ、いや、何でもない」
黒い封筒はユズハあてだ。ホントかどうか知らないけれど、今までは明らかにそのように来ていた。せめて宛名を書いてくれたらよかったのに。しかし、2通同時に来ていることから、そうだと思って間違いない。
「……どこに落ちてた?」
「だから、部屋の真ん中の机の下。あ、悪い……もしかして、田所さんのか?」
「……いや」
まず黒い封筒の封を開け、中を確認する。
『役割を間違えてはいけない。君はただあの生け贄を、天に昇る塔へ捧げる祭司として、その手を汚し続けろ。君の価値はそれだけだ』
「それだけ……」
『……『彼は、生け贄にふさわしい』って……。オレは、この生け贄って言うのは、お前のことだと思う。青いカードがお前宛てで……色を変えることで、ターゲットを明らかにしたこの黒いカードはおそらくオレ宛だ。だからこの生け贄はオレじゃない。生け贄は甘い言葉で誘うに限るし』
その時のユズハの顔は、今でも忘れられない。彼が決して口にしなかった思いが伝わってくる。
青いカードもとりだし、見比べた。
『君が進む天に昇る塔が、人々の手で作られる』
ユズハの言葉の意味を、はっきりと理解する。彼はそのあと否定をしたけれど、その否定がナギに確信させる。
黒と青のカードは明らかに違う。青いカードは餌、黒いカードは警告であり挑戦状だ。
青いカードは生け贄である自分を『天に昇る塔』へおびき寄せ、黒いカードは祭司である彼を誘導し、警告するためのモノ。
「……いま何時?」
「8時10分。アトリエ開くの何時よ?」
「学生駐車場の裏門が8時半。職員は7時半には来てるから。いや……今日は別に集まるわけじゃないから良いんだけど……。あと40分て所だな」
「何が?バイト?」
「エーチロ、ちょっと頼みがあるんだけど」
思い詰めたような笑顔で、黒いカードをひらつかせた。
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